「めまい、耳鳴り、難聴」の3点セットが現れるメニエール病の最新情報

「めまい、耳鳴り、難聴」の3点セットが現れるメニエール病の最新情報

からだ元気 健康最前線 2024.11.12

40代から増える「耳鳴り・難聴」に要注意! 〈第10回〉

「メニエール病」はめまい、耳鳴り、難聴という耳の不調による3大症状がセットでくるつらい疾患です。この連載の監修者である耳鼻咽喉科医で医学博士の石井正則先生が、メニエール病に関する新発見・新開発をしました。その新しい理論とそれに基づく最新の検査方法について伺いました。


10年以上の研究でたどり着いた「シモヤケ理論」


ある日突然、回転性のめまいが起こるメニエール病。30代~50代の、特に女性に多い病気のため、なかには更年期の症状と勘違いして我慢してしまうケースもあるようです。しかし、まったく違う病気なので注意が必要です。

「典型的な症状は、まず片耳が詰まったような感じになる耳閉感(じへいかん)がして、耳鳴りや低音部の難聴が起こり、続いて周囲の景色がグオングオンと回るような激しい回転性のめまいに襲われます。少しでも頭を動かそうものなら、ひどい吐き気がして、実際に嘔吐してしまうこともあります。なかには下痢の症状を伴うことも。

めまいを起こす病気には、ほかに良性発作性頭位めまい症などがあります。良性発作性頭位めまい症の症状は、数秒から数十秒くらいの短時間のめまいですが、メニエール病の場合はめまい、耳鳴り、難聴が3点セットで起こるのが大きな特徴です。さらにめまいの発作が長く続き、数十分~6時間くらい。なかには12時間以上続くこともあります。

難聴 メニエール病イメージ イラスト

これは、内耳のリンパ液が過剰に増える内リンパ水腫(内耳のむくみ)によって、内耳の機能が阻害されることが原因です。なぜむくむのかははっきりわかっていませんが、過度なストレスが引き金になると考えられています。

実際にメニエール病の患者さんには、真面目で几帳面、責任感が強いといった人が多く、過労、不安、睡眠不足、気圧の変化などが重なり、ストレス過多から自律神経のバランスがくずれることが大きく関係するといわれています。

謎の部分が多いメニエール病ですが、私はこの発症のメカニズムを10年以上にわたって独自に研究してきました。

実は、メニエール病のめまい発作が起こる前に、片側の肩や首のこり、頭が重くなったり、片耳に耳閉感や耳鳴りがするなど、かすかな前兆があることがあります。そうした患者さんに協力していただき、その状態のときの自律神経の検査をさせてもらいました。

すると、予兆が出ている耳の側だけ、交感神経が異常に興奮状態にあることがわかったのです。その後、10年以上の歳月をかけて、合計9人の患者さんを調べた結果、全員に同様な所見を認めました。私はこれをシモヤケ理論と名づけました。

指先などにできるしもやけは、寒さの刺激により、指の交感神経が異常に興奮し、指先の血管が極端に収縮します。すると血管内の成分が組織にあふれ出てくるのです。その中にむくみを起こすアルブミンや痛がゆさを引き起こす成分が含まれているため、指先が赤く腫れて、痛がゆくなるのです。

内耳の血管の構造は指先にとても似ているため、メニエール病のめまい発作もこれと同じ状況で起きる可能性を考えたのです。検査の結果、内耳にはカリウムイオンが多い場所があるため、交感神経の異常な興奮状態により極端な血管収縮が起きると、組織内にカリウムイオンが急激に増加します。それが、難聴や眼振(眼球が動く)、むくみの引き金を引くのです。

私はその過程をシモヤケ理論として提唱しました。

このシモヤケ理論を用いると、なぜメニエール病がストレスと関連があるのか、めまい発作や低音部の難聴、聴力障害の進行、眼振の向きの変化がどうして表れるのか? また、付随して起こる、肩こりや首こり、手足のしもやけ、過敏性腸症候群、緊張性頭痛、緊張による脇汗や手汗など、すべての説明がつくのです」(石井正則先生)


独自の新しい検査方法で診断もスムーズに!

