聞こえの基礎知識【児童編】(小学生)

お子さんの聞こえに不安を抱えていませんか?

このページは、小学生のお子さんの聞こえに関して正しい情報を探している方向けのページです。

「どこに相談したらいいか分からない」、「情報が多すぎて、どれが正しい情報か分からない」、「どうやって支援を受けていけばよいのか」など悩まれている保護者の方々が、少しでも不安や悩みが軽減し、正しい情報を得て、前向きにお子さんに寄り添えるよう、さまざまな情報をお届けしています。

少しお時間をいただきこのページを読んでいただくことで、みなさんが持っている疑問や不安を解消できたらとても嬉しいです。

お子さんに難聴があることが分かった時、驚きと不安で一杯になったかと思います。

聞こえないこともお子さんの特徴の一つと捉えてあげてください。

その上で、お子さんの難聴の種類、難聴の程度を把握し、それに対処していくにはどの様な選択肢があるのか、それぞれの対処の長所・短所をしっかりと理解することが必要です。

難聴の種類

難聴の種類

難聴はどの部分に問題があるかによって大きく分けて4つの種類があります。

伝音声難聴

耳の穴(外耳)から鼓膜の奥(内耳)のどこかに問題があり音が伝わりにくくなる難聴です。

耳垢が詰まっていたり、鼓膜に傷がついていたり、中耳炎により中耳に水や膿が溜まることで聞こえに影響を与えることもあります。

また、先天的に中耳にある耳小骨の奇形が原因となることもあります。

伝音声難聴は一時的な症状のことが多く、薬や外科的な治療で聞こえにくさが解決することが多くあります。

外科的な治療で完治しなかった場合も、音を大きく伝える補佐をしてくれる器械(補聴器)を使うことで聞こえにくさが解決されやすくなります。

感音性難聴

中耳の奥にある内耳と呼ばれる部分に問題があり聞こえにくくなる難聴です。

遺伝子の異常や妊娠中の感染による難聴が感音性難聴です。

感音性難聴は聞こえにくい音が一人ひとり異なるため、単純に音を大きくするだけでは聞き取りが難しく、補聴器や人工内耳を使う際にも様々な工夫が必要となります。

混合性難聴

感音性難聴と伝音性難聴の両方の症状が見られる難聴です。

心因性難聴

音を感じる内耳や脳の聴覚野に問題がなく、心理的な要因から引き起こされる難聴で、学童期に多く見られる傾向があります。

心因性難聴は、心理的な要因が関与しているため、原因と考えられる心理的ストレスを取り除くことが重要です。

一側性難聴について

片方の耳が極端に聞こえにくい難聴を一側性難聴と言います。

1,000人に1人という比較的高い頻度で起こると言われていますが、もう一方の耳は正常に聞こえるため、子どもの一側性難聴は気づきにくく、就学時健診などで見つかるケースも珍しくありません。

一側性難聴は以下のような特徴があります。

  • 難聴がある側から声をかけられると気が付かない/聞こえない
  • どこから声をかけられたかわからない
  • 騒がしい場所では話が聞き取りにくい
  • 騒音下での複数人との会話では、とても疲れる
  • 聞こえの問題だけでなく、対人関係の中から生じる心理的問題を抱える可能性がある

一側性難聴のお子さんに対しては、先生やお友達の配慮や協力を得ることも大切です。

  • 教室での座席を聞こえる側を意識した位置にする
  • できるだけ聞こえる側から話しかける
  • 騒音下での聞こえをサポートする補聴援助システムを活用する
  • 危険回避のため道を歩くときは聞こえる側の耳が車道に向くようにする

聞こえているけど聞き取れない

聴力は正常にもかかわらず、日常生活のさまざまな場面で聞き取りにくさが生じる子どもたちがいます。

  • 聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorder=APD)
  • アスペルガー症候群
  • 自閉症スペクトラム

音を収集/感知する外耳、中耳、内耳、末梢の聴神経の機能には問題が無いのですが、聴覚情報を処理する「脳」の中枢神経に何らかの問題があり難聴に似た症状がでる状態とされています。

