“耳が聞こえなくても、もっと気軽に話がしたい”。そんな聴覚障害者が社会とつながりやすくなる、新たなアプリが生まれました。
聴覚障害の当事者と、支援する人との出会いについて取材しました。
■“手話通訳”の必要性とは?
ラグビーの聖地、東大阪市花園のラグビー場で、全力疾走するラグビー部のOBたち。自身も元ラガーマンである糸数順司さんは、その試合をスタンドから観戦していました。
聴覚障害がある糸数さんは、手話通訳の戸田悦子さんと一緒に試合を楽しんでいます。特に通訳が必要なのは、場内アナウンスが流れた時です。
【場内アナウンス】
「前半のメンバーは55歳以上の選手となります。両チーム、選手の入場です」
【手話通訳・戸田悦子さん】
「試合の前半メンバーは55歳以上の人が出場します(と手話で糸数さんに伝える)」
1人では分からなかった場内アナウンスなどの情報を、手話で補ってもらいます。にこやかにコミュニケーションを取っている2人ですが、実は今日が初対面です。
【戸田さん】
「今回、『Sign-mi(サインノミ)』で依頼されて、“趣味で(ラグビーに)行きたいので、通訳をお願いします”ということで、私が来ました」
2人が出会ったのは、あるアプリがきっかけだったのです。
聴覚に障害がある人が、手話通訳をお願いしたい時に手話通訳者とマッチングできる「Sign-mi(サインノミ)」というアプリ。利用料は月額1100円で、通訳者とマッチングすると、内容に応じて3時間から10時間程度、通訳をしてもらえるというものです。
Q.ラグビー観戦は楽しかったですか?
【糸数順司さん】
「もちろん楽しかったです。ラグビーは趣味なんですけど、(以前は)手話(通訳)を頼んでもなかなか受けてもらえず、派遣は難しいという話だったんです」
聴覚に障害のある人は自治体に手話通訳を依頼できますが、仕事や病院といった内容に限られていて、スポーツ観戦や買い物といったプライベートな内容では、ほとんど頼むことができません。
その上、数週間前に予約する必要があるほか、民間に依頼すると1時間につき1万円程度の費用がかかります。こういった利用者の負担が、これまで課題となっていました。
しかし、Sign-miは、手話通訳者が依頼を受けてくれれば、どんな依頼内容でも安価で対応可能。さらに、当日でも対応することができます。
■アプリの発案者は“手話カフェ”のオーナー
Sign-miを作ったのは、大阪市淀川区で手話カフェ「2U」を営む、仙波妙子さんです。仙波さんも生まれつき耳が聞こえません。
このアプリを広めることで、聴覚障害者を支援する人たちの、手話へのハードルを下げたいと考えています。
【手話カフェ2U 仙波妙子さん】
「(健常者は)手話を始めたばかりだと、聴覚障害者と話したいけれど“レベルが高い”と遠慮してしまう。Sign-miの一番の目的は、手話通訳士じゃなくても、街中で困っている聴覚障害者を見かけた時、すぐに助けられる人を増やすことです」
このマッチングアプリは、手話通訳が完璧にできなくてもボランティアとして登録できるため、手話のスキルを上げる場にもなっています。
【通訳者としてアプリに登録している人】
「もっと(手話)通訳の経験も積みたいけれども、なかなかそういう場がなくて。手話カフェとかに来て、楽しくおしゃべりはできるんですけど、通訳となると内容も違うし、立場も変わるので、そういう経験を積みたいと思って、(アプリに)登録しました」
ラグビー場で手話通訳をした戸田さんは、通訳士を目指して日々勉強中だそうです。
【戸田さん】
「(糸数さんの)うれしそうな顔を見て、私も一緒に試合を楽しめたし、(糸数さんに)“昔から趣味でも手話(通訳)がついてくれたら良かったのにな”と言われたので、Sign-miでこの役割をできてうれしかったです」
手話通訳で役に立てたことについて、笑顔で語りました。
一方、手話カフェに訪れた聴覚障害者の方は「電車が急に止まった時に、車内アナウンスが流れても、何が起きたか分からず困ってしまう」と話していました。しかし、街中で手話ができる人を見つけて支援してもらうことは、容易ではありません。
「Sign-mi」を作った仙波さんは“手話マーク”も考案しました。これをつけていることで、手話ができることがひと目で分かるというものです。手話マークは、手話カフェ「2U」で手に入ります。
アプリやマークでつながる人々。そこには、手話という言語を通じた温かいコミュニケーションがありました。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年10月31日放送)
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