上方落語界の重鎮、桂福団治さん(83)は手話落語の生みの親でもある。
「日本手話落語協会」の会長を担う福団治さんは「聴覚障害者本人が手話落語に挑戦することで、演じることの楽しさを感じられるようになれば」と願う。【聞き手・山口桂子】
――手話落語を始めたきっかけは。
◆声帯ポリープを患って声が出なくなった時に「聴覚芸」の落語を「視覚芸」に作り替えて活動できないかと思い、まず手話を覚えました。
日本の伝統芸である古典落語を視覚言語の手話で伝えるため、中身を膨らませて、見るだけでも理解でき、楽しむことができたら、と思ったんです。
――観客の反応は。
◆手話落語を始めた頃、手話落語の公演後に聴覚障害の男の子とその母親が、楽屋に来てくれたことがありました。
男の子は「面白い」という気持ちを伝えられず、糸がほつれてしまうほど母親の裾を引っ張っていて、我が子の喜ぶ姿に母親が感動して涙をこぼされました。
「やってよかった」と思いました。
――手話落語の魅力は。
◆男の子の話からも分かるように「笑い」で健常者と聴覚障害者が通じ合えることだと思っています。
大げさかもしれませんが、障害という壁を取っ払うことができると感じます。
古典落語の笑いの文化を垣根なく楽しめる「笑いのバリアフリー」ですね。
視覚芸になったことで、届かなかった人たちにとっての娯楽にできたことがうれしい。
――手話パフォーマンス甲子園で熊本聾学校の「手話落語部」が優勝しました。
◆本当にうれしい。
半世紀近くやってきて変わったと感じるのは、障害者が「見せてもらう側」から「見せる側、演じる側」になったことです。
手話落語の弟子は現在12人。
うち聴覚障害者は7人います。
プロも1人育て上げました。
ぎょうさん誕生してくれて、やりがいを感じています。
それと同時に、熊本の高校生のように、演じることの楽しさを当事者が感じられるようになったことがうれしく、私が望んできたことです。
――今後の展望は。
◆高校生の話を聞いて、また一段と意欲が湧きましたわ。
もう私も83歳ですが、まだまだやろうと思えました。
生きる活力になっています。
もっともっと手話落語を広げたい。
手話落語を通じて、健常者は手話という言語を知るきっかけになり、聴覚障害者には落語の笑いの文化を日常の中に取り入れてもらうことで、それぞれが豊かになる。
いずれ障害者が「喜ばせる側」として、テレビなどに普通に出演する時代になってほしいと願っています。
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