補聴器の選び方を専門医が解説 種類や値段、おすすめの購入方法を完全ガイド

補聴器の選び方を専門医が解説 種類や値段、おすすめの購入方法を完全ガイド

高齢化社会を迎え、健康寿命が重要視されています。そのなかで、問題視されているのが難聴です。難聴は生活の質の低下だけでなく、認知症のリスク因子となることが明らかとなっています。補聴器は、そのような高齢化社会特有の問題を解決する手段として、改めて注目されています。この記事では、補聴器の選び方と購入方法を専門医が解説します。

1.そもそも補聴器とは

補聴器の写真

補聴器とは、聞こえにくくなっている音を大きくすることで、その名が示すように、聞こえを補い、聞き取りを改善してくれる医療機器です。聞こえが悪くなるとさまざまな支障が生じますが、補聴器によってQOL(生活の質)の向上が期待できます。

(1)補聴器の仕組み・役割
補聴器は、音を大きく(増幅)して出力する仕組みです。しかしながら、単に音を大きくするだけでは十分な効果が得られないだけでなく、かえって耳を悪くする場合があります。このようなことがないように、補聴器では音の大きさ、高さ(周波数)に合わせて増幅する大きさを変化させます。

また、聞き取りの邪魔となる雑音を抑制する、聞き取りたい方向からの音を聞き取りやすくするなど、最適な聞こえが得られるようにさまざまな信号処理をしています。

一方、最適な聞こえ方は難聴の種類・程度によって異なるものです。人それぞれ違いますので、補聴器の装用を開始する前に自分の耳に合うように調整する必要があります。そのため、他人の補聴器を使用しても十分な効果を得ることはできません。

(2)補聴器を使い始めるタイミング
「どれぐらいの難聴になれば補聴器の装用が必要か」という明確な基準は定められていません。聞こえにくいことで、何らかの支障があれば適応となります。

「聞き返しが多くなった」「他の人が聞き取れているのに自分だけが会話の内容を理解できていない」など、難聴を疑う症状があれば耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し、相談してください。

2.補聴器の種類と値段

補聴器にはさまざまな種類が存在し、器種により性能や見た目(外観)が異なります。

補聴器の値段は外観の違いにも左右されますが、より大きく価格に反映するのは性能の違いです。一般的に、聞き取りが改善する機能が充実している、またその機能がより高性能な機種ほど高価になります。

外観によって、次に示す3種類に大きく分類されます。

タイプ別補聴器のイラストと価格


ここでは、それぞれの特徴やメリット・デメリット、価格帯について解説します。

(1)耳あな型:オーダーメイドの価格帯 約10~50万円以上
耳あな型は、耳の穴に挿入して使用するタイプです。多くは、耳型の形に合わせてオーダーメイドで作製します。

耳あな型は、小型で目立ちにくい、眼鏡の柄やマスクのひもと干渉しにくいなどのメリットがあります。一方、閉塞(へいそく)感が強い、ピーピーと不快な音が発生する、ハウリングが生じやすい、比較的高価などのデメリットもあります。

(2)耳かけ型:価格帯 約5~50万円以上
耳かけ型は、本体を耳にかけ、耳の穴に耳栓を挿入して使用するタイプです。RICタイプと呼ばれる器種では、音を発振するスピーカー(レシーバー)を耳の穴の中に配置するため、小型で目立ちにくく、優れた音質が得られます。

耳を塞がずに使用する「オープン」と呼ばれる装用方法では耳を塞がないので、優れた装用感が得られ、外部からの音を直接聞くことができるメリットがあります。一方、眼鏡やマスクと同じ部分に掛けて使用するため、それらを使用しているときは脱着時に注意が必要です。

(3)ポケット型:価格帯 約3~10万円
ポケット型は、衣服のポケットなどに本体を入れて使用するタイプです。本体を取り出してマイクを相手の口元に近づけることで聞き取りやすくなる、価格が安いというメリットがあります。

一方、マイクの位置が耳から離れたポケットの中になるため、不自然な聞こえになる、衣服の擦れる雑音が入る、さらにコードが邪魔になる、選択できる器種が少なく性能も限定的というデメリットがあります。

3.補聴器の選び方

補聴器は、決して安い医療機器ではありません。予算はもちろんのこと、自身のライフスタイルに合わせた選択が重要です。そして、選択した補聴器が自身の耳に合うのかどうか、必ず試聴して確認する必要があります。

(1)価格にとらわれず自分の耳に合うものを選ぶ
高性能で高価な補聴器が、その価格に見合った効果が得られるのであればよいのですが、必ずしもそうではありません。それぞれの機能が高性能であっても装用効果に直結するわけではなく、難聴の種類や程度、補聴器の使用環境によっては、機能自体が不要だったり十分な効果が発揮されなかったりすることもあります。

