024/09/16 12:56
視覚障害者が恐竜の大きさを把握できるよう工夫された展示(いのちのたび博物館で)
芸術の秋。福岡県内の美術館や博物館で、障害の有無や国籍、年齢などにかかわらず誰でも安心して鑑賞できる「ユニバーサル・ミュージアム」を目指す動きが広がっている。(南佳子)
視覚以外の情報で
「土器の内側に溝があるのに気付きましたか? 指を押し当てて作ったことが分かります」。太宰府市の九州国立博物館の特集展示「さわって体験!本物のひみつ」(10月14日まで)で、学芸員の斎部麻矢さんが教えてくれた。
会場には弥生時代の製法を検証し、再現した銅たく、実物の銅鏡など約30点を展示。来館者は銅たくを鳴らしたり、銅鏡を触ったりしていた。福岡市早良区の中学1年生(12)は「凸凹しているとか、もろそうに見えても分厚くて頑丈なんだと触り心地を実感できて面白い」と語った。
この企画は2020年にスタート。見るだけでは分からない質感や音、重さを体感してもらうとともに、視覚障害者や子どもらの観覧の充実にもつなげる狙いだ。説明板は弱視でも見やすい黒地に白の文字を採用し、音声や手話で解説するアプリもある。
斎部さんは「触れた感覚で誰でも新たな発見ができて、歴史への関心度が高まるようだ」と手応えを語る。
東京五輪をきっかけに
視覚障害者でも鑑賞できる展示は、国立民族学博物館(大阪府)の全盲の研究者の提唱が先駆け。21年の東京五輪・パラリンピックで海外からの観光客や障害者らの来日の増加が見込まれたことや、障害者への事業者による合理的な配慮が義務づけられたことなどを機に全国に広まった。
北九州市立いのちのたび博物館は「大きさや形をイメージしたい」といった視覚障害者の要望を受けて、ティラノサウルスや世界最大級の草食恐竜ディプロドクスと人間の縮小版模型を触って比べられるようにした。また、外国人にも伝わりやすいよう、簡易な表現やルビを振った「やさしい日本語」で見どころ9か所を紹介している。
館内ツアーの開催も
県内の美術館でも取り組みが進む。福岡市美術館は毎年、視覚障害者や聴覚障害者、車いす利用者向けに「バリアフリーギャラリーツアー」をしており、今年は11、12月に開く。例年4、5人で1グループをつくり、健常者が展示の絵画作品に何が描かれているかや印象を説明し、視覚障害者の質問に答えて鑑賞を深めてもらう。彫刻作品には互いに触れて、感想を話し合う。
案内するのは、障害者の美術鑑賞を後押しする市民団体「ギャラリーコンパ」(福岡、古賀市)。メンバーの一人、松尾さちさん(61)は「視覚障害者が、健常者と同じように美術館や博物館に足を運べるようになれば、健康で幸福な生活につながるのでは」と話す。
同館ではこのほか、ベビーカーの乳幼児とその保護者向けのツアーも実施する。
布を組み合わせて体全体で気配を感じ取るインスタレーション(直方谷尾美術館で)
直方市の直方谷尾美術館は16日まで、巡回展「さわる!“触”の大博覧会」を開催中。ゴッホの「ヒマワリ」を陶器の板で複製したものや天井からつり下げた1700枚を超える布に触れるインスタレーション(空間芸術)、地元で採掘された石炭などの展示約700点全て触ることができる。担当学芸員の市川靖子さん(37)は「今回の展覧会の経験を生かし、今後も誰でも安心して鑑賞に集中できる環境を提供し、来館のハードルを低くしたい」としている。
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