ウォール街で後退、ダイバーシティー巡る取り組み-業界内からも反発

ウォール街で後退、ダイバーシティー巡る取り組み-業界内からも反発

ゴールドマン・サックス・グループは、黒人大学生を対象とした「可能性サミット」を白人学生にも開放した。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)は、女性やマイノリティー向けだった自行内のプログラムの対象を全ての人に広げた。

バンク・オブ・ニューヨーク(BNY)メロンでは、経営幹部が労働力の多様性に関する厳しい指標を再考するよう求められている。「指標をなくせ」というのが弁護士のアドバイスだ。

これが今のウォール街におけるダイバーシティー・エクイティー・インクルージョン(DEI=多様性・平等・包摂)の急変化するトレンドだ。

米国の金融業界は、公平な競争の場を提供する約束を静かに見直している。DEIに対する保守派の攻撃の高まりと、白人従業員の間に広がる憤りとが相まって、経営幹部は逆差別の非難をかわそうと動き出した。

ウォール街だけではない。ここ数週間でズーム・ビデオ・コミュニケーションズがレイオフを拡大する中で社内のDEIチームを削減し、テスラは規制当局への提出書類からマイノリティー労働者に関する文言を削除した。

不確かな時代

一見すると小さな変化が、大きな意味を持ち始めている。米国の職場での多様性にとって転換期が終わり、新たな不確かな時代が始まった。

メリルリンチのダイバーシティー責任者だったスバ・バリー氏は「頂点を過ぎた」と言う。

ウォール街では働き手が白人と男性に偏っていたし、今もそうだ。銀行がDEIから後退しつつあることをうかがわせるだけでも、女性やマイノリティーからそもそも変革の約束がどれほど現実的なものであったかを疑問視する声が出る。

幹部らはこれまでと同じように献身的に取り組んでいると主張。ゴールドマンをはじめとする大手米銀は、さまざまな経歴を持つ人材の獲得と登用に引き続き力を入れていると説明する。

しかし、内心では多くの人が、イーロン・マスク氏やビル・アックマン氏をはじめとする資産家によって増幅された反DEIキャンペーンが、ウォール街のこれまでの進歩を後退させる恐れがあることを認めている。

女性やマイノリティーを対象とした採用プログラムは、多様な人材を採用するための重要な手段だが、これが見直しの対象となっている。具体的な労働力目標や役員室での多様性イニシアチブなど全てが見直しされていると、企業幹部やコンサルタント、弁護士は言う。 

これは驚くべき変化だ。4年足らず前、「人種差別という過去の問題の清算」や「転換点」という高尚な議論の中で、米企業の最高経営責任者(CEO)らは包摂的な雇用を受け入れ、マイノリティーを登用し、男女の賃金格差を縮小することを誓っていた。

連邦最高裁が全米の大学におけるアファーマティブアクション(人種に基づく積極的差別是正措置)を否定した今、企業の多様性イニシアチブに対する法的攻撃が勢いを増している。

右派はディズニー・ワールドやハーバード大学のDEIを左派の考えを広めるエンジンとして悪者扱いしており、銀行側は逆差別を主張する訴訟の標的になりたくない。

ウォール街はここ数年、ダイバーシティーに向けて一定の前進を遂げている。それでも、数字は厳しい現実を突き付ける。ゴールドマンの最新報告書によると、黒人は米国の上級幹部の3.7%に過ぎない。JPモルガン・チェースでは約5%、シティグループでは8.7%。黒人は全米の人口の約14%を占める。

バンカーや弁護士は、新たな多様性イニシアチブを見直すか一時停止し、反撃や訴訟の可能性に先手を打つしかないと主張する。

例えば、BNYメロンは役員報酬をダイバーシティーの進展と関連付けるという決定を再考。ここ数カ月にはダイバーシティーとインクルージョンの取り組みを説明する際の表現を変更し、「具体的な目標」への言及を削除した。

事情に詳しい関係者によれば、BofAは幾つかのDEIプログラムとその説明方法に手を加えている。メンターシッププログラムは目標を達成しもはや必要ないため、終了を検討しているという。

JPモルガンは大学2年生の黒人を向けだった夏季のフェローシップを、現在では「バックグラウンドに関係なく」全ての2年生を対象としている。

事情に詳しい関係者によると、ゴールドマンでは弁護士が上級幹部に対し、大学での人材募集プログラムにおける人種や性別に関する言及をやめるよう助言した。また、女性や有色人種といった特定のグループのために特別なイベントを開催しないよう警告しているという。

BNYメロンとJPモルガン、ゴールドマンの広報担当者はそれぞれ、多様なバックグラウンドを持つ人々が働く包摂的な職場環境に引き続きコミットしていると述べた。

BofAの広報担当者は常に取り組みを見直しているが、同行の「多様性・包摂スポンサーシッププログラムを廃止したわけではない」と話した。

匿名で語ったあるウォール街の有力バンカーによれば、ダイバーシティー採用を担当している幹部が意思決定に与える影響力は低下している。

多様な人材採用に前向きだった同僚たちが、黒人男性のジョージ・フロイドさんが20年に白人警官に暴行・殺害された事件の前の状態に戻りつつあるという。

注目の訴訟

米企業は、多様性への取り組みについて語る方法を確実に変えつつある。ブルームバーグ・ニュースが最近報じたところによると、シチズンズ・ファイナンシャル・グループの最新の届け出書類では、女性や有色人種が中・上級職の候補者の少なくとも50%を占めるという目標にはもはや触れていない。

金融機関を含む企業のダイバーシティーに関するコンサルティングを行っているバレリー・イリック・レインフォード氏によると、あるクライアントは最近、ダイバーシティープログラムを一時停止する必要があるかどうか悩んでいると相談してきたという。

トラブルは後を絶たない。DEIの専門家たちは、フロリダ州マイアミでの訴訟を注視している。この裁判は右派からの反動の象徴のようになっている。

有色人種の女性が率いる企業に早期投資を行う「フィアレス・ファンド」は最近、連邦高裁に黒人女性が過半数を所有する企業を対象とした2万ドルの助成金コンテストを保護するよう求めた。同ファンドは昨年、助成金コンテストが人種差別的だとして訴えられた。この訴訟結果は、マイノリティーが経営する新興企業や事業への資金提供に影響する可能性がある。

「私たちは興味深い変曲点にいる」とシティの元最高多様性責任者アナ・ドゥアルテ・マッカーシー氏は話す。

現在、業界コンサルタントとして働いている同氏は、確かに多くの金融機関はダイバーシティーへの取り組みを一時中断し、再検討しているが、大半の企業は取り組みを進めており、本格的な撤退を示唆する企業は皆無に等しいと語った。

しかし、DEIに反対するのは保守派の活動家や政治家だけではない。ウォール街で働く人々も、静かにDEIに抵抗している。

現在はDEIのアドバイザリー会社であるセラマウントを率いる元メリル幹部のバリー氏によれば、業界内の反発はリアルだ。

彼女は白人女性から、もしウォール街が代表的でないグループの昇進のみに焦点を絞るのであれば、自分たちの息子はどのような機会に恵まれるのだろうかと尋ねられたことがあるという。

こうした人々は公然と大声で主張しているわけではないが、彼らの意見を聞かないわけにはいかないとバリー氏は述べた。

原題:Wall Street Banks Retreat on DEI as Backlash Snowballs (1)(抜粋)

リンク先はBloombergというサイトの記事になります。
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