「風呂上がりの耳掃除」を毎日やってはいけない…現役医師が指摘する「誤解だらけ耳掃除」が招く重大リスク

「風呂上がりの耳掃除」を毎日やってはいけない…現役医師が指摘する「誤解だらけ耳掃除」が招く重大リスク

2024/08/15 10:00

「耳は少し汚れているぐらいがちょうどいい」

PRESIDENT Online
木村 至信
耳鼻咽喉科医


耳掃除はどれぐらいのペースですればいいのか。耳鼻咽喉科医の木村至信さんは「風呂上がりの耳掃除を習慣にしている人は多いが、耳は少し汚れているぐらいがちょうどいい。週1回のペースで、あまりいじりすぎないことが大切だ」という――。

※本稿は、木村至信『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(アスコム)の一部を抜粋・編集したものです。

綿棒で耳掃除をする女性写真=iStock.com/ediebloom
※写真はイメージです


耳掃除を毎日する習慣を一度やめてみる

耳掃除は「気持ちいい」ですよね。耳掃除が気持ちいいのは、耳の穴には快感を生じさせる迷走神経が走っていて、耳かきで触れば触るほど気持ちがよくなるからです。

でも、気持ちいいからといって、耳掃除はやたらにするものではありません。やり過ぎると「外耳道炎」になる恐れがあります。外耳とは、耳の入り口から鼓膜までの通路のこと。空気の通り道です。

外耳道炎になると、皮膚がめくれ、細菌や真菌が入り、耳だれが出たり、中が腫れて難聴を起こすこともあります。

さらに、外耳道炎を繰り返して、治療のための抗生剤を長く続けて使うと、耐性菌が棲みつき、「難治性の外耳道炎」、カビが生える「外耳道真菌症」など、深刻な症状に進むこともあります。

たかが耳掃除のことで、ちょっと脅かしすぎてしまったかもしれません。けれども、耳は、とても大事な器官。毎日、耳掃除をする習慣がある人は、一度やめてみましょう。


医学的に正しい耳掃除のやり方

・週に1回
・お風呂上がりに、耳の入り口から1センチのところまで
・「綿棒」を使う
これが、医学的に「正しい耳掃除」の基本です。

耳の入り口から1センチの範囲には、耳垢の元になる脂を分泌する耳垢腺じこうせんがあります。ですから、掃除は耳の入り口から1センチの範囲だけです。

耳の入り口から鼓膜までの長さは約3センチ。奥は皮膚が薄く、毛も生えず、皮脂腺も耳垢腺もないので、耳掃除は必要ありません。それどころか、突き当たりにある鼓膜付近には知覚神経が走っていますから、触ると激痛がすることもあります。

日本人の約6割は耳垢腺が少なく、耳垢はカサカサとしています。残りの4割の人の耳垢は、欧米人のようにベトベトしています。一般的な「耳かき棒」が有効なのは、カサカサタイプだけです。

ですが、耳かき棒は耳を傷つける危険があるので、「綿棒」を使うほうがベターです。ベトベトした耳垢を取るには綿棒で拭き取るか、耳鼻科で処置してもらう以外ありません。

ちなみに、昔は「日本人はカサカサタイプが9割」といわれていましたが、近年、食生活やライフスタイルの変化とともに耳垢も欧米化してきています。


耳かきをして、もし異変を感じたら…

カサカサタイプの人でも耳垢を間違って押し込んでしまったと感じたら、耳鼻科で取ってもらいましょう。

また、「お風呂で水が入ったまま抜けない」という人は、耳垢が水を吸っているのかもしれません。それも耳鼻科で簡単に取れます。もしも出血をともなう著しい量の耳垢が取れたなどの異変があれば、すぐに病院へ行きましょう。

耳掃除をし過ぎると咳が出ることがあります。敏感な人だと耳を触るだけで咳が出ることも。咳が出るのは、外耳道に咳を出させる神経が走っているためです。異常ではないので心配しないでください。

我慢できないほど耳が「不快」「かゆい」などと感じるときは、耳全体を冷やすのが有効です。耳掃除でかき過ぎるとヒスタミンが出てさらにかゆくなります。

マキロンなどの殺菌消毒液を少し綿棒につけて、耳の入り口から1センチの範囲をクルクルと2回転させて掃除しましょう。シュワシュワとした刺激で耳垢を溶かしつつ、消毒をし、かゆみを抑えてくれます。

そして、最後に1回、乾いた綿棒を転がして拭き取りましょう。綿棒は、そっと優しく使ってください。私のクリニックでは、「中に仔猫がいるくらい優しいタッチで」と患者さんに話しています。

とにかく、耳はいじり過ぎないこと。もっと言えば、「少し汚れてるかな?」ぐらいが耳の健康にいちばんです。耳掃除のときに耳毛を抜くのもやめておきましょう。


耳によくない意外な習慣

毎日の耳掃除の習慣が、かえって耳によくないと知って驚いたかたも多いのではないでしょうか。ほかにも意外なところに耳の健康を損ねるリスクが潜んでいます。まず次のチェックリストをやってみてください(図表1)。

