「手話の豊かさ」知るきっかけに 熊本在住のろう者が本に込めた思い

「手話の豊かさ」知るきっかけに 熊本在住のろう者が本に込めた思い

写真家、文筆家など多彩な顔を持つろう者の斎藤陽道(はるみち)さん(40)=熊本市東区=が「よっちぼっち」(暮しの手帖社・2200円)を出版した。ろう学校で出会った妻まなみさん(37)、聞こえない両親の元に生まれた「CODA(コーダ)」と呼ばれる耳の聞こえる長男樹(いつき)さん(8)、次男畔(ほとり)さん(5)との4人の日々を、写真とともに描いた。【田中泰義】

書名は、4人のひとりぼっちが集まったという意味の造語だ。どんなに親しい間柄でも通じ合えない面があるからこそ、手を延ばし心を傾けようとする思いを込めた。

陽道さんは1983年東京都生まれ。生まれつき耳が聞こえず、親とうまく意思疎通を図れなかった。通常学校に通い、聞こえることを前提とした社会に疑問と孤独を感じた。

進学した都内のろう学校で手話に出合うと、新たな世界が広がり始めた。ただ、その手話の様子をカメラに収めようとすると、速い動きにぶれてしまう課題に直面。写真の技術を学ぼうと、卒業後に選んだのは写真専門学校だった。着実に実力を付け、2010年、新進写真家を対象にする公募展「写真新世紀」で優秀賞を受賞した。最近の主な被写体は、自然の中で遊ぶ子どもという。

こうした活動が年々注目され、出版社から自伝の執筆を依頼されるなど、文筆家としての活動も本格化させた。本書もその一冊だ。「手話のある暮らしの豊かさや、CODAの存在を知るきっかけになれば」と話す。

20年、熊本市に移住した。その数年前に観光で訪れた阿蘇・草千里の光景に感動したからだ。本書では、低価格で新鮮な農産物、おいしい水道水に驚き、人々の優しさに感銘する様子も紹介されている。

23年7月、長女天彌(あまみ)さんが生まれた。執筆開始時によっちぼっちだったが、「『ごっちぼっち』となろうとは、想像だにしなかった」などとあとがきに記した。「手話のある生活でこそ見えてくる世界が確かにある。そうした世界をより深く知るきっかけとして読んでもらえるとうれしい」

リンク先は毎日新聞というサイトの記事になります。
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