聞こえの基礎知識【社会人編】補聴機器は使っていない方

相手の声が聞き取れず職場でのコミュニケーションに困ることはありませんか?

このページは、職場でのコミュニケーションに困っている方向けのページです。

「複数人との打合せや会議で話についていくのが難しい」、「リモート会議になって話しの内容を聞き取るのが難しくなった」、「ついつい聞こえているふりをしてしまう」といったお悩みをお持ちの方々が、職場での聞こえの悩みを解決し、少しでも楽しく充実した日々の生活を送れるよう、さまざまな情報をお届けしています。

少しお時間をいただきこのページを読んでいただくことで、みなさんが持っている疑問や不安を解消できたらとても嬉しいです。

自分の聴力を知る

“聞き取りにくい”を改善するために、最初に必要なことは自分の聴力を知ることです。

聴力を知るためには耳鼻科や認定技能者在籍の補聴器専門店などで聴力検査を行い、どのくらい小さな音まで聞こえるかということを測定します。

聴力を測定することで、低い音から高い音までのどの音が聞き取りにくいのか、また難聴の種類(伝音性難聴、感音性難聴、混合性難聴など)を知ることができます。

聞き取りにくい環境を確認する

どの様な時に聞き取りにくさを感じるのかを確認します。

例えば、

  • 会議などで離れた席の人の発言が聞き取りにくい
  • 周りが騒がしく相手の話が聞き取りにくい
  • 天井が高い部屋で声が響いて聞き取りにくい
  • 複数人との会話が聞き取りにくい
  • 車を運転している時に、後ろの座席の人の話が聞き取りにくい

聞き取りにくい理由が、話し手との距離なのか、騒音や反響音の影響なのか、また複数人との会話が難しいのかなどを把握します。

解決方法を検討する

自分の聴力と聞き取りにくい環境が分かれば、それに応じた解決方法を探すことができます。

一般的な解決方法としては補聴器があります。

最近の補聴器はワイヤレスイヤホンのような見た目のものから、耳の穴の奥に入れてほとんど見えないものなど、ひと昔前の補聴器と比べてかなり小さく、またお洒落になっています。

また視覚的に情報をとることができる音声文字化アプリなど、聞き取りの改善にはさまざまな解決方法があり、聴力と聞こえにくい環境の2つの情報から、自分に合った解決方法を選ぶことができます。

補聴器の聞こえに満足できない理由

「補聴器を使っているのだけれども、それでも相手の言葉が聞き取りにくい」

よく聞く悩みの一つです。

なぜ、補聴器を使っても聞き取りが難しいのでしょうか?

理由その①補聴器が自身の聴力に合っていない
理由その②補聴器の調整が正しくされていない
理由その③補聴器の限界

など、さまざまな理由が考えられます。

理由その①補聴器が自身の聴力に合っていない

補聴器には軽度の難聴向けから重度の難聴向けなど、補聴器から出る音の大きさにより複数の種類があります。

当然軽度難聴用の補聴器では高度難聴、重度難聴には対応できません(逆も然りです)ので、使っている補聴器が聴力に合わない場合は満足した聞こえを得ることはできません。

また、聴力は年齢とともに変化し、一般的に徐々に低下していきますので、補聴器が現在の聴力に合わなくなっていることはあり得ることです。

補聴器が聴力に合っているかを確認するためには、聴力測定が必要です。

正確な測定結果を得るためにも、聴力測定は測定機器や防音設備や整った耳鼻科医院や補聴器専門店で測定することが必要です。

理由その②補聴機器の調整が正しくされていない

効果測定

補聴器が適正に調整されているか確認をするには、補聴器を着けている本人による主観的評価も大切ですが、測定機器を使った客観的評価『効果測定』がとても重要となります

この効果測定はスピーカーから出る音で2つの測定を行います。

音場閾値測定(おんじょういきちそくてい)
補聴器をつけていない状態での聞こえと補聴器をつけた状態での聞こえを測定し、『音の聞こえの効果』を客観的に測定します。”ピロロ、ピロロ”という音が僅かでも聞こえた時に応答ボタンを押して記録します。

音場語音測定(おんじょうごおんそくてい)
こちらは、”あ”、”え”といった単音節という言葉を聞き、その正解率を(%)で表す測定で、『言葉のきこえ方の効果』を客観的に測定します。

こちらも補聴器をつけていない状態での聞こえと補聴器をつけた状態での聞こえを測定します。

言葉の聞き取り検査を行うことで、言葉を聞き分ける限界を把握したうえで、補聴器をつけたときにどれくらいの音量に設定すると一番聞こえがよくなるかを判断することができます。

補聴器の音に慣れないとうるさいと感じたり、よく聞こえないと感じたりすることがありますので、きめ細かく効果測定をしながら調整して、納得できる聞こえに近づけていきます。

理由その③補聴器の限界

補聴器には限界があることをご存じでしょうか?

