2025年3月24日

ことし11月、聴覚に障害のある人たちの国際スポーツ大会「デフリンピック」が日本で初めて開催されます。
手話への理解や必要な支援に関心が高まる中、2月に都内で上演されたミュージカルに字幕と舞台手話通訳がつきました。
舞台手話通訳者は、登場人物のセリフや歌の内容、効果音などを手話で伝えます。
作品の魅力をありのまま観客に届けようと奮闘する姿を追いました。
日本初演ミュージカルに舞台手話通訳がつく
2017年にイギリスで誕生し、アメリカのブロードウェイでもヒットしたミュージカル『SIX』。

キャッチーな楽曲や女性をエンパワーメントする作品性が人気となり、演劇界で最高の栄誉とされるトニー賞を受賞するなど、世界各国で上演されている話題の作品です。
ことし初めて、日本で上演されることになりました。
結婚を6回も繰り返した、16世紀のイギリス国王・ヘンリー8世。
その元妻たち6人が、暴君ともいわれる元夫に振り回された自身の壮絶な人生をポップに歌いあげます。

キャストたちがエネルギッシュに演じている舞台の上手に立つのが、舞台手話通訳を務める田中結夏さんです。

♪まるでルネッサンス 6人の妻がいたのを

6人それぞれが歌う歌詞の内容を手話で訳すだけでなく、盛り上がる楽曲の雰囲気も伝えています。

田中結夏さん
「お客様が見ていて違和感のない、スッと物語が入ってくるような手話通訳ができるよう、手話の技術をしっかり磨いて学び続けることを大事にしています。
『SIX』という作品は、もう客席がノリノリでライブ会場のようになるので、ろう者の方も同じ熱気の中で、みんなで一緒に笑ったり泣けたりするような空間になればいいなと思っています。(そのためには)やはり劇場のアクセシビリティーというのがすごく重要になってくる」

演劇学校でろう者と出会ったことをきっかけに手話を学び始めた田中さん。
舞台手話通訳者養成講座を受講し、2021年に舞台手話通訳付き公演の初舞台を踏みました。
観劇支援を行うNPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)の舞台手話通訳チームに所属し、さまざまなジャンルや規模の作品で経験を重ねます。2023年からは個人で文化芸術専門の手話通訳事業を立ち上げるなど、活動の幅を広げています。
田中さんは今回のミュージカルで、聴覚障害のある人も一体となって盛り上がれるような通訳を目指し、本番の数か月前から準備を始めていました。
作品を深く理解 よりよい表現に

去年11月。作品を深く理解し、手話の表現に生かしたいと、英語台本の日本語への翻訳・訳詞を担当した土器屋利行さんから、原文のニュアンスについて話を聞きました。

土器屋利行さん
英語の表現で、屋根を吹き飛ばすほどの大騒ぎがRaising up the roofって言うので。
これが天井にぶち当たるまで「アゲるわよ限界まで」で表現できたらいいなって。
田中結夏さん
何なら限界をぶち上げるぐらい。
土器屋利行さん
Is our ex and the way it ended…元彼とかの元がexですね。
だから“あの人のことばかり”にしちゃいました。
田中結夏さん
このじゃあ“あの人”は、ヘンリー8世を指していていいですか?
土器屋利行さん
ヘンリー8世のことです。
もし余裕があるなら、ヘンリー8世と入れてもいいかも。
田中結夏さん
そうですね。入れたほうが手話的にはよくて。
誰なのか、何をしたいのかっていう目的みたいなものははっきり出したいので、これは入れるようにしたい。
手話監修のろう者と稽古でブラッシュアップ
本番3週間前。キャストたちと初めての立ち稽古です。

この日は、手話監修を務めるろう者の江副悟史さんも参加しました。
江副さんは、役者として日本ろう者劇団の代表を務めるほか、CMやドラマなどさまざまな作品の手話監修を担当しています。

♪私たちの物語
♪聞いたことあるかしら

ろう者の視点から、田中さんの手話をチェックします。
立ち稽古が終わり、さっそくフィードバックが始まりました。
江副悟史さん
「“一緒”という手話が見づらかった。ちょっと体の向きを変えたほうが見やすい」

客席から見たときに内容が分かりやすいよう、手話の表現を変えたり、姿勢を修正したりしていきます。
稽古の間、俳優がどんな演技をしているかにも注目していたという江副さん。
さらに指摘したのは…。

江副悟史さん
「最後のポーズのあと、すぐに拍手したらだめだよ。最後のポーズでそのまま動きを止めないと」
江副さんが指摘したのは、ラストのシーン。

田中さんは稽古のとき、すぐに手を降ろしてしまっていましたが、6人のキャストと動きを合わせ、楽曲のクライマックスを演出したほうがいいとアドバイスしました。

江副悟史さん
「見せ場があるので、田中さんも取り入れたほうが、ろう者も一体となって楽しめます」
作品の魅力 ありのまま届けるために
ついに迎えた、舞台手話通訳付き公演当日。
手話が見やすい「鑑賞サポート席」は、2公演100席近くが完売。大阪府や宮城県など全国から観客が集まりました。

休憩なしの80分間。田中さん、歌声の迫力までも伝えたいと全身を使って表現します。

♪離婚 打首 死亡 離婚 打首 死別 そう
♪SIX!

ラストの「SIX」の手話が、キャストとぴったりのタイミングで決まりました。

公演を見た、聴覚障害のあるお客さんの反応は…。
観客
SIX、最高!楽しかったです。
観客
今までは雰囲気で楽しんでいたのですが、今回は内容もみんなと一緒に知ることができてよかったです。

田中結夏さん
「(舞台手話通訳は)作品とお客さまをつなぐ立場かなと思っていて。役者の演技とかをありのまま届けていくようなフィルターになれたらいいなと思っています。劇場にろう者の方たちが足を運ぶことが楽しみになってもらえるような、そんなアクセシビリティーが広がっていく、少しでもその一端になれたら」
リンク先はNHK首都圏ナビというサイトの記事になります。