近い将来、「SpiralE(スパイラルイー)」と呼ばれる新たな耳道内バイオエレクトロニクスが、シームレスな「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」の実現に向けた次のステップになるかもしれない。
人はコンピューターやスマートフォン、タブレットを操作する時、キーボード、タッチスクリーン、音声コマンドといったさまざまな形式でデバイスと相互作用する。
最近では、視線の動きなど極めてシンプルな方法でもデバイスを操作できるようになった。
テクノロジーは日常生活に欠かせないものとなっており、BCIはいずれ、人々の日常の中核を担うものになるだろう。
さらに近年、脳インプラントにより、ユーザーは思考によって(正確には神経インパルスと呼ばれる電気信号によって)電子機器を操作できるようになった。
BCIの広範な実用化に向けた次のステップとして理にかなっているように思えるが、この技術は装着方法で改善が必要だ。
インプラントには通常、大きなヘッドバンドや、侵襲的なマイクロ電極デバイスといった、不便あるいは医学的リスクを伴うデバイスが使われる。
そのため、一般ユーザーにとって実用的とはいえない。
北京にある清華大学の王宙恒(Wang Zhouheng)博士らの研究結果は、この問題への解決策となるかもしれない。
王博士らのチームは、学術誌ネイチャーで7月14日に発表した論文のなかで、ヘッドバンドや電極デバイスの代替となり得る「SpiralE」について説明している。
SpiralEは、柔軟なポリマーでできた小型電子機器であり、耳のなかに装着することで、ユーザーが発生させる電気信号をコンピューターに伝達する。
開発にあたっての主要目標は、快適で取り外し可能な形をとりつつ、より大きな機器や侵襲的なデバイスの機能をすべて持ち合わせた機器をつくることにあった。
SpiralEは、複数の層からなり、らせん状の帯が直径5.5mmの円筒形をつくっている。
参考までに、現在のワイヤレスイヤホンの主力モデルの直径は15~20mmだ。
形状記憶ポリマーの中には、脳波検出層や、電熱作動層などが含まれている。
このポリマーは耳道の形に合わせて変形し、優れた着け心地と安定性を実現する。
使わない時には、ユーザーはものの数秒で簡単に脱着できる。
さらに特筆すべきは、耳道を完全に塞がないらせん型デザインのおかげで、使用時にユーザーの聴覚を阻害しないことだ。
研究チームがおこなった聴覚検査でも、ユーザーはカクテルパーティー程度の騒音の中でも自然音声を84%の精度で聞き取れた。
耐用期間の長さは不明だが、多層構造であり、電池不要のシステムであることから、日常的な利用によって劣化した場合にのみ交換が必要になると考えられる。
もうひとつの長所といえる点が、コストだ。
侵襲的インプラントや、かさばるヘッドバンドの価格は、多くの人にとって手が届かないものだが、SpiralEはそのコンパクトでシンプルなデザインにより、製造コストをかなり抑えられる。
複雑で侵襲的なBCIは数千ドルあるいは数万ドルするが、SpiralEは価格を大幅に抑えられる可能性がある。
SpiralEは、消費者の日常的な利用だけでなく、再生医療に革命を起こすポテンシャルをもっている。
つまり、運動機能や言語機能の再獲得あるいは補助といった用途が考えられる。まだ実用化には遠いが、その開発動向を注視したい。
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