加齢で耳が遠くなるのを「年齢のせい」と放置したり、「わずらわしい」と補聴器を使わなかったりする人が少なくない。しかし、聞こえの悪さの放置は、生活を楽しめないだけでなく、認知症のリスクを高める原因にもなるという。最近は補聴器に慣れるために、専門資格を持つ耳鼻科医とフィッティングができる認定専門店が連携し、〝聞こえのリハビリ〟をする体制も整いつつある。きょう3月3日は「耳の日」。補聴器とうまく付き合い、生活の質を高めたい。
買っても使わない
「『補聴器を着けたけど、うるさいだけ』と言って、途中でやめてしまう高齢者が多くいます」。そう語るのは、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院耳鼻咽喉科の柘植勇人(つげ・はやと)医師だ。
補聴器はよく眼鏡と比較されるが、大きく異なる点がある。「補聴器は眼鏡のように、すぐに使いこなせるものではありません。徐々に慣らしていく、聞こえのリハビリが必要です」
加齢性難聴の人にとって、補聴器を着け始めたばかりの時期は、さまざまな音が急に聞こえるようになるため、不快に感じることがある。使うのをやめてしまうのは、この時期だ。
しかし、この時期に補聴器を細やかに調整するフィッティングを行い、ある程度の時間をかけて慣らしていくことで、使いこなせるようになるという。この過程が、聞こえのリハビリと呼ばれる。
最初は医師らに相談
補聴器が必要になったとき、どのような手順を踏めばよいのか。柘植医師が勧めるのは、補聴器に関する専門知識のある医師や、技術を持つ調整者に相談することだ。
聞こえが悪くなったと感じたら、まずは耳鼻科にかかろう。ほかの病気が隠れていることもあるからだ。病院選びには、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の資格を得た「補聴器相談医」が在籍しているかどうかも目安になる。
相談医が補聴器が必要と判断すると、「診療情報提供書」を作成し、患者に「認定補聴器専門店」を案内する。フィッテングが難航する場合は「補聴器専門外来」を勧める。両者は補聴器調整など必要な設備基準をクリアしている施設だ。
「認定補聴器専門店には、補聴器の調整技能の資格を得た『認定補聴器技能者』が在籍している。専門家のもとで繊細なフィッティングを時間をかけて重ねることで、補聴器への満足度は上がっていきます」と柘植医師は話す。
実際に着けて調整を
フィッテングをするたびに補聴器はなじんでいく。ただ、その調整方法には注意が必要だ。補聴器が耳に合わず、柘植医師のもとを訪れる患者の多くは、調整方法に問題があるという。
「補聴器を着けずに、パソコンでのデータだけで調整するケースがありますが、これでは実際の聞こえの状態が分かりません。補聴器を着けた状態で音を聞き、聞こえ具合を測定することが大切です」
正しい方法で時間をかけて調整することが、快適な後半生につながりそうだ。(篠原那美)
小型でカラフル スマホと連動も
最近の補聴器はおしゃれに進化している。東京都小金井市の認定補聴器専門店「小金井補聴器」を営む鶴田広幸さんに聞いた。
「デジタル技術の進展とともに補聴器は小型化しています」。見せてもらったのは、耳かけ型の補聴器。小さくて軽い。色の種類が豊富で、アクセサリーとしても楽しめそうだ。
操作はどうするのか。「直接、補聴器で操作を行うこともできるが、今はスマートフォンと連動しており、音量をスマホの画面から操作できるものも増えています」と鶴田さん。
来店する高齢者の多くがスマホを持っており、操作に不安を示す人には「テレビの音量をリモコンで上げ下げできるなら、補聴器も同じだから大丈夫です」と説明するそうだ。
気になるのは価格。鶴田さんは「主なもので1台8万~66万円くらいの幅がある。左右両耳だと費用は2倍になります」と説明する。
高価なものは機能が豊富だが、大切なのは自分にとって必要な機能とそうでない機能を見極めること。「認定補聴器技能者などに相談しながら決めてほしい」と話している。
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