「補聴器」は慣れるまでの期間が必要なのはなぜ? 満足度調査から判明した”調整”の重要性【専門家が教える難聴対策Vol.15】

「補聴器」は慣れるまでの期間が必要なのはなぜ? 満足度調査から判明した”調整”の重要性【専門家が教える難聴対策Vol.15】

2024.12.13 16:00

「補聴器を買ったけど使わなくなってしまった」という経験はないだろうか?「補聴器は購入したあとがポイントです」とは、認定補聴器技能者で補聴器専門店を経営する田中智子さんだ。補聴器には慣れるまでの期間が大切だという。その理由やプロセスを解説いただいた。

補聴器は慣れるまでの期間が必要。低い山に登るような感じで一歩ずつ!
補聴器は慣れるまでの期間が必要。低い山に登るような感じで一歩ずつ!


教えてくれた人

認定補聴器技能者・田中智子さん

田中智子さん
田中智子さん

うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA) を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/


補聴器の満足度を左右するものとは?


「補聴器」は決して安くはないですから、購入後に後悔はしたくないですよね。買った補聴器の満足度を高めるには、購入した後にも大切なプロセスがあるんです。補聴器を購入した人の満足度は、『資格者に調整してもらうこと』で高くなるという調査結果が出ています。

 95才までの約1万4000人を対象に実施した日本における難聴者率や補聴器装用率等の実態調査※によると、補聴器購入者の全体の満足度は50%。

「認定補聴器技能者がフィッティングと助言を行いましたか」に「はい」と答えた人の満足度は62%、一方「いいえ」と答えた人の満足度は31%でした。

 したがって、専門家(認定補聴器技能者)の調整を受けた方が、はるかに高い満足度を得られるということがデータで示されています。

認定補聴器技能者によるフィッティングと助言を受けた人の満足度は62%だった。一般社団法人 日本補聴器工業会「JapanTrak 2022 調査報告」をもとに編集部作成
認定補聴器技能者によるフィッティングと助言を受けた人の満足度は62%だった。一般社団法人 日本補聴器工業会「JapanTrak 2022 調査報告」をもとに編集部作成

 この結果から、補聴器の満足度を高めるには、補聴器販売店(専門店)で購入し、認定補聴器技能者がフィッティングと助言を行うことが重要であることがわかります。補聴器も洋服と同じように、購入前にフィッティングすることができます。つけてみて試したり、聞こえ方を調整したり、「慣れるまでの期間」が必要になります。

※一般社団法人 日本補聴器工業会「JapanTrak 2022 調査報告」。
https://hochouki.com/files/2023_JAPAN_Trak_2022_report.pdf


補聴器に慣れるまでの期間は「約3か月」必要

 補聴器はつけてすぐにベストな状態で聞こえるわけではありません。今まで数年、長ければ何十年もかけて徐々に悪くなっていた聴力。その状態でいるところに、いきなり補聴器で音が入ってくると、脳がびっくりします。

 なので、時間をかけて調整しながら慣らしていくことで、雑音への意識が減り、聞きたい音(会話)に集中できるようになります。そして、この補聴器に慣れる調整期間として、だいたい3か月は必要とされています。このことは、補聴器を購入しようと考えているかににはぜひ覚えていただきたいポイントです。


購入前のお試し「レンタル」がおすすめ

 当店にご相談に来ていただいたお客様には、補聴器に慣れていただくために、まず購入する前に「お試し」をご提案しています。なぜかというと、日常生活の中で補聴器を実際に使っていただいて、補聴器が日常生活で役に立つかを判断してから購入を決めていただきたいからです。
 
 どんな商品だって試して納得してから買うほうが失敗するリスクを減らせるもの。補聴器を購入するなら、お試し期間(レンタル)を設けている販売店を選び、何週間か試して調整して、それでも合わなかったら別の機種に変更するか、もしくは購入しなくても大丈夫。試してみて生活が改善するようであれば、購入を検討するステップに進めばいいのです。


補聴器の「調整」って何をするの?

