アルツハイマー病患者は現在、世界に5500万人以上いると推定されている。
人々の寿命は、全体としては延び続けており、その数は今後、さらに増加すると予想される。
また、患者のうち95%以上が「後期アルツハイマー病」と診断されていること、遺伝性ではない場合が多いことから、治療は非常に困難なものとなっている。
こうした状況のなか、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らが創設したニューロテクノロジー企業Cognito Therapeutics(コグニート・セラピューティクス)は、アルツハイマー病の進行を遅らせ、認知機能を回復させることができる可能性を持つ画期的な技術の開発を進めている。
点滅する40Hz周期の光、そして音で刺激を与えるヘッドセット「GENUS(gamma entrainment using sensory stimulus、ガンマ周波数感覚刺激)」について行った臨床試験(パイロット試験)の結果、この技術は安全で、患者が自宅で使用できるものであるだけでなく、加齢にともなう神経変性による症状を軽減するとみられることが確認されたという。
「GENUS」は毎日の使用によって、長期的にはアルツハイマー病の患者に利益をもたらすものとなる可能性がある。
研究チームは最初の実験の後、この仮説について検証するため、臨床試験に参加した患者のなかからアルツハイマー病の初期の症状がある患者を抽出してサブグループとし、第2段階の試験を行った。
試験は15人の参加者を「GENUSを使用」するグループと「光の刺激を与えてホワイトノイズを聴かせる」コントロールグループにランダムに分け、盲検化した上で実施した。
参加者たちには事前に、認知評価と脳MRI検査を受けてもらった。
参加者たちには、ヘッドセット型のGENUSを自宅に持ち帰り、6カ月間にわたって毎日1時間、使用してもらった。
また、指示に従って行っていることを確認するため、使用するデバイスには、スイッチがオンになっている時間が記録できるようにした。
3カ月後に再び参加者たちの状態を調べたところ、GENUSによる刺激を与えられた人たちは、コントロールグループよりも脳の萎縮が進行していなかった。さらに、睡眠が改善され、顔と名前の連想検査におけるパフォーマンスも向上していた。
この研究では、GENUSの刺激が神経変性を遅らせていたことを示唆する有望な結果を得ることができたといえる。
GENUSは光と聴覚からの刺激を同時に与えることで、認知能力を向上させるだけでなく、脳の構造変化を誘発し、脳の萎縮を妨げる働きをしたと考えらえる。
このテクノロジーがどのように機能しているのかについて、明らかになっているわけではない。
ただ、マウスを使って行った初期の実験の結果では、40Hzの光と聴覚への刺激が神経細胞同士のコミュニケーションに影響を与え、それが加齢にともなう神経活動の変化を抑制し、こうした反応が起きた可能性があることを示唆する結果が得られている。
Cognito TherapeuticsはGENUSについて、アルツハイマー病以外の神経認知疾患の治療に対する安全性と有効性についても数件の臨床試験を行っている。
また、GENUSはすでに米食品医薬品局(FDA)の「Breakthrough Device Designation(BDD:画期的医療機器指定)」を受けており、画期的な医療機器を迅速に提供するための優先審査の対象となっている。2025年までに承認される可能性もあるという。
患者が自宅で使用できるように設計され、パーソナライズすることが可能なGENUSは、より安価で、より利用しやすい治療法の1つとなるかもしれない。
(forbes.com 原文)
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