発達障害の早期発見へ、国が「5歳児健診」来年度から費用補助 その意義とは?【小児科医に聞く】

発達障害の早期発見へ、国が「5歳児健診」来年度から費用補助 その意義とは?【小児科医に聞く】

2025.2.4
ふらいと先生の 守ろう こどもの心とからだ

診察を受ける女の子と父親


今西洋介(ふらいと先生)

 いま「5歳児健診」導入の動きが広がっています。国は費用補助を強化し、2028年度までに全国の自治体での実施を目指しています。現在、1歳半と3歳の乳幼児健診と、小学校入学前の就学時健診が自治体に義務付けられていて、5歳は任意です。しかし、5歳という年齢は、言語能力や認知能力が急速に発達する時期。この時期に健診を行うことで発達や行動上の問題がより見えやすく、早期支援につなげやすくなるといいます。「5歳児健診」の意義や課題について、「ふらいと先生」こと、小児科医・新生児科医の今西洋介医師が解説します。


来年度から全国的に費用補助がスタート


 2025年度から全国的に費用補助が開始され、28年度までに実施率100%を目指すとされる「5歳児健診」。この取り組みは、子どもの発達や行動上の課題を早期に発見し、適切な支援を提供するための重要なステップです。

 さらに、発達の問題を抱える子どもだけでなく、その可能性を指摘された子どもや、日常生活の中で気になる言動が見られる子どもにも対応しやすくなるという大きな意義があります。

 5歳児というタイミングで健診を実施する狙いは、就学前に子どもたちの発達状況を把握しておくことで、学校生活へのスムーズな移行をサポートすることにあります。


5歳児健診の受診率


 国内外の研究では、就学前の時期に発達障害や行動上の問題を発見し、適切な支援を行うことが、後の学習面や社会的スキルの向上に大きく寄与することが示唆されています(#1)。

 また、保護者にとっては、子どもが置かれている状況を早期に知ることで、不安や戸惑いを軽減し、周囲のサポートや専門的なサービスにつながる第一歩となるでしょう。

 地域や学校での支援体制が充実し、家庭内だけでは対応が難しい場面においても、積極的にアプローチができるようになるのです。

 そういった意味では、日本では、小児健康診断は公衆衛生システムの重要な部分となることは明白ですが、健診の年齢によって参加率が異なります。

 ある報告によれば、1歳半健診は97.4%、3歳児健診は96.0%、6歳からの学齢期健診はほぼ100%の受診率を誇ります(#2)。

 この高い受診率は、確立された組織的な提供、高い国民の認知度、そして無料のアクセスに起因しています。

 一方で、就学前の5歳児健診を導入している自治体はわずかに14%と低調です。特に5歳児の健診の実施と拡大には改善の余地があることは注目に値するのです。


発達障害の早期発見と支援の効果

 発達や行動の問題は、多くの子どもたちに見られる課題ですが、特に自閉症スペクトラム障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などの発達障害があると、学校での学習面や家庭での日常生活において大きな影響を及ぼす可能性があります。

 これらの障害は、外見からは分かりにくい場合も多く、単に「落ち着きがない」「わがままだ」などと誤解されがちです。

 しかし、子ども自身は自分の特性に戸惑いを感じたり、周囲の要求に十分応えられずに自尊感情を傷つけられたりすることがあります。こうした状況を未然に防ぎ、必要なサポートを得るためには、早期の発見と支援が欠かせません。

 研究によれば、発達障害を持つ子どもが適切な支援を受けることで、社会的スキルが向上し、学習意欲を維持しながらクラスに適応できる可能性が高まることが示されています。

 さらに、日本国内外の調査からは、幼少期に適切な指導や療育を受けた子どもたちが、思春期以降における不登校や情緒面の問題を比較的少なく乗り越えられるケースが増えるという報告もあります。

 大分県竹田市で行われた5歳児健診プログラムは、その顕著な成功例として注目に値します。

 このプログラムでは、公共保健看護師や幼稚園教諭による初期のスクリーニング、医師による診断、さらに専門家による継続的な支援が実施され、発達障害と診断された子どもの95%以上が通常学級に通うことができました。

 また、学校を拒否する児童の割合が大幅に減少したことも大きな成果として挙げられています(#3)。


早期支援の社会的意義


 5歳児健診は、単に子どもの発達上の問題を診断するだけにとどまらず、地域社会全体で支援体制を構築する出発点としての役割も担っています。

 例えば、竹田市では、保護者や教育者を対象とした講習会や勉強会を積極的に実施し、子どもの特性や支援の方法について理解を深める取り組みを続けてきました。

 その結果、地域全体に「子どもをみんなで支える」という文化が根付き、発達障害のある子どもたちが地域の行事や学校活動に参加しやすくなるだけでなく、保護者同士が情報交換を活発に行うことで孤立感を減らす効果も生まれました。