音は聞こえているのに、その内容を理解できない、または、理解に時間がかかる状態で、難聴のある子どもたちと同じような困難があります。

  • 騒がしい場所では話が聞き取りにくい
  • 騒音下での複数人との会話では、とても疲れる
  • 聴覚的注意の欠如
  • 聴覚的な記憶力が弱く、聴覚経由での学習が困難

この様なお子さんには難聴のあるお子さんと同様、聞こえの配慮が必要とされています。

  • 指示を出すときは一度に多くのことを伝えず指示を単純化する
  • 口頭の指示だけでなく、視覚的な情報もえられるようプリントも用意する
  • 騒音下での聞こえをサポートする補聴援助システムを活用する

難聴の程度

難聴の程度はどの位の大きさの音が聞こえるかを検査して得られる平均聴力と呼ばれる耳の聞こえの状態の数値により4つに分けられます。

軽度難聴(25~39 dB)

小さな声や騒がしい場所での会話の聞き取りが難しい、聞き間違いやすい聞こえのレベルです。

声は聞こえても、言葉としては分かりにくいため、大人であれば、聞こえにくい部分を既に身につけている言語力で聞こえを補い言葉を理解することができますが、言葉を学習している途中の子どもにとっては、補って理解することが困難になることがでてくるため早期に発見し、適切な配慮をすることが必要です。

また、軽度難聴は周りから気づきにくく、お子さんから聞こえないとは言わないので、大人側が注意してみてあげることが必要です。

中等度難聴(40~69 dB)

通常、人の会話の音の大きさが 60dB 前後といわれています。

その会話の音が近い距離にいても聞き取りにくいレベルです。中等度難聴は、騒がしい場所での会話が難しく、グループでの会話が難しくなるため、きこえにくいことにより、自分に自信を持つことができず、円滑な対人関係がとりにくくなり、これに起因し、社会性の発達の遅れにつながることも危惧されます。聴覚の補償や特別な配慮が必要になります。

高度難聴(70~89 dB)

普段の会話の大きさでは聞き取ることが難しくなるレベルです。

かなり大きな音、例えば救急車のサイレンの音の大きさくらいの音を、30 cmくらいの近い距離で出す必要が出てきます。

聴覚の補償や特別な配慮が必須になります。

重度難聴(90 dB以上)

基本的に、かなり大きな音、たとえば電車が通るときのガード下の音くらいの音がしている、ということを感じとることが出来る状態です。

聴覚による補償に加え、視覚的な情報支援や特別な配慮が必須になります。

言語獲得

言葉のやり取り

お子さんが成人して親元を離れるまでに大きな目標が2つあります。

最初の一つは『言語獲得』であり、最終目標は『自立』です。

人は言語を獲得して他の人とコミュニケーションをとります。

人の発達にはコミュニケーションは不可欠であり、言語を獲得するためには音声による聴覚情報が大切になります。

「考える力」と「表現力」

小学校に入学すると活動の中心が遊びから学習に変わります。

先生の話を聞くことはもちろん、グループ学習などの集団での活動も増えてきます。

自分の考えを言葉を使って先生やお友達にわかるように伝えるために、「考える力」と「表現力」が必要になってきます。

普段の生活の中でたくさんの言葉にふれて、語彙力を増やすこと。そのためには言葉を聞いて、お子さん自身がその言葉を話し、自らの音声を聞き、音声の調整を行う聴覚フィードバックも大切になってきます。

ご自宅でもできる限りお子さんに話しかけて、お子さんがたくさんの言葉にふれるようにしてください。

お子さんが経験したことに対して、「どう思ったのか」、「どうしてそう思ったのか」など質問も投げかけて思考力と表現力を鍛えてあげてください。

<聞こえのコラム①>
『9歳の壁』

「9歳の壁」という言葉を聞いたことはありませんか?

