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![壁を乗り越える 東京2025デフリンピック](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/136a8c04-1878-43c4-b954-933155cc9c3e_480x480.jpg?v=1728605476)
2025年、日本で初開催される聴覚障害がある人たちのスポーツの国際大会「デフリンピック」。東京大会は100周年の記念大会で、聴覚障害への理解を深めるきっかけにしようと、関係者の期待が高まっています。
品川区が大会のPRサポーターに任命した植松隼人さん(42)もその一人。デフサッカー男子日本代表の元監督で、聞こえない子どもたちが参加するデフフットサルスクールの代表を務めます。「スポーツを通して、聞こえない人たちのコミュニケーションの工夫を見てほしい」という植松さん。彼が実践する“聞こえない壁”の乗り越え方とはー。
(首都圏局/記者 喜多美結)
デフサッカー男子 日本代表監督だった 植松隼人さん
![品川区のデフサッカー指導者、植松隼人さん(42)](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/8203b132-5533-4425-b68b-5c8db8121078_480x480.jpg?v=1728605475)
品川区のデフサッカー指導者、植松隼人さん(42)。去年、デフサッカー男子日本代表の監督として、ワールドカップで史上初の準優勝へ導きました。
生まれたときから難聴の植松さんは、1歳から補聴器をつけています。
![サッカーを始めた小学5年生の時の植松隼人さん](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/18b3919a-7c8a-42e7-beca-8b7779ce2e5d_480x480.jpg?v=1728605476)
サッカーを始めたのは小学5年生の時。聞こえない自分を理解してくれる地元の友だちなどに囲まれ、楽しくサッカーをしていたといいます。
植松隼人さん
「聞こえる人たちの学校に通っていて、手話はあまり上達しなくてできませんでした。でもみんな僕が聞こえないのを分かってくれていたので、当時はコミュニケーションに困ることはなく、楽しかったですね」
聞こえない自分 高校では壁に
![「ミーティングが始まっても何を話しているのか全然分からない。」](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/1f32cee0-5c74-46c0-a31f-7d5b8658cab2_480x480.jpg?v=1728605475)
しかし、高校生になると環境が一変します。聞こえない自分を理解してくれていた友達がいなくなり、部活で入ったサッカーでは口話が中心で、周りの指示が聞こえず、コミュニケーションがうまく取れなくなったのです。
植松さん
「監督やコーチは早口でしゃべって、ミーティングが始まっても何を話しているのか全然分からない。話を理解できないまま、トレーニングが始まることもしょっちゅうでした。チームがどんな戦い方で試合に入っていくのか分からない状態でやらざるを得なかったので、参加している感じが持てず、孤独を感じました」
聴力はさまざま 手話 口話 筆談などで全員サッカー
![子供達に話かける植松さん](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/cf10d696-3400-4f2f-893b-a0de0222bf42_480x480.jpg?v=1728605475)
こうした自身の経験から、「聞こえる子どもも聞こえない子どもも、一緒にコミュニケーションが取れる環境を作りたい」と、植松さんは2016年に品川区で子どもたちを対象にしたフットサルスクール「サインフットボールしながわ」を立ち上げました。
植松さんが大事にしているのは、聞こえない人それぞれのニーズにあったコミュニケーションです。「聞こえない」と言ってもその聴力はさまざまで、聞こえ方も一様ではありません。植松さんは、手話や口話、筆談など、さまざまな手法で指導することで、その場にいる全員が参加できるサッカーを目指しています。
植松さん
「手話がベースではありますが、聞こえづらい子どもの中には手話が出来ない子もいる。だから私は声も出しますし、筆談も必要なときに使います。いろんなコミュニケーションが選択できるので、その場面ごとに合わせて使っていけたらいいなと思っています」
聞こえない壁にぶつかった女の子
![聞こえない壁にぶつかった女の子](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/a5cbb5f0-1c6f-4979-ba8d-09b542b64ba6_480x480.jpg?v=1728605475)
植松さんの元には、聞こえない子どもたちが多く通っています。ことし5月から植松さんの指導を受け始めた、横浜市の小学3年生、浅井茉耶さんです。人工内耳を付けていて、ふだんの会話は声が中心。手話は勉強中で、口の動きや声も大事な情報です。地元にあるチームでサッカーを始めましたが、聞こえないならではの「壁」にぶつかったと話します。
![茉耶さん](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/c6be98d8-6841-41e5-afd5-2b778db5e72d_480x480.jpg?v=1728605476)
茉耶さん
「前のチームでは説明が終わったらすぐに練習に入っちゃうので、わからなくても聞き返せる雰囲気がありませんでした。だから周りの人を見て、まねをしながら練習していたので、自分の番が来ても間違えたことをして、恥ずかしいなって思うこともありました」
茉耶さんの母親も、当時の状況に複雑な思いを抱いていたといいます。
