健康長寿につながる耳の守り方
第1回 「耳の心筋梗塞」と呼ばれる、早期治療が必要な難聴も
2024/10/16 荒川直樹=科学ライター
「人の話を聞き返すことが増えた」「ドラマの台詞(せりふ)が聞き取れないことがある」……。それは、聴力の低下が進み始めたサインかもしれない。最近の研究では、認知症の発症リスクを高める最大の要因が「難聴」であることが分かってきた。重要なのは「耳の不調」を感じたら耳鼻咽喉科に相談し、精密な聴力検査を受け、早めに対処すること。「聞こえを守る生活法」についてJCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則氏に話を聞いた。
『健康長寿につながる耳の守り方』 特集の内容
第1回 甘く見てはいけない耳の不調 認知症を高める最大のリスクは「難聴」←今回
第2回 耳を守る「耳体操」と「耳掃除」の新常識 専門医が伝授
第3回 聴力低下のサインを見逃すな 早期の補聴器デビューほど脳になじむ
(写真:PIXTA)
難聴は認知症の最大のリスクだった
認知症の研究者によって組織された「ランセット委員会」が2017年に公開したレポートに、耳鼻咽喉科の医師や認知症治療に携わっている多くの医師たちは驚いた。「認知症は9つのリスク因子を改善することで35%は予防できる」というもので、「高血圧」「糖尿病」「喫煙」「肥満」「うつ病」といった9つのリスク因子の中で最もリスクが高いものに「難聴」が挙がった。
このレポートは2回改訂されており、24年版ではリスク因子の数は14に増え、認知症予防の可能性も45%に増えているが、今でも「難聴」の関与はリスク要因の中で最も高い。言い換えれば耳の健康を守ることは、最も重要な認知症予防になる。このため今は、認知症の予防については、認知症の専門医だけでなく、耳鼻咽喉科医とタッグを組むことが大切だと考えられるようになっている。
難聴が会話や外出を減らし、認知症につながっていく
なぜ難聴が認知症につながるのか。JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則氏は「聞き取る機能が衰えると周囲の人との会話が減ったり、外出を控えるようになったりして、活発な脳の働きを促すコミュニケーション機会が減少します。それが認知症リスクを高めるのです」と解説する。
確かに、人の話を何回も聞き返したり、聞き間違いで相手の話の内容が混乱したりするのが続けば、自分も話すのがおっくうになるほか、相手も話しかけるのが面倒になる。次第に会話の機会が減っていき、家族や仲間内からも孤立していったりする。また、難聴によってコミュニケーションがうまくいかなくなると、人との接触をつい避けるようになり、それがうつ病につながることもある。
最近では、加齢により聴覚が低下したことで生活に支障をきたした状態を「ヒアリングフレイル」と呼び、各自治体の保健機関が「難聴の予防と早期発見」に務めるようにもなってきている。
40代以降、高い音から聞こえにくくなる
耳が音をとらえる能力「聴力」は年齢とともに少しずつ衰えていく。国立長寿医療研究センターが高齢者の聴力の変化を調べた結果、年齢が高くなるとともに高い音から聞こえなくなっていた。耳鼻咽喉科医が患者の生活を考慮して難聴と診断することが多いのは、会話などに使われる500~2000Hzの周波数の音に対する平均聴力が35dBより悪くなった状態だ。70代後半男性では約71%、80歳以上の男性では約84%が難聴と診断される(*1)。
簡易的な「聞こえチェック」で自分の聴力の目安を知ろう
40代、50代になると、自分はどの高さの音まで聞こえているかと気になるだろう。補聴器メーカーなどはウェブサイトにサンプル音源を公開している。その一つがシャープが提供している「耳年齢チェック(サイトはこちら )」だ。
(シャープ/メディカルリスニングプラグ「耳年齢チェック」のHPより引用)
このサイトを利用する場合、まず音量を低めに設定してから「テスト音源を再生する」ボタンを押して「ピー」音が適度な大きさで聞こえるようパソコンやスマートフォンの音声を調整する。
その後、「ナニ耳体験を開始する」ボタンを押して開く画面で「再生する」ボタンを押す。そこで、順番に再生される音がどこまで聞こえるかチェックする。
皆さんは、どの音まで聞こえただろうか。重要なのは、聞こえないからといってボリュームを最大にしないこと。聞こえなくても音は出ているので耳に影響を及ぼすことがある。また、あくまで簡易的なチェックであり、正確な聴力検査は耳鼻咽喉科で受けてもらいたい。
*1 内田育恵, et al. 日本老年医学会雑誌. 2012; 49(2): 222-227.
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