難聴のある子どもの学力が9歳くらいの段階で、抽象的な語彙の習得や抽象的な思考が難しいために、読み書きや学力の面で伸びなやむ状態を意味しています。

小学低学年までは生活中心の学びが多く、直接経験した題材を取り上げて学習しますが、小学3、4年生からは間接経験を主体にした学習言語が増え理解が難しくなります。

学習言語は語の一部の情報が欠落すると内容を推測しにくく、言葉による抽象的な思考の困難は、知的能力や学力に大きく影響を及ぼすと言われています。

生活言語から学習言語へスムーズに移行するために、お子さんの学習言語に触れる機会を増やし、「考える力」を養うことが大切です。

聴覚活用のための機器

補聴器

補聴器

本体に内蔵されたマイクロホンで拾った音を大きく聞きやすい音にして聞こえを補う医療機器です。

形状は耳に掛ける耳かけ型、耳の穴に入れる耳あな型、携帯ラジオのような形をした箱型、また伝音声難聴用のカチューシャ型、メガネ型がありますが、お子さんが使う補聴器は一般的に耳かけ型がほとんどです。

耳かけ型補聴器を装用する際には、お子さんの耳の形や大きさに合わせたオーダーメイドの耳せん(イヤーモールド)を使います。

人工内耳

人工内耳

手術で電気刺激を発する電極を内耳に埋め込み、これを制御する装置を頭部の皮下に埋め込みます。

音を拾うマイクロホンが内蔵された体外装置を、頭部皮下に埋め込んだ装置の上に磁石を用いて装着することで音を電気刺激に変換し、聞こえの神経に直接伝達します。

人工中耳といった聴覚補聴機器を用いても十分な言葉の聞き取りが得られない難聴の方や重度の難聴の方が対象となります。

他の機器と異なり電気刺激で聞こえの神経に音を伝えるので、人工内耳からの音に慣れ、聞き取りがよくなるまでに、個人差があり、時間がかかります。

国内ではコクレア(株式会社日本コクレア)、アドバンスト・バイオニクス(株式会社日本バイオニクス)、メドエル(メドエルジャパン株式会社)があります。

補聴器/人工内耳の限界

補聴器や人工内耳には限界があることをご存じでしょうか?

補聴器/人工内耳の限界その①距離

補聴器/人工内耳の限界その1距離

面と向かって話している相手の声はよく聞こえても、話し相手が離れれば、離れるほど、相手の声が小さくなり聞き取りにくくなりますよね。

音は距離によって減衰するため、離れた相手の声を聞くことは補聴器/人工内耳を使っても難しくなります。

一般的に補聴器/人工内耳で十分に言葉を聞き取れる相手との距離は1.5mが限界と言われています。

補聴器/人工内耳の限界②騒音

補聴器/人工内耳の限界2騒音

補聴器/人工内耳はマイクロホンで相手の声を拾いますが、騒がしい場所では騒音も一緒に集音してしまいます。

騒音を抑制し言葉を聞き取りやすくする機能がついている補聴器/人工内耳もありますが、その効果は高価な器種に限られていたり、機能が付いていても騒音の大きさによっては限界があったりします。

補聴器/人工内耳をつけていても、つけていなくても騒がしい環境での言葉の聞き取りは難しいと考えてください。

補聴器/人工内耳の限界③複数人との会話

補聴器/人工内耳の限界3複数人との会話

複数人との会話が難しいと感じたことはありませんか?

補聴器/人工内耳にはマイクロホンに騒音が入るのを防ぎ、話し相手の声をしっかりと集音するために、指向性マイクロホンと言って話し相手の方向の音をより大きく集音する機能がついている機種が多くあります。

話し相手が複数人の場合、この指向性の機能のために顔を向けていない方向の人の声が聞き取りにくくなることがあります。

聞こえは補聴器/人工内耳をつけて改善することが一般的ですが、その人の聴力やその日の体調、また騒がしい場所での聞き取りなど、補聴/人工内耳器だけでは聞きたい声を十分に聞き取ることが難しい場合があります。

補聴器/人工内耳の限界を補う

補聴援助システム

そんな時に補聴器/人工内耳と合わせて使用することで言葉の聞き取りを向上させるのが補聴援助システムです。

補聴援助システムは、補聴器/人工内耳の限界である①距離②騒音③複数人との会話を克服するために開発されたシステムで、補聴器/人工内耳だけの聞こえを大きく改善してくれます。

補聴援助システム

補聴援助システムにはさまざまなシステムがありますが、特別支援学校や公共の施設などに設置されているヒアリングループや、先生が使うワイヤレスマイクロホンと補聴器/人工内耳に取り付けた受信機の組み合わせで使うFM補聴援助システム/デジタルワイヤレス補聴援助システム(フォナック社のロジャーが有名です)などがあります。

