『リリカとマリア』上映会の予約はこちらから
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愛知大学文学部 人文社会学科 現代文化コース
メディア芸術専攻 上田ゼミ 研究発表
手話通訳付き映画『リリカとマリア』上映会
2024年1月6日(土)
13:30〜15:30(開場は13:30)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
同時上映『色人間』他
入場無料/手話通訳付き/映画パンフレット配布あり
「映画に手話通訳をつけたいと思った理由」
みなさん、こんにちは。私はメディア芸術専攻の教員で、映像作家の上田謙太郎です。2021年度に『記憶潜水』という上映公演をゼミ生と、同僚の吉野さつき先生と共に企画制作しました。その時に、吉野先生の働きかけで、聞こえない人も作品を楽しめるように、上演作品に手話通訳と字幕を付けました。その時の作品がこちらです。
https://www.youtube.com/watch?v=fZLxY...
『記憶潜水』は実際に聞こえないお客さんにも来場していただき、作品を鑑賞してもらうことができました。ただこの時に、ある程度固めておいた演出、立ち位置、映像の画面の構成と、鑑賞サポート(舞台手話通訳者の立ち位置、見え方、音声に関する説明テロップ)をうまく並立させることに苦労しました。
改めて考えると、私自身が「鑑賞サポート・字幕・手話通訳は、作品が出来上がった後や出来上がる直前に付帯するもの、後付けするもの」と思い込んでいたのです。まず健常者に伝えることありきで制作して、後から聞こえない人や見えない人への鑑賞サービスを付帯することに少し違和感を覚えて、今年のゼミでは、最初から聞こえない人(特に手話を使うろう者)への鑑賞サポートをつける、それも映画の画面自体に組み込んでいくことを前提にしました。
手話に注目したのは、2019年度に『ロゴゴロゴロカタチタチ』、2021年度に『プロフィール』という学生の卒業制作がきっかけです。いずれも手話を使うろう者と関わり、共に表現をする活動でした。学生の活動に刺激を受け、手話の面白さに気づき、自分でもやってみたいと思いました。また、『プロフィール』の発表会では観客と出演者を交えた座談会があり、その時の手話通訳者の振る舞いに強い感銘を受けたことを今でも覚えています。
20人以上の話者がいる中で、手話通訳者はひとり。話者が変わるたびに移動し、話者の背後に立ち、手話通訳をします。また、読み取り通訳で手話を音声日本語に翻訳します。その立ち振る舞いと独特の存在感に目が釘付けにになりました。講演などでは手話通訳者が固定の位置にいますが、動いて話者の後ろに立つ様子を初めて見ました。そこにとても映画的なインスピレーションを得たのです。幽霊のようにも、寄り添っているようにも見えました。
のちにそれは「ムーブアラウンド型」と言って、通訳者が話者について移動するスタイルで、舞台手話通訳つき演劇公演ではよくあることだと知りました。穂の国とよはし芸術劇場PLATでは、『凛然グッドバイ』、『楽屋』など、あらかじめ舞台手話通訳をつけることを組み込んだ演劇公演の企画制作をした実績があります(そのため、PLATには今回の上映会の共同主催になっていただき、職員さんには鑑賞サポートに関するレクチャーもしていただきました)。
このような経緯で、私は、舞台手話通訳付きの演劇があるなら、手話通訳付きの映画を作ったら面白そうだ!と思いました。細かく分けて撮り足していく映画だからこそ、学生が手話を使った演技に挑戦することもできると思いました。
ちなみにメディア芸術専攻は「メディア」の意味を、語源通りに、「つなぐ」「媒介する」と考え、芸術制作を通して人と人をつないだり、人との人との関係性から表現を立ち上げるプロジェクトを実践研究しています。映像やデザインなど、デジタル技術を使った表現だけではなく、身体がメディアとなる舞台芸術にも力を入れています。
手話通訳者は、ろう者と聴者をつなぐ存在です。聴者にとっては、手話通訳者がいることで、ろう者の意見や考えを知ることができますし、交流することができます。そして、手話は手や腕だけではなく、肩も舌も目も、多くの部位を使って文法や語彙をつくる言語です。まさに、メディア芸術専攻のコンセプトである「つなぐ」「媒介する」「身体性」を体現する存在です。
手話通訳付き映画『リリカとマリア』は、手話表現の豊かさを味わうだけではなく、手話通訳者が画面にいなければならない理由も脚本に組み込んで制作しています。
愛知大学文学部がある豊橋市には、手話通訳者が比較的多く在籍している都市で、ろう学校があり、手話サークルも複数あります。今回は、豊橋手話ネットワークの方に授業に来ていただいたことや、手話に関わる人たちにさまざまなアドバイスをもらえたことも、プロジェクトの大きな助けになりました。
企画・プロデュースは私が担当して、脚本、演出、撮影、演出、美術はゼミ生(3年生)が担当しています。さらに手話通訳者の加藤真紀子さんと高田美香さんに出演していただき、アドバイスもしていただき、複層的なコラボレーションのもと、映画制作をしました。
学生も教員も未知の取り組みに挑戦することから学びを得て、また、手話と関わる最初の刺激的な経験になることを考えてプロジェクトを進行しています。
映画の画面の中に手話通訳者がいる映画を作れば、ろう者も聴者も一緒に、同じものを見て映画を楽しめるのではないかと考えています。手話表現の豊かさはもちろん、視覚芸術としての映画の奥深さを探求する作品を目指して作りました。
もしかすると世界初になるかもしれないの映画をぜひ見に来てください!
(映像作家/愛知大学文学部准教授:上田謙太郎)
愛知大学文学部メディア芸術専攻 上田謙太郎研究室 3年次(10期生)ゼミプロジェクト
リンク先は愛知大学文学部現代文化コースメディア芸術専攻というYouTubeの動画になります。