なぜか心地よい…「声を出さなくても注文できるカフェ」の魅力 社会

なぜか心地よい…「声を出さなくても注文できるカフェ」の魅力 社会

毎日新聞
2025/3/25 10:00(最終更新 3/25 10:00)

手話やメッセージが書かれたボードを持つ佐藤月紀子さん(左)と代田稔樹さん=群馬県太田市のスターバックスコーヒーイオンモール太田店で2024年12月3日午後0時17分、庄司哲也撮影

手話やメッセージが書かれたボードを持つ佐藤月紀子さん(左)と代田稔樹さん=群馬県太田市のスターバックスコーヒーイオンモール太田店で2024年12月3日午後0時17分、庄司哲也撮影


 耳が聞こえにくくても、言葉がなめらかに出なくても、客と店員とが心地よくやりとりできるカフェがある。注文はタブレットで電子化され、配膳はロボットがする時代に、なぜ引き寄せられるのか。魅力を探った。


言葉がなくても通じる安心感


 群馬県太田市にあるスターバックスコーヒーの「イオンモール太田店」。どこにでもあるショッピングモールのチェーンに見えるが、ここでは声を出さなくても注文ができる。

 注文のカウンターに立つと、スタッフがボードを見せてくれる。「ご希望のメニューを教えてください」「サイズをお選びください」などと記されており、指で「ホット」や「Tall(サイズ)」の文字をさして、希望のメニューを伝えてゆく。

 接客してくれたのは、代田稔樹さん(31)と佐藤月紀子(つきこ)さん(25)。2人とも耳の聞こえにくいろう者だ。

 カウンターに立つ佐藤さんは身ぶり手ぶりを交えて注文をとり、受け取り口で代田さんは満面の笑みでコーヒーを手渡す。やりとりは基本的に言葉を介さないが、意思疎通できている安心感がある。

 この店で働き始めたきっかけについて、代田さんは書面で答えてくれた。「地元の駅にある店舗で、同じ障害がある後輩が働いていた。私も、自分ができる力を発揮できると思った」


外国人客も戸惑いなく

 スターバックスコーヒーは2020年、東京都国立市に主なコミュニケーション手段として手話を使用する国内初の店舗をオープンした。スタッフの中心となったのは聴覚障害のある人たちだった。イオンモール太田店では聴覚障害のあるスタッフは2人。手話のコミュニケーションを前面に打ち出してはいないが、手話を使う人も、手話がわからない人も身ぶり手ぶりを交えて迎えている。

 耳が聞こえないことは必ずしも弱点ではなく、時として長所にもなる。視野を広げ、来店した客が何を望んでいるのかを予測。笑顔やアイコンタクトも使って、円滑なコミュニケーションを図ろうとしている。

 店がある群馬東部には工場地帯が広がり、ブラジルやペルー、ベトナム出身の住民が多い。日本語の会話のみに頼らず、接客できる2人は貴重な存在だ。

 代田さんは「外国人のほうが、戸惑いがなくすんなりと受け入れてもらえる気がする」と感じている。オーダー用の指さしボードがコミュニケーションのツールとして活躍する。

 佐藤さんは接客の時、誰に対しても、大切にしていることがある。それは身ぶりを必ずすることだ。「声に出すこともできるが、あえて声に頼らないようにしている。そうすることで相手も身ぶりで応えてくれる。お互いに平等なコミュニケーションを取りたいのです」


居心地の良い第三の場所に


佐藤月紀子さんがチョークボードに描いた絵=群馬県太田市のスターバックスコーヒーイオンモール太田店で2024年12月3日午後0時16分、庄司哲也撮影

佐藤月紀子さんがチョークボードに描いた絵=群馬県太田市のスターバックスコーヒーイオンモール太田店で2024年12月3日午後0時16分、庄司哲也撮影


 実は佐藤さんは、絵の特技でも店に貢献する。店頭に置かれる期間限定のドリンクやメッセージを描いたチョークボード。このお手本を制作できる同社の資格「GAHAKU(画伯)」を持っている。