音声文字化アプリ

音声文字化アプリ

聴覚情報と合わせて視覚的に情報をとることができるとコミュニケーションが楽になります。

視覚的に情報を入手する手段としては、筆談もありますが、音声を文字化してくれる便利なアプリもあります。

特に実用的で多くの導入事例がある「UDトーク」は、学校での授業はもちろん、リモート授業のシステムを通した声が聞き取りにくいという場合にも、リアルタイムで音声を文字にして表示することができるので、聴覚と視覚の情報を同時に入手でき、聞き取りを大きくサポートしてくれます。

公的支援を活用する

難聴に対する国や自治体の支援を知っておくことも大切です。

医療費控除(国/自治体による支援)

平成30年度から補聴器購入に際し、医療費控除を受けられるようになりました。

<一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会 HPより>

補聴器の装用と活用は、WHOのキャンペーンに「難聴」が取り上げられ、さらには難聴と認知症の関係のエビデンスが蓄積されつつある現在、日耳鼻として推進すべき社会貢献の中でも喫緊の課題の一つです。

超高齢社会を迎え、身体障がい者に限らず広く補聴器を活用することは重要でありますが、補聴器は高額な医療機器であり、装用者、購入者にとって大きな負担となっています。

平成30年度から、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」の活用により、医療費控除を受けられることが、厚生労働省、財務省によって承認されました。

「医療費控除について」を読む

障害者総合支援法(国/自治体による支援)

障がいのある人や児が基本的人権のある個人としての尊厳にふさわしい日常生活や社会生活を営むことができるよう、必要となる障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援やその他の支援を総合的におこなうことを定めた法律です。

障害者手帳を持つ難聴者/児も対象となり、平成22年12月から発達障害も含まれるようになりました。

障がいのある方が日常生活上において必要な移動や動作等を確保するために、身体の欠損または損なわれた身体機能を補完・代替する用具を補装具と呼び、補聴器やワイヤレスマイクが該当します。

補装具の購入や修理に要した費用(基準額)から、所得に応じた自己負担額を差し引いた額を補装具費として市町村から支給されます。

申請者は原則として補装具の購入または修理に要する必要額の1割を負担します。
(所得に応じて月額負担上限額あり)

<購入基準価格表>(令和4年4月時点)

利用するには、市町村の障害福祉窓口や都道府県が指定する指定相談支援事業者などへの相談が必要となります。

軽度中等度難聴児支援(自治体による支援)

身体障害者手帳の対象とならない軽度難聴、中等度難聴のお子さんを支援する制度です。こちらは国の制度ではなく自治体による支援のため、支援の有無や、支援の内容が自治体ごとに異なります。

障害者総合支援法を基準にして支援内容が決められていることが多く、補聴器やワイヤレスマイクを購入する際の助成があります。

障害者差別解消法

平成25年6月に制定された障害者差別解消法では、国や自治体、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止し、また障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること「合理的配慮」の提供が国や自治体は法的義務、民間企業・事業者は努力義務とされており、第204回通常国会において改正障害者差別解消法が成立し、公布から3年以内に民間企業・事業者も法的義務化されることになりました。

障害者総合支援法や軽度中等度難聴児支援は補聴器やワイヤレスマイクに対する支援はありますが、例えば学校でお友達の発表を聞くためのマイクロホン(マイクロホンから補聴器に音をワイヤレスで飛ばすシステムがあります)や、音声を文字化してタブレット等で情報を支援するシステムなどはその対象になりません。

障害者差別解消法の施行以来、合理的な配慮として認められ、学校や自治体が上記のマイクロホンや視覚情報支援のシステムを導入してくれる事例が出てきました。

自立とセルフアドボカシー

走るのが早い人と遅い人、計算が得意な人と苦手な人、たくさん食べられる人と少ししか食べられない人など、一人一人がその人の特徴を持っています。

難聴があっても、それもお子さんの一人の人としての特徴として受け止め、自分らしく生きてほしい。そう思われるのではないでしょうか。

当たり前の話ですが、人は一人では生きていけません。

人が自分らしく生きるためには、次の3つのことが大切になってきます。

自分らしく生きる① 自分を知る

人が成長するためには自我の発達が欠かせません。

自分を知ることで、自分固有の生き方や価値観を獲得していきます。

自分らしく生きる1 自分を知る

自我の発達には年齢に応じた過程があります。

乳児期(0~1歳半)

