この器官が衰えるとヨボヨボ化が一気に進む…視力でも味覚でもない「認知症の発症を遅らせる」ための必須条件

この器官が衰えるとヨボヨボ化が一気に進む…視力でも味覚でもない「認知症の発症を遅らせる」ための必須条件

2025/03/24 7:00
そしてもう一度、妻に恋しよう
PRESIDENT Online
野地 秩嘉
ノンフィクション作家

認知症の進行が速い人と遅い人は、どこが違うのか。「攻めのリハビリテーション」を掲げるねりま健育会病院の酒向正春院長は「高齢になると視力が落ちてくるが、視力が落ちても認知症にはあまり関係がない」という。認知症患者にみられる共通点を、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(第3回/全4回)

年配の男性が居間を歩くのを手伝う看護師

写真=iStock.com/miniseries
※写真はイメージです


リハビリ医の「本当の使命」とは

リハビリ医として名高い酒向正春先生。ねりま健育会病院の院長と介護老人保健施設ライフサポねりの管理者をやっている。

酒向先生はこう言った。

「人生100年時代です。ただし、100年まで生きても、そのうち寝たきりが30年では意味がない。健康でしかも仕事をして生きていくのが理想です。

リハビリ医といえば、認知症や脳卒中など頭や体が自由にならなくなった人を治す医師と思われています。しかし、本当の使命は頭や体が壊れないように認知症や脳卒中のリスクを可能な限り抑えること。認知症にならないような生活習慣、考え方をみなさんに伝えることなんです」

この連載では先生が言ったように、認知症リスクを抑える生活の仕方を描いている。
第1回は健康な一日の過ごし方と入浴によるストレスの軽減についてだった。2回目は食生活と認知症の関係についてだ。


コミュニケーションが認知症リスクを抑える

そして、今回はコミュニケーションの大切さについて、先生の話を聞いた。

「認知症にならないようにするためには『楽しい』『気持ちいい』という日々を過ごすことです。そのためには周囲の人たちとコミュニケーションをとり、ワクワクすることが重要。

定年退職すると、毎日、自宅にいて孤立する人がいます。それは危険です。何か仕事をすることでもいいし、地域の集まりに出かけるのもいい。定期的に人と会うことです」

コミュニケーションの基礎となるのが聴力だ。人の話が聞こえなくなると、会うのが億劫になる。ひいては孤立してしまう。聴力の低下に気づいたら、すぐに処置をすることが必要だ。

「認知症になりやすい人、どういった環境で過ごしているかといったことはすでにわかっています。そこで重要になってくるのが聴力です。

年をとると難聴になる人が出てきますが、難聴の人は認知症になりやすい。難聴になると入ってくる情報量が圧倒的に少なくなるので、そこが問題なんです。難聴はそのままにしておいてはいけません。機能のいい集音器、補聴器がありますから、ためらわずに使うことです」


聴力低下は放置せず、補聴器を使おう


「わたし自身、会議では集音器を使い始めました。今のところ、1対1、一対少数の会話ではまったく不自由はしていません。しかし、大人数の会議になると、出席者の発言が少し聞こえにくくなってきました。それで、会議になると集音器を付けて参加しています。そういうところはカッコつけないほうがいい。

また、高齢になると視力が落ちてきます。しかし、視力が落ちても認知症にはあまり関係がないんです。今のところ有意差のデータが示されているのは聴力です。聞こえなくなってきたら専門医に相談して補聴器か集音器をつける。

つまり、大切なのは周囲とのコミュニケーションです。社会的な孤立は認知症のリスクを高めます。そして、勉強しない人。これもダメです。学歴とは関係なく、年をとっていても何かを学んでいる人はボケることはありません。一流大学を出て、一流企業に入った人でも、勉強を続けない人、学習しない人はやっぱり認知症になりやすい」