 「人とかぶってしまうことが好きではなく、自分だけのデザインやオリジナリティーのある作品を小さな頃からたくさん描いてきた」という佐藤さん。GAHAKUになるには情熱や表現力の審査が必要で、倍率は十数倍の狭き門だが、22年秋から1年間務めた。

 店ではろう者の2人と、耳の聞こえる人が一緒に働く。代田さんは「障害を持った人にしか出せない力と健常者にしか出せない力が混ざり、互いに経験を送り合い、居心地の良い『サードプレース(第三の場所)』を作っている」と考える。


「注文に時間がかかるカフェ」


吃音のある若者たちが運営する「注文に時間がかかるカフェ」で、来店した子どもと積極的に会話をするスタッフ=前橋市内で2024年11月16日午後0時49分、庄司哲也撮影

吃音のある若者たちが運営する「注文に時間がかかるカフェ」で、来店した子どもと積極的に会話をするスタッフ=前橋市内で2024年11月16日午後0時49分、庄司哲也撮影


 言葉がなめらかに出ない吃音(きつおん)のある若者たちが接客業に挑戦できる場もある。21年に始まった「注文に時間がかかるカフェ」で、通称「注カフェ」。常設ではなく、日本全国を移動しながら営業している。

 24年11月、前橋市にある共愛学園前橋国際大のキャンパスで開かれた1日限定の注カフェ。スタッフの一人、大阪府在住の大学生、森藤瞳さん(23)は「働くことに挑戦してみたかった」と参加の動機を語った。「吃音があっても働けるのか不安になり、アルバイトから逃げてしまっていた。いつまでも逃げているわけにはいかない」と決意したという。

 注カフェは、やりとりに時間をかけられるよう予約制。「話し方をまねしたり、からかったりしない」「『リラックス』『ゆっくり話せばいいよ』とアドバイスしない」などのルールがある。

吃音のある若者たちが運営する「注文に時間がかかるカフェ」で、来店者に注意事項を説明する板橋優太さん(左)=前橋市内で2024年11月16日午後0時27分、庄司哲也撮影

吃音のある若者たちが運営する「注文に時間がかかるカフェ」で、来店者に注意事項を説明する板橋優太さん(左)=前橋市内で2024年11月16日午後0時27分、庄司哲也撮影


 「言葉の話し始めに時間がかかりますが、待っていただけるとうれしいです」。スタッフがタブレットで来店者にメッセージを示し、会話がスタートした。時にはしばらく沈黙が続く場面も。それでも来店者は途中でさえぎったり、勝手に想像して話したりすることなく、ゆったりとしたコミュニケーションを楽しんだ。


「注カフェ」発案者の願いとは?

吃音に悩む6歳の男児に板橋優太さんが手渡したメッセージ=前橋市内で2024年11月16日午後1時3分、庄司哲也撮影

吃音に悩む6歳の男児に板橋優太さんが手渡したメッセージ=前橋市内で2024年11月16日午後1時3分、庄司哲也撮影


 発起人の奥村安莉沙さん(33)=東京都在住=は「吃音があっても接客ができることを知ってほしい」と注カフェを発案。「接客を通じ吃音のある若者には自信を、吃音を知らない人には接客スタッフとの交流を通して吃音についての理解を」。その願いは共感を広げ、北海道から沖縄まで、全国38カ所で開催された。

 この日、来店者の中には6歳の男児もいた。吃音に悩んでおり、母親が「同じ悩みを持つお兄さん、お姉さんが働いている姿を見せたい」と考え、一緒に訪れた。

 スタッフとして応対したのは共愛学園前橋国際大2年の板橋優太さん(20)。話がはずみ、別れ際に板橋さんは男児にメッセージをつづった折り紙を手渡した。「一緒にお話しできて楽しかったよ。大変!って感じた時は今日のことを思い出してくれたらうれしいな」【庄司哲也】


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