親や周りの大人からの愛情を受け、世話をされることで基本的な信頼感を形成する時期

幼児前期(1歳半~3歳)

遊びなどの体験から自立性や挑戦欲が発達する、また自分と違う他者の存在やその視点に気付く時期

幼児後期(3歳~5歳)

同世代の子どもとの関わりが増え、外の世界に興味を持ち、関心のあるものに対して積極性が形成される時期

学童期(5歳~12歳)

さまざまな課題に取り組むことで自分に能力があることを自覚し、自己肯定感を持ち始める時期であり、物事を達成することにより次の課題への勤勉性が育つ時期

小学校での6年間は勉強の仕方を発見し、学ぶことの楽しさを知り、学習意欲が高まっていきます。

そして学びの中から自分の強みや弱みを理解し、自信を獲得していきます。

お子さんの得意なことや好きなことをどんどん伸ばしてあげる。

お子さんが難しい問題に出会ったら、わかるまで一緒にその問題と向き合う。

この繰り返しによりお子さんは、自分を知り、次に迎える青年期でアイデンティティを確立(自分は何者で、自分は何をしたいのか、将来何になりたいのかなどを知ること)していくことができるようになります。

お子さんが自分を知るためには、主体的、そして対話的で深い学びが必要と言われています。

教育現場も先生が一方的に話し、子どもたちが受け身で授業を受けるのではなく、子ども自身が自分の意見や考えを周りに伝え、他者の意見や考えを聞き、自他の違いを受け止めたうえで改めて自分自身の考えをまとめ、周りの人たちと合意形成をしながら学んでいくように変わってきています。

自分らしく生きる② 自分が暮らしている環境を知る

自分を知ることと同じくらい大切なのが、自分が暮らしている環境を知ることです。

日々コミュニケーションをとる家族、お友達、先生のこと、また聞こえにくい時はどの様な時なのか、お子さん自身が聞こえにくい環境を知ることも大切ですが、親そして先生もお子さん本人が気づかない聞こえにくい環境を把握することが必要です。

課題が分かれば、対処方法を調べることができます。

お子さんの難聴の種類、難聴の程度を把握し、それに対処していくにはどの様な選択肢があるのか、それぞれの対処の長所・短所をしっかりと理解することも大切です。

自分らしく生きる③ 身の回りの活用できる支援を知り、自分に必要な配慮を求める

お子さんが好むコミュニケーション手段に関する情報を周囲の人たちに共有できるようにしてあげましょう。例えば、お子さんにとって最善のコミュニケーション方法が、周りの人たちに一目でわかるようにわたしのセルフアドボカシーノートというようなものを作る方法があります。
わたしのコミュニケーションノート

「私のセルフアドボカシーノート(見本)」をダウンロードする

テンプレート(有料)もご用意しました。

セルフアドボカシーシート【児童&学生編】のページはこちら

また、お子さんが抱えているコミュニケーション上の課題に対処するために、身の回りに活用できる支援を探してみましょう。 

学校で多くの時間を一緒にすごす先生やお友達の支援は必須です。

  • 必ず口を見せて話をしてもらう
  • 指示を出すときは板書やプリントなどを使い視覚情報も組み合わせてもらう
  • お子さんが理解しているか都度確認をしてもらう
  • グループ活動では手を挙げてから一人ひとり発言してもらう
  • 机の脚にテニスボールを取り付け、机を引き擦る際の騒音を低減する
  • 補聴援助システムを活用する
  • 音声文字化アプリなどを活用し視覚情報も組み合わせる
  • お友達の発表の声を聞くために、発表用のワイヤレスマイクロホンを準備してもらう

お子さん自身が、周りに配慮を求められるようにすることも必要ですが、保護者が事前に教育機関に説明し、配慮を求めることも大切です。

特別支援教育コーディネーターに相談してみることも一つの方法です。

特別支援教育コーディネーターは、障がいのある児童生徒の一人一人の教育的ニーズに応じた支援のために、保護者に対する学校の窓口であり、また学校、福祉、医療等の各関係機関との間の連絡調整役を担っています。

