中途失聴の弁護士、片貝俊明を演じた小川光彦です。
ドラマをご覧いただいた方からの感想では「自然な演技で良かった」という声が多く、うれしい限りです!監督やスタッフ、手話通訳の皆さんが「見てわかる」環境をご用意くださったおかげで、ありのままに演じることができました。
デフ・ヴォイスは多様なろう者、中途失聴・難聴者や、彼らを取り巻く環境が登場する希有なドラマです。エキストラも含めると30人以上の聴覚障害者が出演していたでしょうか。片貝弁護士の演技についても、中途失聴・難聴の当事者による考証が入り、内容を複数の視点でチェックしたので、安心して演技に臨めました。
ひとつ残念だったのは、片貝弁護士の会話の場面が、聞こえる人と同じように見える、誤解される、という意見が多かったことです。
小川は音を全て聞き取れているわけではありません。わかるとき、わからないときがあります。中途失聴・難聴者は、外見だけでは聞こえにくいことがわからないという特徴があります。そういう意味ではリアルな場面だったのではないでしょうか。
実際には、ドラマ撮影シーンの会話は「補聴援助システム」を使っていました。小川は音声で会話するときは、補聴器以外に「補聴援助用マイク」、「音声認識アプリ」を使っています。一般に話し相手から離れるほど声は小さくなりますが、専用の「補聴援助用マイク」を相手に使ってもらうと、どこからでもほぼ同じ強さで補聴器に届くのです。
それでも聞き取れないときに役立っているのが「音声認識アプリ」。マイクをスマートフォンと同期させて、音声認識アプリで文字変換して、聞こえを視覚的に補っています。
今回のドラマ画面でも例えば法廷の場面で、スマホを持つ片貝弁護士の前に、小さいマイクがありました。皆さんお気づきになったでしょうか?ドラマの中で無線補聴援助システムを使った、初めてのケースではないかと思っています。
とはいえこのシステムでも100%対応できているわけではありません。専門用語や数字など、音声認識で正確に表示されにくい言葉があります。騒音や環境にも左右されます。事前にシステムを準備していないと、急に声で話されても対応できません。わからなさの中に立ちすくむことがしばしばあります。
小川に限らず聴覚障害者の多くは、このような聞こえの不確かさの中で戸惑う場面がよくあること、相手がわかりやすい方法で伝える必要があること、いつも忘れずにいてほしいと思います。
また、ドラマで小川の「声」に注目いただいた方も多かったようです。自分ではあまりわかっていませんでしたが、聞こえる人の声とは異なる、中途失聴・難聴者独特の声だと言われました。
「汝もまたデフ・ヴォイスなり」と妻の言ふ 聴・ろう 境は何処にありや
このドラマの音声は、長井恵里さんが演じたろうのお母さんのデフ・ヴォイスに始まり、尚人の母役・五十嵐由美子さんのデフ・ヴォイスで終わりました。聴こえる人にとっては、ドラマを楽しむために、音声が重要な要素になっているのだろうと思いますが、それを象徴しているように感じました。
ではろう者が制作したらどうなったか?と考えると、また新しいドラマができそうな気がします。60歳で新人デビューし、いろいろな化学反応を起こしたドラマに関われたこと、一生の想い出になります。ありがとうございました。
リンク先はデフ・ヴォイス(NHK)というサイトの記事になります。