より優れた効果を得るために重要なのは、高性能で高価な補聴器を選択することではなく、装用する人の耳に合わせた最適な補聴器の選択と調整です。

(2)使用環境に合わせる
必要となる機能は、使用環境で異なります。騒音下での会話が多いのであれば、騒音をしっかり抑制することができる補聴器は有用ですが、リタイアし、装用するのが自宅など静かな環境であれば、それほど高性能でなくても十分な効果が期待できます。

専門家のアドバイスを参考に、自分の耳に最適な補聴器を決めていく必要があります。

(3)購入する前には必ず試聴して効果を確認する
通常、補聴器のフィッティングは静かな環境でおこなわれます。しかし、実際の使用環境は必ずしも静かな環境だけではありません。その場でよく聞こえても、実際に使用すると思ったような効果が得られないことはよくある例です。

必ず貸し出ししてもらい、実際の生活で使用し、効果を確認してから購入することをおすすめします。聞き取りにくい、あるいは、うるさくて使用できないなど問題があれば、再調整あるいは器種変更をおこない、さらに再試聴して効果に納得したうえで購入を決めましょう。

4.補聴器はどこで購入する? 失敗しない購入方法

装用するだけで十分な効果が得られるわけではありません。装用者の耳に合わせた調整と、購入後も、聞こえに合わせた再調整とリハビリを継続していくことが重要です。

補聴器購入を失敗しないためには、知識と技術があり、しっかりとフォローしてもらえる販売店で購入する必要があります。

(1)まずは医療機関を受診する
補聴器を装用する前に、まず、耳に何らかの治療が必要な病気がないのか、補聴器を安全に使用することができるのか、耳鼻咽喉科での診断を受ける必要があります。

耳鼻咽喉科のなかには、補聴器について適切なアドバイスをすることが可能な「補聴器相談医」の資格を有している医師がいます。日本耳鼻咽喉科頭頸部(とうけいぶ)外科学会のホームページで検索できるので、それらの医師に相談するのも一つの選択肢です。

補聴器が必要となれば、適切にフィッティングをおこなってもらえる「認定補聴器専門店」を紹介してもらえます。

(2)認定補聴器技能者がいる認定補聴器専門店で購入する
補聴器は人の耳に直接着ける医療機器であり、適切なフィッティングをおこなうためには知識と技術、さらにそれをおこなうことができる設備が必要となります。しかし、どこの販売店で購入すればよいのか判断するのは簡単ではありません。

それを担保する制度として、必要な知識や技能を習得している「認定補聴器技能者」が常勤し、必要な設備の整っている販売店を「認定補聴器専門店」として審査し認定する制度があります。

認定補聴器専門店については公益財団法人テクノエイド協会のホームページで検索できるので、そちらで購入することをおすすめします。

(3)公的な支援を活用する
補聴器は高価な医療機器で、経済的な負担が問題となるので、公的な支援を活用することが勧められます。公的な支援には大きく分けて二つの助成制度に分かれます。

●障害者総合支援法に基づく支給制度
●各自治体がおこなっている助成制度

障害者総合支援法に基づいた補聴器の支給を受けるためには、聴覚障害に関する身体障害者の認定を受ける必要があります。該当するかどうかは、耳鼻咽喉科を受診し相談してください。

身体障害者に該当しなくても、各自治体が行っている助成制度の利用が可能なことがあります。助成を受けることができるかの基準、手続きや助成内容については各自治体で異なるため、役場の窓口で相談してください。

(4)医療控除を活用する
公的な支援とは別に、補聴器の購入代金は、確定申告で医療費として申請し、医療控除を受けることが可能です。医療控除をうけるためには、まず上に示した補聴器相談医を受診し、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」を発行してもらい、上に示した認定補聴器専門店で補聴器を購入する必要があります。

補聴器購入後、診療情報提供書のコピーと補聴器の購入代金の領収書を5年間は保管し、税務署から問い合わせがあればそれらを提示・提出する必要があります。

5.よりよい聞こえを得るために必要な補聴器

会話はコミュニケーションを図るうえで不可欠なものであり、難聴はその大きな障害となります。補聴器は、その障害を乗り越えるための重要なツールになりますが、その選択や使用方法を間違うと逆効果になってしまいます。より良い聞こえを得るためには、補聴器相談医や認定補聴器技能者などの専門家に相談して下さい。

(奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科 めまい・難聴センター 病院教授 西村忠己、編集協力:スタジオユリグラフ 中村里歩)

西村 忠己さんの写真


西村 忠己(にしむら・ただし)
奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科 めまい・難聴センター病院教授

1997年に奈良県立医科大学卒業。奈良県立医科大学耳鼻咽喉科助手、助教、学内講師、講師などを経て、2023年2月から現職の奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科めまい・難聴センター副センター長兼病院教授。専門分野は聴覚、補聴、耳科手術など。

リンク先は朝日新聞Reライフ.netというサイトの記事になります。

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