<聞こえのコラム②>
『キャリア・パスポート』

2020年度から全国の小学校、中学校、高校で「キャリア・パスポート」がスタートしました。

キャリア・パスポートは、特別活動を中心に各教科の学習などと関連づけながら、自らの学習状況やキャリア形成について考え、都度振り返り、児童生徒自身の変化や成長を自己評価できるようにするものとされています。

そしてキャリア・パスポートは、先生が記入するのではなく児童生徒が自ら記入します。

国の教育方針が変わりつつあり、お子さんが自分を知り、自ら自身の職業人生に責任を持ち、自己実現をしていくことが求められるようになります。

よくある質問

「9歳の壁」とはどういうことでしょうか。

難聴のある子どもの学力が9歳くらいの段階で、抽象的な語彙の習得や抽象的な思考が難しいために、読み書きや学力の面で伸びなやむ状態を意味しています。

小学低学年までは生活中心の学びが多く、直接経験した題材を取り上げて学習しますが、小学3、4年生からは間接経験を主体にした学習言語が増え理解が難しくなります。

学習言語は語の一部の情報が欠落すると内容を推測しにくく、言葉による抽象的な思考の困難は、知的能力や学力に大きく影響を及ぼすと言われています。

生活言語から学習言語へスムーズに移行するために、お子さんの学習言語に触れる機会を増やし、「考える力」を養うことが大切です。

子どもの補聴器と人工内耳を管理するための配慮事項について教えてください。

補聴器や人工内耳体外装置は一般的な機器と同様、湿気や衝撃を避けることが大切です。お子さんが低学年の内は保護者または学校の先生にお願いして機器を管理しますが、学年が上がるにつれお子さん自身で機器を管理できるようにします。

・毎朝、バッテリーチェッカーを使って空気電池の残量(または充電池の残量)の有無を確認する

・予備の空気電池(または充電池)を準備しておく

・空気電池を補聴器/人工内耳に入れるときはプラス/マイナスの向きに気をつける

・試聴チューブ(またはモニタリングイヤホン)を使って実際に補聴器から出てくる音を確認する

・就寝時は補聴器/人工内耳から空気電池を取り出し(または充電池を外し)乾燥機に入れる

・汗をかきやすいお子さんは汗対策として補聴器/人工内耳カバーを活用する

・イヤーモールドを定期的に洗浄する

・定期的に(夏休みなど)補聴器、人工内耳体外装置をメンテナンスに出す

中等度難聴児が補聴器を購入する際に助成金はありますか。

身体障害者手帳の対象とならない軽度難聴、中等度難聴のお子さんを支援する制度がありますが、国の制度ではなく自治体による支援のため、支援の有無や、支援の内容が自治体ごとに異なります。

支援の有無や内容についてはお住いの自治体の福祉課などにお問い合わせください。

<参考>

ロジャーの申請が通りません。どう説得すればよいでしょうか?

お使いの補聴器が重度用耳かけ型補聴器で受信機、オーディオシュー、ワイヤレスマイクを必要とする場合、補聴器と同じように「補装具申請」が可能です。

お使いの補聴器が重度用耳かけ型補聴器以外の場合は、「特例補装具申請」という申請を行います。

補装具でも特例補装具でも『真に必要な理由』が必要とされているので次のような理由を強く訴える必要があります。

・教育上必要(ロジャーがないと授業についていけない)

・グループ活動などは、通常の授業よりも騒がしいため、ロジャーはないと授業についていけない

また、耳鼻咽喉科の先生や地域の特別支援コーディネーターに相談するのもよいかと思います。

<参考>
『『知っておきたい聞こえの豆知識』』
ロジャーの申請方法【未就学児編】

Tコイルを利用したマイリンクは子ども向きではないと聞きましたがなぜでしょうか?