 驚くべきことに、こうした支援体制が進展するにつれ、地域全体で出生率が上昇するといった副次的な効果も報告されています。

 このような社会的意義は、一つの自治体や地域だけで完結するものではありません。全国において5歳児健診が導入され、さらにその実施率が高まることで、すべての子どもが公平に支援を受ける機会を得られる可能性が高まります。

 これまで、発達障害と診断されても十分なサポートを受けられず、学習面や生活面で苦労を重ねてきた事例は少なくありませんでした。

 しかし、5歳児健診を通じて早期に気づき、適切な支援につなげることで、子どもが本来持つ力を十分に発揮できる環境を整えられるのです。


健診の対象と具体的な支援内容


 一般的に、5歳児は言語能力や認知能力が急速に発達する時期であり、対人関係のスキルも幼児期の中で最も著しく伸びる時期とされています。

 したがって、この時期に健診を行うことで、発達障害や行動上の問題の特徴がより明確に見えやすくなり、早期支援による効果が最大化されると考えられます。

 例えば、スピーチセラピーや行動療法、親子間のコミュニケーション支援などを導入することで、二次障害のリスクを軽減し、その後の学齢期において子どもの学習や生活がスムーズに進む確率を高めることができるでしょう。

 また、保護者にとっては、5歳児健診の場で専門家から得られる情報が非常に重要です。子どもの発達について客観的な視点を持つことができるため、日頃の育児に関する悩みや疑問を整理しやすくなります。

 さらに、必要に応じて医療機関や行政機関と連携しながら、子どもの特性にあった学習環境を整備したり、家族全体として取り組む支援プログラムを検討したりすることが可能になります。


5歳児健診の今後の展望


 全国で5歳児健診が導入されることで、すべての子どもに公平な機会が与えられ、発達障害や行動上の課題を抱える子どもたちも適切なサポートを得られる社会の実現が期待されます。


 一方で、専門家の人材不足や地域間の支援体制の格差といった課題も指摘されています。

 特に、発達障害や行動面の支援に精通した専門家は限られており、医師・心理士・特別支援教育の教員などの連携が不可欠です。

 また、保護者や地域住民がこれらの課題を正しく理解し、自治体や学校と協力しながら支援策を充実させていくことが求められています。

 さらに、2028年度までに健診の実施率を100%にするという目標を達成するためには、自治体レベルでの周知活動や、保護者向けの啓発プログラムの充実も不可欠です。

 5歳児健診が義務化されることで、行政や教育機関はもちろん、地域の保健センターや子育て支援施設などが一体となって協力体制を強化することが期待されます。

 例えば、幼稚園や保育園と連携したスクリーニングの実施や、必要に応じたフォローアップのシステムを整えることで、より多くの家庭が安心して子どもの成長を見守れるようになります。

 結論として、5歳児健診は発達障害や行動上の問題を早期に発見し、適切な支援を提供するための有効な手段であり、子どもの成長と地域社会の発展に大きく寄与するといえます。

 その成功には、保護者や地域社会全体での積極的な協力が欠かせません。加えて、今後は専門家の育成や地域格差の解消といった課題を解決し、全国どこに住んでいても必要なサポートを受けられる体制を整備することが重要です。

 子どもたちの可能性を最大限に引き出し、幸福感に満ちた社会を構築するためにも、この5歳児健診の普及と質の向上が強く望まれています。

(小児科医、新生児科医・ふらいと先生/今西洋介)


【参考文献】

#1. EapenV, et al. Clinical outcomes of an early intervention program for preschool children with Autism Spectrum Disorder in a community group setting. BMC Pediatr 2013;13(1):3

#2. Shioda T, et al. Social and household factors affecting child health checkup attendance based on a household survey in Japan. Ind Health 2016;54(6):488-497

#3. Korematsu S, et al. Pre-school development and behavior screening with a consecutive support programs for 5-year-olds reduces the rate of school refusal. Brain Dev 2016;38(4):373-6


ふらいと先生

〇今西洋介(ふらいと先生)/小児科医・新生児科医。日本小児科学会専門医/日本周産期・新生児医学会新生児専門医。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。小児公衆衛生学者。医療漫画『コウノドリ』取材協力。富山大学医学部卒業後、都市部と地方の両方のNICU(新生児集中治療室)で新生児医療に従事。Xアカウント(@doctor_nw)。


リンク先はAERA with Kids+というサイトの記事になります。


 

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