聞こえを補ってくれる補聴器ですが、難聴の程度によって、また、言葉の聞きとり能力の程度によっても、補聴器の効果は異なります。

補聴器の限界を知っておくことで、より効果的な使い方が可能になります。

補聴器の限界その①距離

補聴器の限界その1距離

面と向かって話している相手の声はよく聞こえても、話し相手が離れれば、離れるほど、相手の声が小さくなり聞き取りにくくなりますよね。

音は距離によって減衰するため、離れた相手の声を聞くことは補聴器を使っても難しくなります。

一般的に補聴器で十分に言葉を聞き取れる相手との距離は1.5mが限界と言われています。

補聴器の限界②騒音

補聴器の限界2騒音

補聴器はマイクロホンで相手の声を拾いますが、騒がしい場所では騒音も一緒に集音してしまいます。

騒音を抑制し言葉を聞き取りやすくする機能がついている補聴器もありますが、その効果は高価な器種に限られていたり、機能が付いていても騒音の大きさによっては限界があったりします。

補聴器をつけていても、つけていなくても騒がしい環境での言葉の聞き取りは難しいと考えてください。

補聴器の限界③複数人との会話

補聴器の限界3複数人との会話

複数人との会話が難しいと感じたことはありませんか?

補聴器にはマイクロホンに騒音が入るのを防ぎ、話し相手の声をしっかりと集音するために、指向性マイクロホンと言って話し相手の方向の音をより大きく集音する機能がついている機種が多くあります。

話し相手が複数人の場合、この指向性の機能のために顔を向けていない方向の人の声が聞き取りにくくなることがあります。

医療費控除について

補聴器を購入することは決して安い買い物ではありませんよね。

平成30年度から補聴器購入に際し、医療費控除を受けられるようになりました。

<一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会 HPより>
補聴器の装用と活用は、WHOのキャンペーンに「難聴」が取り上げられ、さらには難聴と認知症の関係のエビデンスが蓄積されつつある現在、日耳鼻として推進すべき社会貢献の中でも喫緊の課題の一つです。

超高齢社会を迎え、身体障がい者に限らず広く補聴器を活用することは重要でありますが、補聴器は高額な医療機器であり、装用者、購入者にとって大きな負担となっています。

平成30年度から、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」の活用により、医療費控除を受けられることが、厚生労働省、財務省によって承認されました。

「医療費控除について」を読む

<聞こえのコラム>
『補聴援助システムについて』

聞こえは補聴器をつけて改善することが一般的ですが、その人の聴力やその日の体調、また騒がしい場所での聞き取りなど、補聴器だけでは聞きたい声を十分に聞き取ることが難しい場合があります。

そんな時に補聴器と合わせて使用することで言葉の聞き取りを向上させるのが補聴援助システムです。

補聴援助システム

補聴援助システムは、補聴器の限界である①距離②騒音③複数人との会話を克服するために開発されたシステムで、補聴器だけの聞こえを大きく改善してくれます。

例えば、カルチャースクールでのヨガ教室やリハビリ体操、囲碁や将棋の講座など、「講師の先生の声をより良く聞きたい!」、「大勢の集まりの中で聞き取りにくい!」といった場面で使用したり、台所の奥様と居間の旦那様との会話で使用したりすることで「周囲の騒音」と「話し相手との距離」を克服することができます。

補足情報

聞こえの仕組み
「耳のキホン」 聞こえの仕組み
「聞こえないこと」

よくある質問

会議で離れた席の人の声が聞きとりにくく重要な内容を聞き漏らしているのではと心配になります。何か解決策はありますか?

聴力検査の結果次第にはなりますが、補聴器や補聴援助機器を活用いただき解決できるかもしれません。

器械をどうしても使いたくない、ということであれば、聞こえやすい座席に座るようにすること、会議の参加者にご自身が聞こえつらいことをお伝えいただき、お顔をみて話していただけるよう依頼すること、などの対応も良い方法だと思います。

依頼するのが難しい場合は器械の力を活用していくという選択肢も良いのかな、と思います。

補聴器とはどの様なものですか?

補聴器は聴力が低下した人の聞こえを補う医療機器で、聞き取りにくい音を、補聴器を使用する人の聴力に合わせて、聞こえやすい音に調整してくれます。

構造的には①音を拾うマイクロホン、②音を大きくするアンプ、③音を出すレシーバーの3つの部品からなります。

補聴器を使えば以前の様に聞こえるようになりますか?

補聴器は聴力が衰える前の聞こえに戻すのではなく、現在の聴力を最大限に活用し、聞き取りにくい音を、その人の聴力に合わせて聞こえやすい音を提供するものです。

一度低下してしまった聴力を元通りにすることはできませんが、正しく調整された補聴器を活用することで、聞こえを補い、生活の質を高める助けになります。

<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
補聴器を使うとどのくらい聞こえるようになる?
補聴器をつけている効果は客観的にわかるもの?

補聴器はどのくらい聞こえにくくなったら使いはじめるべきですか?

