健康長寿につながる耳の守り方
第3回 80歳で30dBの聴力を保つ「聴こえ8030」を目指す
2024/10/24 荒川直樹=科学ライター
「あなたの耳は年相応ですか?」と聞かれて、自信を持って「大丈夫!」と言い切れる人は少ないかもしれない。大切なのは日常生活での聴力低下のサインを見逃さず、早めに耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることだ。そして、少しでも聞こえにくいと感じたら、早めに補聴器を使い始めることも勧めたい。特集の最後は、JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則氏に「耳の老化」への向き合い方について聞いた。
『健康長寿につながる耳の守り方』 特集の内容
第1回 甘く見てはいけない耳の不調 認知症を高める最大のリスクは「難聴」
第2回 「もしかして難聴?」は放置しない 耳ねじり体操と生活改善
第3回 聴力低下7つのサインは中高年から注意 補聴器は「早め」が良い理由←今回
認知症予防を目指す「聴こえ8030運動」
認知症を予防できる可能性が最も大きいのは「中高年以降の難聴」であることが分かってきた(特集第1回) 。耳を守ることは、「健康長寿」の実現に欠かせない。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、難聴に関する啓発キャンペーン「聴こえ8030運動」も進めている。
80歳で20本の自分の歯が残っていることを目指す「8020」はよく知られているが、耳の場合の「8030」とはどういう意味なのか。同学会が公開しているウェブサイト(聴こえ8030運動とは?)では、「80歳で30dBの聴力を保つ」という目標を示している。30dBはささやき声程度の音の大きさに相当する。なお、この30dBの目標は、補聴器を使用したときの聴力でも構わない。
JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則氏は「耳が聞こえにくくなると、家族とのコミュニケーションに支障が出始めます。難聴は放置すると認知症のリスクが高まることもあって、8030運動は難聴の早期発見のために設定された目標となります」と話す。
聴力低下は個人差が大きく、気づきにくい
聴力の低下は個人差が大きく、まれに30代後半から、多くの人は40代後半以降から下がり始める。重要なのは自分の聴力の状態を早めに知ることだ。加齢性難聴は、特集第1回(甘く見てはいけない耳の不調 認知症を高める最大のリスクは「難聴」)で紹介したように、音を捉える有毛細胞が音の高い領域から少しずつ抜け落ちていくことで起こり、一度失われた有毛細胞が再生することはない。石井氏は「しかし、より早い段階で生活習慣の改善を始めれば、聴力低下を遅らせることができます」と話す。
生活習慣の改善は特集第2回(「もしかして難聴?」は放置しない 耳ねじり体操と生活改善)で紹介したが、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のウェブサイトでは、それに加えて高血圧、糖尿病などがある人は、医師の指示どおりの薬物治療を続けることなども示されている。
聴力低下のサインがあればすぐ受診を
自分の今の聴力がどれぐらいかは、耳鼻咽喉科の聴力検査(標準純音聴力検査)を受ければ分かる。この検査では、周囲の雑音を遮断する防音室に入り、ヘッドホンをして125Hzから8000Hzまでの高さの音をどれぐらい聞き取れるかを調べる。得られた数字から聴力レベルを算出し、難聴は以下のように4段階で診断される。
「軽度難聴」(25~39dB):小さな声や騒音下での会話が聞きづらい
「中等度難聴」(40~69dB):普通の会話が聞きづらい
「高度難聴」(70~89dB):普通の会話が聞き取れない、聞こえても聞き取りに限界がある
「重度難聴」(90dB以上):補聴器でも聞き取れないことが多い
では、いつから定期的に聴力検査を受けたらいいのか。石井氏は「加齢性難聴が気になったら、年に1回は聴力検査を受けることが望ましいです。それ以外でも、普段の生活で聴力低下のサインを感じたら、すぐに耳鼻咽喉科を受診してください」とアドバイスする。
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