国が力を入れる難聴の早期発見・介入。 ケアマネジメントにも大きな影響が

国が力を入れる難聴の早期発見・介入。 ケアマネジメントにも大きな影響が

2024-11-15

聞こえにくそうに耳に手を当てる年配の女性

厚労省がHP内で、「『聞こえにくさ』感じていませんか?」と題したサイトを公開しています。一般社団法人・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の協力を得て作成したもので、いわゆる難聴の症状や「耳の健康チェック」のリストなどが掲載されています。認知症リスクなどを高めるとされる難聴ですが、ケアマネジメント上の留意点などについて考えます。


「難聴」による転倒リスク増大の指摘も


加齢性難聴の場合、一般的に40歳代から聴力の低下傾向が高まり、65歳から「聞こえにくさ」を感じる人が急速に増えるとされます。75歳以上では、約半数の人が「聞こえにくさ」を感じるといいます。

冒頭で紹介した厚労省のサイトによれば、難聴の影響として、認知機能に影響をもたらす可能性があるとしています。また、危険察知能力も低下するため、交通事故に遭遇するリスクが高まったり、屋内でも転倒リスクなどが高まることがあります。コミュニケーションのとりにくさから、社会的に孤立し「うつ状態」になることも指摘されています。

ちなみに、昨年10月に東京都健康長寿医療センターが発表した研究報告では、聴覚には「動作のバラつきを統制する働き」がある可能性があるといいます。実際、同センターが行なった実験では、人が障害物に近づく際の歩幅の調整が乱れるのに加え、障害物のまたぎ越し動作が大きくバラつくことが明らかになっています。「聞こえにくいこと」による危険回避の困難に加え、運動機能にかかる他の要素でも転倒リスクが高まるという点で、介護現場でも注意が必要なポイントです。


政府内で加速している「難聴」への対応策


このように「難聴」が高齢者の自立生活に影響をおよぼすことについては、今年9月に政府が認知症施策推進関係者会議の議論を経て策定した「認知症施策推進基本計画案」でも取り上げられています。具体的には、「保健医療サービスおよび福祉サービスの提供体制の整備等」の1つとして、「高齢者の介護予防や生活の質の維持、日常生活・社会生活の活発化のために重要な難聴の早期の気づきと対応の取組を促進する」というものです。

さらに、「経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)2024」でも、社会保障関連の重要課題として、がん対策や難病対策などとともに、「難病対策の推進を図る」ことがうたわれています。厚労省でも、2017年から「難聴への対応に関する(厚労省の部局間の)連絡会議」が定期的に開催され、今年3月には、難聴高齢者の早期発見・早期介入にかかる連携の手引きも示されました。

こうした「難聴」への対応をめぐる取組みが加速する中では、以前も述べたように、次期介護報酬・基準改定でも何らかのアクションが起こされる可能性があります。各サービスで口腔・栄養にかかるスクリーニングやアセスメントへの評価が拡充されていますが、ここに「言語聴覚士」などとの連携を要件とした、聴力に関するスクリーニングやアセスメントが加わることも考えられます。


「適切なケアマネジメント手法」での扱い


一方、ケアマネジメントに関してですが、たとえば「適切なケアマネジメント手法」における確認項目の1つに、「視覚・聴覚の衰え」があがっています。たとえば、基本ケアにおける「利用者のコミュニケーションを難しくしている要因」の確認ポイントとして。あるいは、疾患別ケアにおける大腿骨頸部骨折をした利用者の「再発防止」の確認点として。

後者は、当事者による自身の身体機能への理解支援の一環ですが、先述した「難聴による転倒リスク」にかかる知見が蓄積される中では、法定研修を通じて確認ポイントの重要性が引き上げられる可能性があるでしょう。

ケアマネとしては、補聴器の使用の有無や聴覚機能の低下による受診等の確認は、アセスメント時に行なっているでしょう。ただし、利用者が「聞こえにくさ」に時々不便を感じていても、自身が「難聴」という自覚が乏しい(あるいは、認めない)こともあります。

そうしたケースを想定したうえで、冒頭で述べたサイトに掲載されている「耳の健康チェック」などを応用しつつ、ケアマネが確認すべきポイントにかかる告示改正なども(早ければ2025年度にも)行なわれるかもしれません。今後の厚労省からの手引きやガイドラインにかかる通知に注意しましょう。


耳鼻咽喉科や言語聴覚士との連携機会増大も


ケアマネの場合、内科・外科・循環器系等の医師や歯科医師、PT・OTとの連携機会は、意識的に培われているでしょう。今後は、ここに耳鼻咽喉科の医療機関や言語聴覚士(ST)との連携機会の構築を求めるしくみが上乗せされてくるかもしれません。

たとえば、どのような状況において耳鼻咽喉科の受診勧奨が必要か、言語聴覚のリハビリ(口腔・嚥下機能だけでなく特に聴覚面で)はどのように進められているのか。そのあたりについて、地域の連絡会等での研修機会などを意識的に増やしていきたいものです。

2027年度改定では、口腔・栄養・運動器機能に加え、難聴への早期介入とそのための多職種連携が大きなテーマとなる可能性を視野に入れつつ、ケアマネジメントおよび介護現場全体のスキルアップが求められそうです。


【関連リンク】


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東京都長寿医療センターからのプレス資料


田中 元(たなか はじめ)のイラスト

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。


リンク先はケアマネタイムスというサイトの記事になります。
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