「障害者が頑張ったから素晴らしい、ではない」 ろう者の俳優・長井恵里が望む社会の変化 

「障害者が頑張ったから素晴らしい、ではない」 ろう者の俳優・長井恵里が望む社会の変化 

俳優の宮沢りえさん(50)、磯村勇斗さん(31)、二階堂ふみさん(29)、オダギリジョーさん(47)が出演する映画『月』(公開中)。

実際に起きた障害者殺傷事件をモチーフにした辺見庸さんの同名小説が原作です。

映画では、深い森の奥にある重度障害者施設を舞台に、障害者への向き合い方など社会や個人が“見て見ぬふり”をしてきた現実や、事件に至るまでの人間模様などが描かれています。

この映画で、磯村さん演じる殺人犯・さとくんと同棲しているろう者の恋人・祥子を演じているのが、俳優の長井恵里さん(27)です。

自身も、耳が聞こえず手話を第一言語とする、ろう者の長井さん。

映画での役作りや、様々なハードルがある中で俳優を志した思いを聞きました。

■“他人事とは思えない” 実際の障害者殺傷事件をもとに描かれた映画に出演

映画について長井さんは「実際にあった事件の犯人の恋人役は、すごく難しかったです。

当時のニュースもよく覚えています。

福祉の面から見ると、私は障害者の方に入るわけで、自分とは全く関係のないものではなく、他人事とは思えませんでした」と明かします。

撮影が始まる前、恋人役の磯村さんと密にコミュニケーションを取ったといい「(会話する際に)手話や身ぶり、筆談など、目を見て積極的にコミュニケーションを取ってくれました。

その姿を見た時、その関係性や感覚をそのまま役に重ねて演技ができたかなと思います」と振り返りました。

また「映画の中では、2人が付き合って何年目であるとか、祥子の生い立ちがどうか(を話し合った)。

ろう者も育った環境によって、口話を使うとか、手話を使うとか(コミュニケーション方法に違い)があります。

映画の中では手話で会話をしているんですが、本当の気持ちを伝えたい時には、スマホのメモ機能を使うなど、いろいろな方法でチャレンジをしてみました」と撮影時の工夫を明かしました。

■大学4年生で映画デビュー「深く考えず…」

現在、映画やドラマなどで活躍する長井さん。

演技の世界に足を踏み入れたのは、大学4年生の時だったといいます。

「ろう者の監督の今井ミカさんから、“今度映画を作るので、役のイメージに合っているからお願いしたい”という依頼がありました。その時、私は深く考えずに、いろいろとチャレンジしたい性格だったので、依頼があったからいいですよと受けました。それで映画デビューという流れになりました」と振り返りました。

■俳優の道を歩む決意したできごと「当事者が演じることが大事」

その後、俳優の道を歩む決意をしたのには、ある映画の影響がありました。

耳の聞こえない両親の元で育った少女の夢と家族の絆を描いた映画『コーダ あいのうた』です。

両親や兄役を実際に聴覚障害のある俳優が演じたことでも話題になり、2022年の米・アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞の3冠を獲得しました。

授賞式を見て「当事者が演じることが大事」だと感じたという長井さんは「(私は)ろう者は演じることができると考えていなかったんです。

ろう者の子供たちが将来、どんな仕事がしたいか考えた時、やはり聴者と比べると選択肢が狭い。

私もテレビや映画に出るのは無理だとずっと思ってきました」と自身の経験を顧みた上で「やはりアメリカは進んでいます」と語ります。

日本とアメリカの違いについて「障害者に対する見方も、日本とは少し違うんだなと思いました」とし「日本だと、“少し隠された存在”というものがあります。でもアメリカでは映画の中でも、ろう者のアイデンティティーをはっきり出して手話で話す。ありのままを映しているのがすごくよかった。それが賞を受賞できたのが非常にうれしかったです。日本は(ろう者の受賞を)“すごい”と言うだけではだめだと思う。今後は“障害者が頑張ったから素晴らしい”ではなく、“1人の役者”として評価されるようになってほしいです」と、変わってほしい社会に対しての思いを明かしました。

■「ろう者だからではなく、長井だから選ばれるように」

長井さんが演技をする上で難しいと感じているのが、聴者と息を合わせることです。

ろう者同士の手話での息づかいと、聴者同士の口話での息づかいは違うため、演技のリズムにも影響があるといいます。

長井さんは「もっと幅を広げていくために、聴者と共にやることに慣れていかなければいけないと思ったんです。聴者と一緒に演技していくために、聴者向けのワークショップに参加しています」といい、ろう者を想定していない役のオーディションなどにも参加しているといいます。

様々なハードルがありながらも、俳優として活動の幅を広げる長井さん。今後の目標を聞くと「デフアクター(ろう者・難聴者の俳優)の数をもっと増やしたい。ライバルが増えるのはうれしいことです。競い合って切磋琢磨(せっさたくま)して、自分自身もよりよい演技をしていきたい。“ろう者だから選ばれる”のではなくて“長井だから選ばれる”というような存在になるのが目標です」と意気込みを語りました。

「映画を見てもらって、自信を持って演技をしているろう者の表情や演技を見て、違う文化だなと興味を持ってもらって、それがきっかけとなって、ろう者を見る機会が増えて、社会の中でも障害者に対して“蓋をして見ないようにする”ようなかわいそうな存在ではなく、“普通の存在”として扱いが変わってほしい」と思いを明かしました。

リンク先は日テレNEWSというサイトの記事になります。

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