ねりま健育会病院の酒向正春院長

ねりま健育会病院の酒向正春院長


あおり運転やクレーマーが認知症リスクを高める理由


あおり運転、クレーマーといった行動をする人も認知症になりやすいという。先生は説明する。

「あおり運転やお店でクレームをつける人って、自分なりの正義感を持っている。ただし、ユーモアがない。自分はよくて相手が悪いと一方的に決めつけています。そういう人って幸せではないんです。思考が一方的で、楽しいことを見つけていないから、ネガティブな感情にとらわれてしまう。

幸せになろうとするのであれば、他人のいいところを見つけて、褒めてあげること。他人を激励して頑張っていることを褒める。そうすれば相手も感謝します。人から感謝されるのはとても幸せなことですよ。

先ほど、ユーモアがない人は認知症になりやすいと言いました。ユーモアがなくてもいいから、少なくとも一日に一度は笑うことです。無理にでも口角を上げて笑顔になる。それを無意識のうちにできるようになれば余裕が生まれてきます。

ユーモアって、人間が持つ余裕だと思うんです。ただ、若い頃はなかなか余裕は持てませんよね。定年退職した人は余裕を持つチャンスです。前を走っている車がスピードが遅かったら、サービスエリアにでも入って、コーヒーでも飲むこと。デパートやコンビニの店員さんの態度が悪かったからといって怒鳴ったりしないこと。態度の悪い店員がいたら、怒るのではなく、買うのをやめればそれで済むんです。

あおり運転やクレーマーになることは認知症への早道だと思えばそういうことはしなくなります。年をとった人間にできることって生活に余裕を持つことなんですよ。誰かから優しさを受けたら、それを笑顔ですべて受け入れる優しさが脳を快適にするんです」


ヨボヨボになる男性、イキイキする女性の違い


酒向先生がコミュニケーションと同じように「大切にすべき」と言っているのが感受性だ。感受性が豊かな人は人間味があるから、周囲から愛される。愛情に囲まれて生きていくのは幸せだ。逆に感受性がにぶいと今度は周囲から見放されてしまう。

先生は言う。

「定年退職すると会社というコミュニティから解放されます。それで、次はどういうコミュニティに入るかといえば、これは地域のコミュニティなんです。地域のコミュニティでは会社で役員だったとか部長だったことは通用しません。町内会の会合で『僕は専務だった』という話ばかりしたら、周りは白けてしまう。

定年退職して幸せになろうと思ったらそれはもう気持ちを入れ替えることです。いつまでも会社の役職にこだわっていたら相手にされません。実はこういう人は多いです。認知症になる男性で感受性が鈍い人は実に多い。

女性はたくましいです。会社を辞めたら、もう肩書をひけらかすことはありません。地域の中に溶け込んで自分の居場所をちゃんと作ります。家に定年退職した夫を残して、ひとりで山登りしたり、ヨガの教室に通ったりしています。そういう女性たちに見習うべきです」


もう一度、妻に恋しよう

わたしはここで質問した。

「酒向先生、感受性といえば恋愛はどうなのでしょうか? 『恋は遠い日の花火ではない』という宣伝の文句もありましたが、熟年からの恋愛は認知症を防ぎますか?」

シニア夫婦は自然の中に座って一緒に時間を過ごす写真

写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです


酒向先生は即答した。

「はい。奥さまかパートナーを愛してあげてください。もう一度、奥さまと恋愛してください。不倫は結局、長続きしませんし、奥さんと不仲になるだけです。家庭で孤立すると、それは地獄に等しい。不倫などせずに、奥さまに愛情を傾ける。

もっとも奥さまのほうはあまり旦那のことは考えていないかもしれません……。それでも奥さまを愛する。伴侶性を高めることが重要です。それは奥さまが認知症になることも防ぎます。また、恋愛すると誰でも身だしなみに気をつけます。身の回りがだらしなくなるのは認知症の初期でもあります。ゴミ屋敷に住んでいる人はたいてい認知症ですから。そこは気をつけてください。

