2025/03/27 21:30
#デフリンピック
荒井秀一 石原宗明
11月に開幕する聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」東京大会(読売新聞社協賛)で、同志社大4年の菰方里菜選手(22)は、デフテニス3種目でメダル獲得を目指す。4月に名門・島津製作所に入社するのを前に、これまでの日々と今後の目標について話を聞いた。(聞き手・運動部 荒井秀一、デジタル編集部 石原宗明)

こもかた・りな 三重県出身。生まれつき耳が悪く、補聴器をつけて生活する。四日市商高では2019年に全国選抜女子団体ベスト8。同志社大に進学し、23年にギリシャで行われた世界デフ選手権女子シングルス、ダブルスで優勝。1㍍54、サウスポー。
<テニスを始めたのはいつですか>
6歳からです。母がテニスをしており、見に行く中で自分もやりたいと思い、クラブに通うようになりました。ただ、テニス一筋ではなく、小さい頃は水泳もやっていました。
それでも、体が小さい方でしたし、左利きなので、テニスの方が生かせると思うようになり、テニスに絞りました。
<デフテニスはどのように知ったのでしょうか>
中学1年生の時に、健常者の大会が三重県鈴鹿市であって、合宿をしていたデフテニスの選手が自分を見つけて声をかけてくれ、デフテニスのイベントにも行くようになりました。
<高校は四日市商に進学しましたね>

三重県高校体育大会のテニス女子シングルスを制した四日市商高の菰方里菜選手(2020年7月25日、三重県四日市市で)=林陽一撮影
テニス部に入り、1年生の時、全国選抜女子団体でベスト8に入りました。
デフでは、トルコで行われた世界選手権の女子ダブルスで優勝することもできました。初めて世界の人と対戦することで、どういう人たちがいるのかも知ることできたし、すごくいい経験になったなと思います。
ただ、2年生後半から3年生の時は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で試合がなくなりました。「テニスは高校で、もういいかな」とも思っていましたが、デフの方もあると考えたら、続けた方が自分のためになると考え、大学でも続けることにしました。
<同志社大ではテニス部の女子主将も務めました>
学生が主体で、主将が練習メニューを全部決めており、男子たちともコミュニケーションを取らなければいけません。結構大変でしたし、悩んだ時期もありました。それでも、関西大学対抗テニスリーグ戦で大学として3位になることができました。
<デフでは、2023年にギリシャで行われた世界選手権で、「シングルス」と「ダブルス」で優勝。24年には、全豪オープンの「シングルス」で優勝、「ダブルス」で準優勝し、今年1月の全豪オープンでは両部門で優勝しましたね>
全豪オープンでは、プロのトップの選手と同じ会場でやれて楽しかったですし、そこで優勝できたのは自信につながりました。
2連覇がかかった今年1月の全豪オープンのシングルスでは、2回戦で競って苦しい戦いにもなりました。連覇したいという気持ちが大きい分、体がついてこなかったということもあり、決勝は体ボロボロになりながらでしたが、優勝した時はほっとしました。
車いすテニスを見ることもでき、同じ左利きの小田凱人(ときと)選手(パリ・パラリンピック車いすテニス男子シングルス金メダリスト)のプレーを見て、刺激を受けました。
<プレーの特徴や強みは何でしょうか>

サーブの練習をする菰方選手=浜井孝幸撮影
後ろでラリーして、チャンスがあったら取りにいくスタイルが今のベースです。身長は154センチと小さいですし、パワーもないので、フットワークでカバーしています。
まだまだ前に入るショットも増やしていきたいと思っていますし、左利きの強みも生かして相手が読みにくいところをもっと狙えるよう、4月から社会人になって強化していきます。
<デフの競技中は補聴器を外してプレーしますよね。デフならではの難しさ、おもしろさは何でしょうか>
シングルスは音がない分、集中しやすいので、自分との闘いという感じでやっています。ダブルスでは、ペアがどこにいるか分からないので結構難しいです。前に来ているのか、後ろにいるのか……。練習の時にペアの特徴をつかんでおいて、予想しながらやっています。サーブを打って1球目に前に出るなど、いくつかパターンを決めてやってもいます。
観客からすると、見た目は健常のテニスとあまり変わらないかもしれませんが、ネットに引っかかって入った場合、健常のテニスでは審判は「レット」とコールするところを、デフでは聞こえないので、選手が気付けるようにボールを投げます。ダブルスでは、手話でペアの選手とコミュニケーションを取っています。
<聴覚に障害があることで、これまで何か思ったことはありますか>
小さい頃は補聴器をつけていることに、恥ずかしさがありました。「何でつけてるの」と絶対聞かれるし。周りに誰もいなかったので、自分だけなのだなと思っていました。
それでも、デフテニスと出会い、聴覚障害がある人と一緒に過ごし、新しい世界があるなと思って考え方が変わりました。聞こえなかったら、もう1回聞けばいいかという考え方にもなり、恥ずかしさはなくなりました。
<3月22日に大学の卒業式がありましたね>

デフリンピックへの思いを語る菰方選手=浜井孝幸撮影
テニスのコーチのバイトなどもしましたし、ディズニーにもいくなど、充実した4年間でした。心理学が好きで、「観客がいる時といない時でサーブの打点とコースの位置は変わるのか」というテーマで卒業論文をまとめました。
<デフリンピック東京大会の目標は何でしょうか>
全種目(シングルス、ダブルス、混合ダブルス)でメダルをとることが一番大きい目標。初めてのデフリンピックなので緊張すると思うが、楽しむことも忘れず、日本でやるということなのでたくさん応援してもらった人に恩返しができるように、しっかり結果を残していきたいと思います。
デフテニスを初めて知ったという人も多いです。地元開催だからこそ見にきてくれる人もたくさんいると思うので、メディアに出ていくことでも、多くの人がデフテニスの存在を知るきっかけになる大会になってくれたらなと思います。
<目指すメダルの色は>

デフリンピックの代表選考を兼ねた国際大会でプレーする菰方選手(手前)、鈴木梨子選手(2024年11月、東京・有明テニスの森公園で)
もちろん、金メダルがいいです。
これまで常に感謝することを心がけてきました。テニスができているのは親のおかげですし、デフの協会の人もたくさんサポートしてくれています。恩返しの意味でも金メダルを三つ取りたいです。
<デフリンピック東京大会後に考えていることは何でしょうか>
世界選手権が2年後にありますし、その2年後にはデフリンピックもあるので、そこまではしっかり続けていきたいです。若手も増えてくれたらなと思っています。教えていけるところは教えていきたいです。
また、私のように、小さい子でデフテニスを知らない子もいます。障害が一つあることで、小さい子には何かしら感じることがあると思います。内向きになり、スポーツをそんなにしたくないとか。
それでも、デフテニスを知れば、希望につなげることができるかもしれない。人生が変わるかもしれない――。魅力を伝え、一つでも多くの希望をつくっていきたいです。
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