聞こえに不自由を感じられたら、なるべく早い時期に耳鼻科を受診し、補聴器の使用について相談することをおすすめします。

音が聞き取りづらい状態が長く続くと、脳が音を忘れてしまい言葉を聞き分ける力が低下してくると言われています。

早い時期から補聴器を使い始めて、音を忘れてしまうことを未然に防ぐことが大切です。

補聴器の購入を検討しているのですが、どこで購入したらよいかわかりません。

補聴器はさまざまなお店で販売されていますよね。電気店や眼鏡店、補聴器の専門店ももちろんあります。

お店を選ぶ際におすすめしたいポイントがいくつかあります。

まずは補聴器の専門家としての資格「認定補聴器技能者」を持っている販売員が在籍しているかどうか。

認定補聴器技能者またはこの資格を取得するために勉強をされている方であれば、補聴器のこと、耳の仕組みの基本的なこと、を理解されているので、気になる点があれば、質問にしっかりお答えいただけると思います。

次に、お店の方からの押し付けがないかどうか。

補聴器を使う/使わない、そして、どの補聴器が自分に合うかどうかを最終的に決定されるのは、お使いになる方ご自身です。

補聴器をお使いになられる方がご自身の聞こえのパートナーとして、補聴器のもつ力を 100%活用できるようにサポートするのが補聴器専門家の役割なので、補聴器にどんなものがあるか納得いくまで説明してくれる、たくさんある補聴器メーカー毎の特徴をしっかり把握している、といった点を確認されることをお勧めします。

聞こえ=聴覚は五感の一つなので、人によって音の好みがあります。

生活環境や聞こえの状態に対して、すべての補聴器がすべての方に対して 100 点満点の器械ということはないですので、ご自身の生活環境や聞こえの状態を鑑みた上で、選択肢を提案してくれるお店であれば信頼できるのではないかと思います。

<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
補聴器はどこで買えばいいのか?

補聴器の価格はいくら位?

一般的に補聴器の価格は機能・性能が増えるほど高くなり、各機種ごとに3~5つのクラスに別れています。

価格は10万円弱~50万超くらいとなっています。

補聴器の値段の差は、補聴器にできることの差=補聴器にどこまでの機能を求めるかで異なります。

<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
補聴器の値段の違いは何?
補聴器購入時に公的な援助や補助金、保険などはありますか?

補聴器の寿命は何年ですか?

補聴器の耐用年数は5年間とされていますが、日々のお手入れと、お店での定期的な点検をすることで長く使うことができます。

※「補装具費 事務支給ガイドブック」聴覚障害者の補装具では補聴器の耐用年数は5年とされています。

<参考>
補聴器のお手入れ方法【耳かけ型】
補聴器のお手入れ方法【耳あな型】


障害者差別解消法の合理的配慮で会社に補聴援助システムや音声文字化アプリなどの支援機器を準備してもらうことはできますか?

民間企業・事業者の合理的配慮の提供は2021年6月時点では努力義務(公布日2021年6月4日から3年以内に義務化されます。)となっており会社ごとに対応が異なると思われますが、合理的配慮として補聴援助システムや音声文字化アプリなどの支援機器を会社側が準備してくれる事例は多数あります。

<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
『セルフアドボカシー』って何?
補聴援助システム『ロジャー』とは?

ロジャーの申請が通りません。どう説得すればよいでしょうか?

お使いの補聴器が重度用耳かけ型補聴器で受信機、オーディオシュー、ワイヤレスマイクを必要とする場合、補聴器と同じように「補装具申請」が可能です。

お使いの補聴器が重度用耳かけ型補聴器以外の場合は、「特例補装具申請」という申請を行います。

補装具でも特例補装具でも『真に必要な理由』が必要とされているので次のような理由を強く訴える必要があります。

・仕事上必要(ロジャーがないと業務が制限される)

・会議や打ち合わせなどは、ロジャーがないと離れた位置にいる人の話を聞き取ることができない

成人の場合、「あった方がより助かる」程度の理由だと申請は通りませんので、本当に困っていることを強く訴えてください。

<参考>
『『知っておきたい聞こえの豆知識』』
補聴援助システム『ロジャー』の福祉申請手順は?


『お役立ち資料』
・ロジャーの申請方法【社会人編】

職場でロジャーを使ってもらえません。どう説得すればよいでしょうか?

平成25年6月に制定された「障害者差別解消法」では、国や自治体、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止し、また障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること「合理的配慮」の提供が国や自治体は法的義務、民間企業・事業者は努力義務とされており、第204回通常国会において改正障害者差別解消法が成立し、公布から3年以内に民間企業・事業者も法的義務化されることになりました。

この「障害者差別解消法」のことを説明し、「合理的配慮」を求めるのがよいかと思います。

<参考>
『お役立ち資料』
職場でロジャーを使ってもらう時の説明資料

『知っておきたい聞こえの豆知識』 
『セルフアドボカシー』って何?

聞こえについて相談する