また、恋愛の延長として子ども、孫、ペットを可愛がる人もいますけれど、これも悪いことではありません。ペットを飼うのも、お孫さんにお小遣いをあげるのも、猫を可愛がったりするのも悪いことではありませんよ。推し? 私は『推し』の感情を持ったことがないので、なんとも言えません。しかし、推しも愛情表現のひとつでしょうからわるいことではありません」


「可愛い患者」を目指す


第1回に記したが九州大学による2022年の推計で、認知症と軽度認知障害(MCI)の患者数は合わせて約1000万人だ。(認知症を患っている人が約443万人で認知症予備軍とされるMCIの患者数が約558万人)

そして、この数は年々、増えていく。認知症になるのは嫌だけれど、それでもなってしまうことがある。

もし、自分が認知症患者になったら、どうすればいいのか。認知症になってしまったら、自分の意思をコントロールすることはできなくなるのだろうか。

酒向先生は「いや、そんなことはありません」と言った。

「認知症の患者さんはふたつに分かれます。怒りっぽくなる人と逆にかわいい認知症の患者さんです。認知症の治療法って決まっています。しかし、認知症は治らない。よくなることはなく、悪くなりにくくする治療法です。

誤解を受けやすいのですがね、僕の認知症の治療法というのは、怖い認知症のおじいちゃんおばあちゃんを、かわいいおじいちゃんおばあちゃんに変えてあげること。

怒ったり、大声を出したり、看護師に嫌がらせをしようとするような患者さんを変えることなんです。

赤ちゃんとおじいちゃんおばあちゃんを比べてみてください。赤ちゃんは泣きますけれど、見ていて、愛らしい。親切にしたくなります。おじいちゃん、おばあちゃんもにこにこしていて可愛い認知症でいれば周りも親切にするんです」


怒りっぽい人は、一生懸命な人

「それが嫌われるおじいちゃん、おばあちゃんになったら、われわれも大変ですし、家族も困ります。怒る程度がひどくなり、暴力を振るうような患者さんだと介護事務所からも見放されて、介護事業所へも入れなくなります。

前頭側頭型認知症というのがあるのですが、その患者さんは怒りっぽくなるんです。元々、怒りっぽい人って、前頭葉が萎縮しているケースが多いんですね。そして、前頭葉が萎縮していない人でも性格として怒りっぽい人はいます。

実は私も怒りっぽい部類ですけれど、毎日、我慢しています。怒りっぽい人はいつも一生懸命なんです。真面目で一生懸命だからついつい怒ってしまう。

では、怒る患者さんをどう変えていくかといえば薬を使用します。よく使われているのが漢方薬の抑肝散です。高齢女性に対しては桃核承気湯も使います。いずれもイライラをなくす漢方薬です。さらにひどい症状の患者さんには向精神薬を少量から処方します。これは暴力など迷惑行為に訴える患者さんですね」


愛する対象と過ごす時間を大切に

「ただ、向精神薬に行きつくまでに、その患者さんがやさしくなる対象をさがして、それと一緒にいてもらうようにします。たとえばペットですね。もしくは愛する人。そういう対象と長く過ごす時間を与えて気持ちを落ち着かせる。

怒りっぽい患者さんのなかには夜も寝ないで怒っている人もいます。そうなると、家族は大変。介護事業所もそういう方には退所してもらうしかなくなります。

認知症になったら、可愛い患者さんになることです。可愛い患者さんであれば周りも優しくしてくれます」

公園のベンチに座って川を見る独りのシニア男性

写真=iStock.com/Jelena83
※写真はイメージです


酒向先生の提言は重要だ。認知症になることが避けられないのであれば可愛い患者を目指す。日ごろから愛する対象との時間を持つ。中年になったら、推しを持つことだ。


野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「巨匠の名画を訪ねて」を連載中。


リンク先はPRESIDENT Onlineというサイトの記事になります。


 

Back to blog

Leave a comment