「弱者というアイデンティティをエゴの実現に利用する論—なぜ車椅子インフルエンサーは車椅子クレーマーになったのか[中編]」の続きです。
難聴うさぎが紹介する最新機器
医学や機器によって障害者の生活が変化してきたのは聴覚障害でも同じです。これこそがもっとも「ありがたさの重荷」を軽減させる方法だと私は思ってます。
難聴うさぎさんは、聴覚障害者だけでなく、他の障害者とのコラボをやっていて、車椅子利用者もよく登場していています。その辺はあんまり観てないですが、機器を取り上げている時は観ます。彼女は、骨伝導集音器nezuの開発に関わっていて、この動画はnezuのヴァージョン2をいろんな人に試してもらっている1年前のシリーズです(現在はさらにヴァージョンアップ)。このシリーズは面白くて観てました。
この回は前に「ビバノン」でも取り上げたクロエさんです。彼女は難聴2級です。1級と2級が聾(ろう)です。相当に大きな音じゃないと聞こえず、聞こえても音の意味を聞き分けることまではできないレベル。その彼女が初めてnezuを使った時の様子です。
本人は驚いていますが、これだけだと、第三者はどこまで聞こえているのか判断できません。生まれつきの2級だと、音と言葉の関係がわからないので、聞こえていても意味がわからないことが起きます。
また、神経や脳の障害で聞こえない場合は、骨伝導で拾った音を認識できないので、効果ゼロもあり得ます。それをさまざまな聴覚障害者に試してもらっています。
障害者は必ずしも新しい機器に関心を抱いてない
いくら機器が発展しても、改善できないことはあり得ます。
このことが機器の発展に対する障害者の姿勢の幅にもなっています。難聴ウサギさんの動画を見ていても、nezuのことをまったく知らない聴覚障害者がいます。関心を持ったところで自分にとって効果があるとは限らないということもありますし、いちいち期待しても、そういった機器は決して安くないので、簡単には買えません。その点、nezuは比較的安いのもいいところですけど、それも知る機会がなければどうしようもない。
機器の発展に障害者は過度の期待をしないことも紅葉さんに教えられました。BMIの発展でいつか目が見えるようになる日が来ると想像すると心躍りますが、紅葉さんはさしたる興味がないようでした。ざっとまとめると、「目が見えない状態を前提にして何十年も生きてきたので、今さらそんなことを言われても」って感じです。
例えば「今履いている靴より10パーセントジャンプ力がアップする靴が開発されて、来年には30万円で発売される」と知ったら、スポーツをやっている人の中には歓喜するのがいても、そうじゃなければ「今の靴に十分満足してる」「同じ値段だったら考えるけど、30万は出せない」という反応になります。
晴眼者は目が見えないのはとてつもなく不便だと思いますが、視覚障害者は見えない状態から始まって、その不便さをある程度克服してきてます。どうせとんでもなく高額なものになるので、いくら関心を持ったところで買えるわけはない。仮に関心を抱いたところで、自分にとっては効果がまったくない可能性もありますから、期待が裏切られます。
とくに年配の人たちにとっては、その機器を使いこなせない可能性があります。音声読み込み機能を使えていない高齢の視覚障害者もいるでしょう。
✳︎nezuを発売している神戸ソリッドソニックのサイトより
新しい機器に関心を抱かせる意義
聴覚障害者の場合も同様のことがたぶんあるでしょう。その点で、難聴うさぎさんが新しい機器を取り上げて、聴覚障害者に関心を持たせることには大いに意義があります。
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