 実際に、どんな調整をするかというと、その人に合わせて、聞こえない低音や高音をたくさん大きくし、聞こえる音域は少しだけ大きくするといった「チューニング」をします。

 さらに、小さい音はたくさん大きく、大きい音はそれほど大きくしない、など、音のボリュームの幅もその人が無理なく聞こえる幅に合わせて、チューニングしていきます。

 聞こえにくくなると、大きい音も聞こえなくなると思われがちですが、実は、大きい音は変わらず大きく聞こえるので、健聴者と同じようにうるさく感じます。

 一方、小さい音は聞き取れなくなっているため、「聞こえる幅」が狭まってしまうのです。このような理由から、使う人ひとり一人の聞こえの状態に合わせて細かく調整しカスタマイズすることが必要になります。

 このカスタマイズがうまくいかないと、必要な音が届かず、せっかく補聴器をつけても「聞こえていない」状態になってしまいます。

 そして、購入時にしっかり調整をしても、その後の聴力が変化した場合は改めて調整が必要になります。一度購入した補聴器は自分の聴力に合わせて、調整しながら快適な状態で使い続けていくというわけです。


音を聞くことと、言葉を聞き取ることは違う

 調整において特に注意したいのは、「音が聞こえること」と「言葉を聞き取れること」は別の能力であるということ。

 基本的に、言葉を聞き取る力の指標となる「語音明瞭度」が低下すると、耳から入る「音を言葉に変換する力」が弱くなるといわれています。この場合、補聴器を調整したとしても、聴力に問題がなかった頃と同じ語音明瞭度にはなりません。補聴器は、その人が持っている最高の語音明瞭度を、60dBという「普通の声の音量」で達成する、というのがゴールになります。

 こうした事情をしっかりと説明されないままに補聴器を購入すると、「期待したほど聞こえなかった」ということになりかねません。

 語音明瞭度が高ければ、”ピーピー、プープー”という「音を聞きとる」聴力測定の結果が悪くても、補聴器を着ければ改善する可能性も高いです。

 逆に、語音明瞭度が低ければ、補聴器を着ける目標を、会話するよりも、危険な音を察知する、後ろから来る車の音が分かるようにする、などに重点を置くということも大事です。

 こういった説明は、専門家(認定補聴器技能者)がしっかり行ってくれるので、補聴器を買う前に確認し、補聴器の目標をどこに置くのかを本人・家族と認識を一緒にしたうえで、購入するのが良いと思います。

「習うよりも慣れよ」。補聴器を使いこなすにはこのことが大切なのです。

 最後に、慣れるまでのステップを経て、旅行が楽しめたという女性のお客様の実例をご紹介します。


実例/「慣れる」までのステップを経て旅を楽しめるように

 60代の女性Aさんは、夫婦でよく旅行に出かけられる活動的なかたです。15年くらい前から聞こえづらさを感じるようになり、新聞の広告で見た補聴器を通販で購入したところ、雑音などが響く割に、言葉が聞き取りにくく、だんだん煩わしくなり、たまにしか使わなくなってしまったそう。

 そこでまず、補聴器のお試しから始め、最初の3週間は、週に1度のペースで店舗に来ていただき、調整しました。だいぶ慣れてきた頃に購入を決断され、その後も調整を繰り返し、Aさんの耳に慣れるまでトータル2か月の調整期間となりました。

 補聴器に慣れて来た頃、和歌山へご旅行されたときのことを嬉しそうにお話してくださいました。旅先で出会った人々にふいに話かけられたときにもしっかり聞こえるようになり、何気ない会話を楽しめたそう。今までは、前後の文脈から言葉を推察して頭をフル回転しながら会話をしていたそうです。

 新しい補聴器にしてから、初めて会った人から、まったく予想してなかった話題で話しかけられたときに、きちんと聞き取れて、とてもうれしかったとのことでした。これまで聞こえづらかった自然の音、那智の滝の水音や小鳥のさえずりも感じることができたといいます。

「補聴器に慣れるまで調整に頑張って通ったおかげで、今はアクティブに動けて人生楽しい!」と喜ばれていました。


★うぐいす智子先生のワインポイントアドバイス!

「補聴器の満足度は人生の喜びに影響する!専門家と一緒に2~3か月ほどかけて調整し、慣れていくことが大切です」

うぐいす智子先生のイラスト

取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな


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