メニエール病の症状があっても、実際に確定診断がされているのは1割くらいなのだそう。その理由は「日本めまい平衡医学会」の診断基準の厳格さにあると石井先生。

「その診断のひとつに、内耳のむくみ状態を確認するために行う、造影剤を使用した『3テスラMRI』という画像検査があります。この場合、MRI撮影の4時間前に造影剤を注射投与しなければならず、時間的にも手軽な検査とはいえません。さらに喘息発作、腎不全、造影剤に対するアレルギーなどがある人は受けられません。

そこで、私のシモヤケ理論を前提に、造影剤を用いずにMRI撮影ができる方法を開発しました。

造影剤を使用せずに撮影すると、内リンパと外リンパの境目がはっきりせず、鮮明な画像になりません。そこで、むくみの部分に集まっているカリウムイオンと炎症性タンパク質に焦点を当てた、撮影装置のパラメータ(機械で調整する値)を研究したのです。

こうして、造影剤を用いた画像と比べると少しだけ解像度は落ちますが、内リンパ水腫を写し出すことに世界で初めて成功したのです。MRIの機種にはさまざまありますが、造影剤なしでの撮影に向いていたのがフィリップス製でした。

ただし、この造影剤を用いない方法にも欠点があります。メニエール病の重症度にはステージ1~5までありますが、1~2の軽度な病態では写し出せる確率が少し落ちる点です。一方でステージが3~5の病態では確率はかなり上がります」

この発見・開発が画期的であることは間違いなく、現在、さらに解像度を上げる方法を開発しており、シモヤケ理論とこの検査方法の論文は、今、世界中で注目されています。

この検査方法は石井先生が週に2回外来を担当している「AIC八重洲クリニック」などで、すでに実用化しているそうです。


発症して2年以内の治療が重要!

メニエール病で重要なのは、発症してから2年以内にしっかり治療することだと石井先生。

治療の核となるのは、めまい発作を抑える薬物療法と、徹底的にストレスの軽減を図ることです。シモヤケ理論からもその理由は明らかです。

「引き金になるストレスを避け、十分な睡眠をとり、疲れをためないこと。そして適度な有酸素運動の習慣をつけ、自分に合ったリラクセーション方法などを身につけていきます。

薬も上手に取り入れて、めまい発作をコントロールしていくことも大切です。通常、内耳のむくみを取るための利尿剤や血管拡張剤、炎症を抑えるステロイド剤、吐き気が強い場合は乗り物酔いを防止するトラベルミンなどが処方されます。

私がよく処方するのはピレチア細粒です。高い抗ヒスタミン作用、鎮静作用、抗浮腫作用、制吐作用があり、服用後は約30分~1時間で収まってきます。

私は1包5mgのピレチア細粒にこだわっています。水なしで飲める手軽さと、即効性があるからです。『外出時も持ち歩き、ベッド脇や職場のデスクなど、あちこちに置いておき、発作が起こりそうな予感がしたときや、実際に発作が起きたときにすぐに飲むように』と指導しています。

この薬の優れているところは、たとえ発作が起きたあとでも、手の届くところに置いておけば、手のひらに顆粒を出してのせて、なめるようにして飲むことができるところです。いったん発作が起きると、水を用意したり、上を向いて飲み込むことが難しくなるのです。

ただし、眠くなる副作用があるので、車を運転するときは注意が必要です。それを逆手にとって、寝る前に服用することで、ぐっすり眠れる利点もあります」

メニエール病の症状があるのに、2年以上何もせずに放置していると、症状はどんどん悪化してしまいます。やがて日常生活に支障が出るようになるので、その前にできるだけ早い段階で診断と治療を始めるようにしましょう。


[教えていただいた方】

石井正則

石井正則さん
耳鼻咽喉科医・医学博士

公式サイトを見る

JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長。東京慈恵会医科大学大学院卒業とともに、米国ヒューストン・ベイラー医科大学耳鼻咽喉科へ留学。帰国後、東京慈恵会医科大学附属病院耳鼻咽喉科医長、同大学准教授を経て現職。岐阜大学臨床教授を併任。専門は耳鳴り、めまい、難聴、宇宙酔い。日本耳鼻咽喉科学会代議員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙医学審査会委員。ヨギー・インスティテュート認定インストラクターであり、ヨガのポーズと呼吸の応用で、耳鳴りやめまいの軽減法を提唱している。著書に『70歳から難聴・耳鳴り・認知症を防ぐ対処法』(さくら舎)など多数。



イラスト/かくたりかこ 取材・文/山村浩子


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