「アルバイトに採用されない」と悩むろう・難聴の若者は少なくありません。今回の『#ろうなん』は、当事者が社会で経験を積むために、どのような支援が必要なのかを考えます。
後半は、東京デフリンピック向けて頑張る、小学4年生の有望選手をご紹介!
周囲のサポートで得られた自信
ろう学校高等部に通う3年生の古川天斗(ふるかわ・たかと)さんは、小学校に入学してまもなく音を聞き取りにくくなり、翌年からろう学校に通い始めました。
就職を見据えて、アルバイトに初めて応募したのは高等部1年のとき。
得意な料理の腕をいかしたいと、ファミリーレストランなど大手飲食店を中心に申し込みましたが、「音が聞こえないと、安全面やコミュニケーションに不安がある」と言われます。
1年間で応募した企業は12社。そのすべてが不採用でした。
古川さん:断られるたびに、少しずつ心が折れるという感じでした。耳が聞こえないというと、「難しいね」と言われ、それで終わり。「聞こえないんですね。では、できることはありますか?」と聞いてほしかった。
どうしたらいいか分からず、ひとりで悩みを抱え込んでしまった古川さん。
そんなとき、気に掛けてくれたのが、通っている手話ダンス教室の講師で、聴者の北村仁さんでした。
ダンスだけでなく、学校生活についても相談に乗ってくれる北村さんに、古川さんは思い切ってアルバイトに採用されない悩みを打ち明けたのです。
「ビックリしましたね。天斗は次で(アルバイトに)落ちたら、人間がくさっちゃうんじゃないかなって(心配しました)。だったら、自分でつくったほうが早いと思ったので、働ける場所をつくろうと行動しました」(北村さん)
さっそく北村さんはネット配信番組に出演。「耳の聞こえない学生たちが、アルバイトに困らない環境をつくりたい」と訴え、開店資金を調達しました。
そして、バーを経営する知人に頼み、昼間だけ店を借りてカフェを開くことにしたのです。
悩みを打ち明けてから半年後、待ちに待ったカフェが開店しました。
古川さんは念願だったアルバイトができるようになり、主に接客を担当しています。
以前は人前に出るのが苦手だったと言いますが、いまはスムーズに接客できるようになりました。
聞こえる人たちと一緒に働き、あいさつや立ち居振る舞いなど、アルバイトを通して人と接するときに大切なことを学んでいます。
店には、ろう、難聴者、そして聞こえる人など、さまざまなお客さんが来るので筆談ボードを用意して、誰とでもスムーズにコミュニケーションを取れるようにしました。
注文の品は丁寧に、素早く配膳がモットー。
お客さんからの呼びかけにすぐに気付いて対応するため、厨房での作業の合間でも古川さんは何度も客席に目を向けます。
古川さん:マナーや時間(を守る)など、いろいろ勉強になります。どう動けばいいのか、自分で考えられるようになりました。
アルバイトを始めて4か月。
コミュニケーション力にも磨きがかかり、働くことが楽しくて仕方がないという古川さんは、自分の名前をつけたメニュー『タカトのフレンチトースト』を考案。
お客さんからも大好評です。
古川さん:聞こえる人たちが周りにいっぱいいて、それぞれの文化の違いを面白いと思うようになって、「それってどういうこと?」「どうやるの?」と、お互いの違いを共有できることがとても楽しいんです。
そして今年の夏、アルバイトで自信を得た古川さんは、新たな挑戦を始めました。
聞こえる高校生たちと一緒に企画し、地域の人にむけた手話講座です。
この日は、初めて手話に触れる人など、子どもから大人まで幅広い世代の人たちが参加。
特に詳しく伝えたのは、聞こえる人と違う、ろう者の特性です。
古川さん:ろう者は後ろから話しかけられても気付けません。だから、肩を軽くたたいたり、顔の前で手を振って気付いてもらいます。
ろう者がふだんの生活で感じる困難や困っていることを理解してもらいたいと考えたのです。
古川さん:これからの自分に自信を持てるようになりました。聞こえる人たちに気付いてもらえるように、自分から行動を起こす。それがとても大事です。積極的に挑戦していくことがいちばんだと思います。
社会経験によって取り除かれる壁
全日本ろう学生懇談会のメンバーの平嶋萌宇(ひらしま・もね)さんは、学生生活で起こる悩みや問題について話し合い、解決策を考える活動をしています。
平嶋さんもアルバイトが決まらなかった経験がありました。
平嶋さん:私はいま、スポーツ用品店でアルバイトをしているんですが、ろう者であることで採用を断られることがありました。私は心がすぐ折れてしまい、2つ3つであきらめてしまいました。
平嶋さんは周囲に相談したことがきっかけで、現在のアルバイトを始められました。
平嶋さん:私には聞こえる兄がいて、スポーツ用品店で働いていたんです。兄に「アルバイトがみつからない」と相談したところ、店長が「以前、ろう者と働いたことがあるから」と言ってくれました。当時、自分一人で悩んでいたら、働くことはできませんでした。あのとき、勇気をもって一歩踏み出し、兄に相談したからこそ今があるので、その選択をしてよかったなと感じています。(いまは)聞こえない後輩を誘って、同じ職場で働いているんです。スタッフみんな、後輩ともスムーズに働けています。
障害がある人のコミュニケーション支援が専門の筑波技術大学教授の加藤伸子さんは、ろう・難聴の学生の就職を支援しています。
「聴覚障害者を採用した経験のないところほど、何ができて何ができないのか分からないので、不安を持っていることが多いと思います。ただ、筑波技術大学の周辺だと、先輩たちがアルバイトを開拓してきたこともあり、色々なところでアルバイトができるようになった。場所によっては困難さがあるところが多いですが、理解を得られることで変わっていく面があると思います。
(平嶋さんのように)周囲に相談すること。それから、周りに聞こえない方とか先輩がいたら、そういう方の話を伺ってみる。ロールモデルを教えていただけるのは、とても効果があると思います」(加藤さん)
さらに、アルバイトなどのさまざまな社会経験をすることによって、ろう者と聞こえる人との壁を取り除くこともできます。
平嶋さん:アルバイト先で怖そうなお客さんに声を掛けられて、「聞こえない」と言うのをためらったんですけど、「私は聞こえないので、メモでやり取りしてもいいですか?」と伝えたら、「いいよ、これがほしい」とジェスチャーで伝えてくれたんです。それがすごくうれしくて、「分かりました。探してきます!」と、答えました。聞こえる人と(ろう者には)壁があるとよく言われますが、自分も壁をつくっていることがあると気付きました。
アルバイトで、「耳が聞こえない」と伝えることに慣れて、以前より「聞こえない」と言うのが得意になりました。自分がろうであることや、「こうすればできる」ときちんと理解し、初対面の人に対しても手話や、自分が聞こえないことを正確に伝えることができるようになりました。
アルバイトなどで主体的に活動することは、社会に出てからの活躍の場を広げることにつながります。
そして、当事者たちが頑張るだけではなく、受け入れる社会の側にも変化が求められます。
「社会の側が変わっていくことはとても必要なこと。ろう・難聴だけでなく、社会には外国の方で日本語が堪能ではない方とか、高齢なので聞こえにくい方とか、いろんな方がいらっしゃる。『日本語の音声だけで全部が伝わるわけではない』という気持ちをみんなが心の片隅に持って、お互いコミュニケーションできる社会がつくれると、聞こえない方も社会に参加しやすくなると思います」(加藤さん)
(中略)
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