![茉耶さんの母親](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/3d7428cc-0a95-4ab0-a7a4-9d81e83fb3c3_480x480.jpg?v=1728605475)
茉耶さんの母親
「難聴があって聞こえづらいとは伝えていたんですが、集合をかけられても聞こえていなくて、ぽつんと取り残されたり、みんなと同じことが出来なかったりしました。小学2年生になって上のクラスに上がろうというときに、『もっと積極的に動けるようになったら』と言われて。屋外でコーチの声も聞き取りにくい茉耶にとってはとても難しいことだと伝えましたが、あまり理解してもらえませんでした」
手話は苦手 口の動きもわかるよう伝える
![手話は苦手 口の動きもわかるよう伝える](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/2b1d898e-40c4-44bf-a1d4-c3de382ba43e_480x480.jpg?v=1728605475)
そんな茉耶さんに、植松さんは手話だけでなく声も出して指導をしています。わかりやすいように、口の動きもわかるよう伝えます。また、集合や終わりは旗を振って呼びかけるなど、道具も使ってチームのメンバーに一斉に伝える工夫もしています。
植松さんの指導で技術が少しずつ身につき、手応えを感じているという茉耶さん。今、新しい目標ができたといいます。
茉耶さん
デフサッカーの日本代表になりたいです!こんな競技をしている人たちがいることや、人工内耳や補聴器のことをもっともっと知ってほしいです。
植松さん
「一人ひとりの理解度が違うので、それぞれにどうしたら伝わっているかを考えて、意識的にコミュニケーションを変えています。あとは、伝わっているかどうか簡単には分からないときもあるので、やりとりするときはなるべくこちらが質問をして、その回答で分かっているかを確認するようにしています。だから会話はなるべく質問を多くしてますね」
聴覚障害に理解を 講演活動にも力を入れる
![植松さんは、デフリンピックのPRサポーターとして、講演活動にも力を入れ、聴覚障害への理解を広げています。](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/79529b95-3c11-47af-ab1c-7501abf6822f_480x480.jpg?v=1728605476)
こうした取り組み以外に、植松さんは、デフリンピックのPRサポーターとして、講演活動にも力を入れ、聴覚障害への理解を広げています。
先月(2024年9月)、足立区で自治体の職員などに講演をした際は、『東京デフリンピック2025』という手話を教えたり、聞こえない人とのコミュニケーションは一つではないことなど、具体的な接し方について話したりしていました。
話を聞いた足立区のスポーツ推進委員
植松さんのエネルギーがものすごく伝わってきましたし、『デフリンピック』や『東京』はふだんから使えそうな手話だと感じました。自分も身近な人を巻き込んで、デフリンピックについて広く伝えていきたいです。
植松さん
「聞こえない人でもコミュニケーションの方法はみんな違います。聴力もみんなバラバラで、手話がいい人もいれば、ゆっくり話してほしい人もいる。音声認識アプリでやりとりした方がいい人もいる。場面に合わせたコミュニケーションの方法を選択することが大切」
デフリンピック 壁をなくす きかっけに
植松さんは、今回のデフリンピックで聞こえない人の日常的な工夫を広く知ってもらい、コミュニケーションの壁をなくすきっかけになればと期待しています。
![両手を挙げて講演する植松隼人さん](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/818805f6-fc02-4e5f-a19b-f3d07404a680_480x480.jpg?v=1728605475)
植松隼人さん
「聞こえない人たちにとっては、まだまだ情報やコミュニケーションの壁がある社会なので、まずはデフリンピックを通して、聞こえない人たちがどういう工夫をしているのかを実際に知ってもらいたいです。そうした工夫の1つ1つが、普段の生活に生かせることがあると思います。そうしたことが日本中に広がっていけば、障害のある人もない人も誰もが暮らしやすい社会になっていくと思います」
取材後記
全員が平等に情報を受け取れるよう工夫をし、相手と対等にコミュニケーションをとることを大切にする植松さんの姿勢に、自らが経験した「コミュニケーションの壁から生まれる苦しさ」を感じさせないようするという、強い気持ちが伝わってきました。
茉耶さんが話していた「聞き返せる雰囲気ではなかった」ということばには、難聴がありデフテニスに打ち込んできた私自身、同じ経験をしたことを思い返しました。指示を聞き返せず、周りの動きに合わせるだけで、積極性がなくなっていく自分に嫌気がさしたのです。恥ずかしかったという経験を堂々と話してくれた茉耶ちゃんに、もうこんな思いは誰にもしてほしくないと強く感じました。
子どもたちに対して理解できるまで何度も説明を繰り返す植松さんと、のびのびとプレーをする子どもたち。「ここで自信をつけて、地域のクラブに出て成長していってほしい」と植松さんが話すように、聞こえにくさへの理解が広がって、子どもたちの活躍の場が広がっていってほしいと思います。
(首都圏局/記者 喜多美結)
![首都圏局 記者 喜多美結](https://cdn.shopify.com/s/files/1/0639/5520/6382/files/eae4d2ac-cd95-4032-9970-882c63bd2afa_480x480.jpg?v=1728605476)
喜多美結
2023年入局。共生社会やスポーツ、教育に関心があります
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