下記の理由から特に言語獲得期のお子さんにはTコイルを利用する首かけ式の受信機(マイリンクなど)より補聴器/人工内耳に直接接続するユニバーサルタイプの受信機(ロジャー エックスなど)の方が望ましいと言われています。

・補聴器/人工内に内蔵されているTコイルを利用して聞く音は、Tコイルの物理的な特性から低い周波数帯が小さく、逆に高い周波数帯が大きく聞こえる

・特に言語獲得期のお子さんにとっては、補聴器/人工内耳の音と補聴援助システムからの音とが同じ特性であることが望ましいと言われている

・Tコイルは蛍光灯やパソコンのモニターからの電磁波によりノイズが聞こえることがある

幼稚園/保育園でロジャーを使ってもらえません。どう説得すればよいでしょうか?

平成25年6月に制定された「障害者差別解消法」では、国や自治体、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止し、また障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること「合理的配慮」の提供が国や自治体は法的義務、民間企業・事業者は努力義務とされており、第204回通常国会において改正障害者差別解消法が成立し、公布から3年以内に民間企業・事業者も法的義務化されることになりました。

この「障害者差別解消法」のことを説明し、「合理的配慮」を求めるのがよいかと思います。

また、地域の特別支援コーディネーターに相談するのもよいかと思います。

<参考>
『お役立ち資料』
幼稚園/保育園でロジャーを使ってもらう時の説明資料

補聴援助システムを使用していますが、どのようなことに気をつけるとよいですか。

補聴援助システムは一般的な機器と同様、湿気や衝撃を避けることが大切です。お子さんが低学年の内は保護者または学校の先生にお願いして機器を管理しますが、学年が上がるにつれお子さん自身で機器を管理できるようにします。

・充電が必要な機器は就寝前に充電を行う

・朝一で機器がフル充電されているか確認する

・学校で充電がなくなった時のために、可能であれば予備の充電器を学校に置いておく

・ワイヤレスマイクロホンの電源を入れるときは、お子さんに「マイクのスイッチを入れるよ~」と一声かけてから電源を入れる

・補聴援助システムを使う際にプログラムを変える必要がある補聴器/人工内耳の場合は、プログラムを切り替える

・ワイヤレスマイクロホンからの声が補聴器/人工内耳に届いているか確認するために、ワイヤレスマイクロホンを指で軽くこすり、「カサカサ」音が聞こえているかお子さんに確認する

・ワイヤレスマイクロホンの電源を切るときは、お子さんに「マイクのスイッチを切るよ~」と一声かけてから電源を切る

・ワイヤレスマイクを装着する人は、マイクロホン部分に衣服がこすれて衣擦れ音が発生しない様に気をつける(できるだけカサカサする服装は避ける)

・可能であればお友達の発表の際にワイヤレスマイクを使ってもらう

<参考>
『お役立ち資料』
学校でのロジャー活用ガイド【ロジャー タッチスクリーン マイク】
学校でのロジャー活用ガイド【ロジャー オン】
学校でのロジャー活用ガイド【ロジャー セレクト】
学校でのロジャー活用ガイド【ロジャー ペン】

ロジャーを使っています。先生の声は聞こえるのですが、クラスメイトの発表の声を聞き取ることができません。何か方法はありますか?

先生の声を聞くのにロジャーのワイヤレスマイクロホンが必要なのと同じように、離れたところにいるクラスメイトの声を聞くにはワイヤレスマイクロホンが必要です。

クラスメイトの発表の際に先生のマイクを一時的に使ってもらう、2台目のマイクロホンを用意するなどの方法が考えられます。

<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
『セルフアドボカシー』って何?

『お役立ち資料』
ロジャーマイク複数台の使い方【タッチスクリーン&パスアラウンドマイク】
ロジャーマイク複数台の使い方【オン&セレクト & ペン】

聴力検査では異常がないと言われますが、騒がしいところで相手が何を話しているのかが分かりません。ロジャーを使うと聞こえると聞いたのですが、どの様なしくみですか?

補聴器や人工内耳を使っていない方が使用できるロジャー フォーカスというロジャー受信機があります。

ロジャー フォーカスは耳に掛けて使う小型のイヤホンで、ロジャーのワイヤレスマイクロホンからの音が届く仕組みで離れたところにいる相手の話を聞いたり、騒がしい環境での言葉の聞き取りを助けてくれたりします。

<参考>
聞こえの用語集
【LiD/聞き取り困難】
【APD/聴覚情報処理障害】


『知っておきたい聞こえの豆知識』
補聴援助システム『ロジャー』とは?

聞こえについて相談する