【図表1】「耳の老化」12のチェックリスト
出典=『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』

いかがでしたか。「テレビでドラマを見ている」「タバコを吸っている」や「甘いものが好き」など、難聴や耳鳴りとは関係なさそうな項目が入っていますが、いずれも「耳の老化」を進める要因です。

たとえば、お酒を飲み過ぎたり、甘いものを食べ過ぎたりする人は、血流が悪くなりやすくなります。耳周辺の血流の悪化は、耳を老化させる大きな要因になります。このような生活習慣を長年続けると、確実に耳の老化は進みます。

もしひとつでもチェックがついたら、遠からず「耳鳴り」や「難聴」に苦しむことになる可能性が高いといえるでしょう。

耳栓をずっとしていると、蒸れて外耳炎になることがあります。一日中リモート会議をしているような人も、耳栓タイプのイヤホンは耳を塞いでしまうので、やめたほうがいいでしょう。

工場や工事現場で仕事をする人には耳栓は必要です。長時間大きな音にさらされているからです。この状態を「騒音曝露そうおんばくろ」といい、耳に大きな負担がかかります。


「耳栓」は必要な時だけでいい

しょっちゅうカラオケに行く人や、音楽を大音量で流している店で働く人も騒音曝露になります。どんなにきれいな音でも、音量が大きければ、耳にとっては騒音です。不快に感じるような汚い音でも、音量が小さければ問題ありません。

音量が大きいコンサートでも騒音曝露になります。そんなときには「コンサート用の耳栓(ライブ用耳栓)」をするのがおすすめです。音質を損なわずに、音量だけを抑えるようになっているため、騒音曝露を防げます。耳が蒸れないように、終わったらすぐに外してください。

耳栓をする男性写真=iStock.com/nito100
※写真はイメージです

「耳鳴り」とは、周りで音がしていないのに、ジージー、キーン、ボーボーなどの音が聞こえてしまう症状です。血圧が上がったり、更年期障害のひとつとして起きたりすることもありますが、原因や症状は百人百様です。

「ときどき軽いキーンという音を感じることがあるものの、10秒ぐらいで収まるし、日常生活に支障はない」という程度の耳鳴りは、多くの人が経験しています。私にもそういう耳鳴りはあります。この程度であれば気にする必要はないでしょう。耳鳴りには、それを気にすることで症状が悪化したと感じる側面があるので、少々の耳鳴りは気にしないほうがいいのです。

とはいえ、耳鳴りのせいで日常生活に支障が出るようになったら、話は別です。しかも、最近、診療の現場で気になるのは、やけに若い人の耳鳴りが増えているということです。リモート会議で長時間イヤホンを着けている時間が増えたことも一因でしょう。


耳鳴りがある人の9割は難聴がある

実際のところ、耳鳴りは症状の出方が多岐にわたっていることもあって、その病態はいまだ解明されていません。ホルモンバランスや心理的な要因が耳鳴りを引き起こすことも多々あります。

木村至信『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(アスコム)
木村至信『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(アスコム)

病気としての耳鳴りについてまだよくわかっていないのですが、耳鳴りの患者さんの約9割に難聴があることから、少なくとも耳鳴りと難聴が密接に関係しているのは確かです。

難聴は「音を聞いたり区別したりする能力」が低下した状態です。難聴のせいで「音が聞こえない」とか「音に左右差がある」など、「聞こえの情報」が脳に伝わらなくなると、脳のシナプスが「なぜ聞こえないんだろう」と過敏に反応します。

そして脳は音の情報を得るために、音に関する感度を上げようと働くのです。その結果、脳に異常な興奮状態が起こり、雑音を拾ってしまい、それが耳鳴りとして感じられる、というのが最新の学説です。

といっても、あくまでも仮説です。耳鳴りが起こるメカニズムは、完全には解明されていません。


耳鳴りが脳梗塞の前兆だったケースも…

耳鳴りは、日常生活に支障がなければあまり心配しなくていいでしょう。しかし、検査をしなければ、ほうっておいていい耳鳴りなのかどうかわかりません。耳鳴りがあったら、一度は耳鼻科に行ってください。

私は大きな病院に勤務していたとき、耳鳴りが前兆で、実際には脳梗塞だったという患者さんも経験したので、ほうっておくのは絶対にやめていただきたいと思います。

日常生活に支障があるかないかを判断するのはご本人です。ですから、まず病院に行って検査を受けて「それほど悪くない」と言われ、日常生活に支障がなければ、半年後、1年後にまた受診すればいいでしょう。


木村 至信(きむら・しのぶ)
耳鼻咽喉科医
医学博士、耳鼻咽喉科、頭頚部外科。専門は音声学・癌・難聴遺伝子。信州大学病院に勤務後、難聴遺伝子、遺伝子解析研究のスペシャリストとして厚生省で研究に携わり、米国ネブラスカ州国立リサーチ病院に留学、研究を続ける。大学病院での高度医療、癌センターでのオペ研修など医療のトップレベルで15年以上勤務。横浜市大医学部にて医学博士を取得。現在、横浜市内のクリニックで地域密着の診療に従事。著書に『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』(アスコム)がある。


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