第2回 ストレス要因の難聴、加齢性難聴…それぞれの対策
2024/10/21 荒川直樹=科学ライター
耳を守るには、「内耳」の働きをよく理解して対処することが大切だ。今回は、聞こえにくさの改善に役立つ体操や呼吸法、内耳の血管老化を防ぐ生活習慣の改善について紹介。このほか、自宅でも簡単にできる聴力チェック法や、知らないと危ない「耳掃除の新常識」も見ていく。
『健康長寿につながる耳の守り方』 特集の内容
第1回 甘く見てはいけない耳の不調 認知症を高める最大のリスクは「難聴」
第2回 「もしかして難聴?」は放置しない 耳ねじり体操と生活改善←今回
第3回 聴力低下のサインを見逃すな 早期の補聴器デビューほど脳になじむ
ストレス対策と血管の負担を減らす生活習慣で耳を守る
私たちが音を捉えるときは、外から入ってきた音が鼓膜を振動させ、その振動が中耳にある3つの骨を経て内耳に伝わる。内耳にはカタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)という音を捉えるための重要な領域がある。蝸牛の中はリンパ液で満たされ、内側は数十万の有毛細胞で覆われている。有毛細胞が音の振動をキャッチし、脳に伝えるのだ。
聴力低下の多くは、有毛細胞の働きが妨げられることで起こる。内耳は大豆ほどの大きさの器官で観察が難しいため、有毛細胞の働きを妨げるメカニズムは長い間分かっていなかった。そんな中、全容解明につながる研究を続けてきたのがJCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則氏だ。
石井氏が注目したのは内耳に血液や栄養を送る微細な血管。この血管に大きな影響を与えるのがストレスと生活習慣だという。2つの要因に対する対処が「耳を守る」ことにつながると言っていい。
耳を守る2つの対策
- ストレスを回避、または減らす
- 生活習慣の改善を徹底する
聴力低下が起きる原因とは?
まずはストレスの影響から見ていく。ストレスを感じるとどのようにして聴力の低下が引き起こされるのだろうか。
「強いストレスを感じると脳の中の自律神経ネットワーク(CAN)が興奮し、自律神経の一つである交感神経が活発化します。それが異常に興奮しすぎると内耳の微細な血管に炎症が起こることがあり、結果として血管の透過性が増し、ますますカリウムイオンや炎症性タンパクが内耳の周囲に漏れてきます。すると、内耳中のリンパ液の圧が上がり、有毛細胞の情報を伝える機能が妨げられる可能性があるのです」と石井氏は解説する。
これが第1回で取り上げた低音部型難聴、メニエール病による難聴の主な発症の要因かもしれないと石井氏は考えている。これらの難聴は初期であれば一時的なことがあり、薬物治療をしながら安静にしていれば有毛細胞の働きは回復する可能性がある。しかし、診断や治療が遅れると聴力低下が残ってしまう。
だから難聴対策でも、早期発見、早期治療が重要になる。症状がなかなか改善しない場合や再発予防には、この後説明するストレス解消につながる体操などが効果的だという。
回復せずに困っていた急性難聴が、簡単な体操で改善
石井氏は、内耳機能の基礎的な研究と豊富な臨床経験を基に、ストレス解消法の一つとして様々な体操や呼吸法を提案してきた。特に低音部型難聴、メニエール病などは発症の要因として特にストレスの影響が大きいため、薬物治療以上の効果をもたらすこともあるという。以下はその一例だ。
【中高年の教職員Aさん(女性)】
Aさんが勤めている学校は、ストレスが多い職場だった。Aさんは度重なる残業や児童の家族への対応などに強いストレスを感じていた。そんなある日、耳がつまった感じが続き、近くの耳鼻咽喉科を受診した。診断結果は、急性の低音部型難聴。医師の処方に従って3カ月間、3種類の薬を飲み続けていたが症状が改善することはなかった。
そんなAさんはセカンドオピニオンを受けるため、石井氏の元を訪れた。そこで石井氏は「私が紹介する体操や呼吸法のうち、自分で快適にできそうなものを試してみて」とアドバイスした。Aさんはその通りに、耳をねじって引っ張る体操などを実践。すると、2週間ほどで症状が大幅に改善した。
「この事例では、発症後すぐに耳鼻咽喉科を受診したことが幸いしました。処方された薬の効果が表れ始めたときにタイミングよく私が診たのかもしれませんが、このように体操や呼吸法で積極的にストレス解消に努めることで症状が改善する人は少なくありません」と石井氏は話す。
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