東京デフリンピックまで1年

東京デフリンピックまで1年

2024/11/15 05:00
デフリンピック

 聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」東京大会の開幕まで15日であと1年となった。日本初開催の大会に向け各競技では強化が急ピッチで進む。このうち、昨年の世界選手権で銀メダルを獲得し東京大会では世界一を狙うのがサッカー男子。主将のGK松元卓巳(あいおいニッセイ同和損保)に意気込みを聞いた。(荒井秀一、畔川吉永)

東京デフリンピックまで1年、頂点目指し準備本格化…デフサッカー男子代表


ホームで「金」夢に挑戦…サッカー男子主将・GK 松元卓巳 35(あいおいニッセイ同和損保)

銀メダルを掛け、意気込みを語る松元卓巳=田中勝美撮影
銀メダルを掛け、意気込みを語る松元卓巳=田中勝美撮影

「難聴、ろう者存在広めたい」

 ――東京大会が1年後に迫っている。

 「準備期間はあっという間に過ぎると思う。一日一日を大事にしないといけない、ということはヒシヒシと感じる」

 ――高校2年生の時にデフサッカーと出会った。

 「(鹿児島実高サッカー部の)ジャージーを着て寮の近くのスーパーに買い物に行った。そのとき、たまたま日本ろう者サッカー協会(JDFA)の当時の役員の方が僕を見ていて、『サッカー部に補聴器をつけている人がいるよ』ってなった。学校に問い合わせが来て話が進んだ」

 ――参加した当時は。

 「レベルが低いと思った。練習に行ってみたら、地面がボコボコして雑草が生えたような感じのグラウンドでやることもあった。大学1年までは、ずっとやめたいなと思っていた」

サッカー男子の近年のデフリンピック成績

 ――覚悟を決めた理由は。

 「当時の(デフ日本代表)監督から『君は将来、デフサッカーを引っ張る存在になると思う。そういう選手になってほしい』と言われた。それがすごく心に刺さった。そこから真剣に手話を覚えようとも思った」

 ――2022年に日本でのデフリンピック開催が決まった。

 「現役のときに日本でデフリンピックができたらいいなという気持ちは持っていた。決まったときはこの大会で必ず世界一を成し遂げたいという思いが強く芽生えた。これを機に難聴やろう者、デフリンピックの存在を日本に広めることにもつなげたいと思った」

昨年の世界選手権で銀メダルを獲得した日本男子代表=(c)JDFA
昨年の世界選手権で銀メダルを獲得した日本男子代表=(c)JDFA

 ――23年の世界選手権で2位と日本は躍進した。

 「きっかけの一つは現地での決起集会。一人一人に決意表明をしてもらい、(チームとして)ベスト4という目標を掲げた。東京大会2年前で世界一を狙える位置にいないといけない。無謀な設定だったけど、決意表明でチームのベクトルをそこに向けられた」

 ――東京大会の目標は。

 「世界一をとること、それしかない。去年2位だったことも、日本というホームで世界一を取れという意味なのかなと自分ではとらえている。日本で僕たちを支えてくれる人たちと一緒にメダルを取ることが大きな目標になる」


  まつもと・たくみ  福岡県出身。先天性両混合性難聴。小3でサッカーを始め、日本代表として活躍した川口能活に憧れてGKになる。日本代表としてデフリンピックに2009年の台北大会から3大会連続出場。主将として臨んだ昨秋の世界選手権(クアラルンプール)でチームを準優勝に導き、優秀GK賞を獲得した。1メートル74、75キロ。


ハンドや射撃 選手「発掘」

6月に行われた射撃のトライアウト。デフリンピックに向け選手の発掘や強化が進んでいる=東京都提供
6月に行われた射撃のトライアウト。デフリンピックに向け選手の発掘や強化が進んでいる=東京都提供

 多くの競技で選手の発掘や強化が行われている。

 東京都は6月、ハンドボール、射撃、テコンドー、レスリングの4競技を対象に新しい選手を発掘するトライアウトを2回実施した。これらの競技はいずれも国内の統括団体がなく、体制が整っていないなどの理由でこれまで本大会に出場できていない。トライアウトは「大会を盛り上げるため、日本選手をできる限り全ての競技に出場させたい」(都生活文化スポーツ局)との狙いで企画された。

 トライアウトには北海道などから合わせて約40人が参加。約20人が「合格」し、現在それぞれの競技に分かれて選手強化が進められている。都は4競技が都内で実施する合宿などの事業費や、東京にゆかりのある選手の競技活動費も助成している。

 ハンドボールは昨年末、日本ハンドボール協会内に「デフハンドボール専門委員会」を設置。東京の社会人リーグに所属する「デフハンドボールクラブ」に、今回のトライアウトで発掘した選手を加え、今夏からは本格的に日本代表候補の活動も始まっている。専門委の中村有紀委員長は「高校総体出場経験者ら能力の高い選手が集まった」と効果を実感している。


NTC利用で強化促進も

 今回のデフリンピックに向け、五輪選手らの強化拠点「味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)」(東京都)の利用も3月に始まった。2017年以来、2大会ぶりにデフリンピック金メダルを狙うバレーボール女子代表は春以降、ほぼ月1回のペースでNTCで練習。これまで民間のコートなどを借りていたが、時間的制約も多く、宿泊施設の確保や食事の手配にも手間がかかっていた。NTCには宿泊棟と栄養が考えられた食堂も併設されているため、プラス面は大きい。

 チームは6月に沖縄で行われた世界選手権で優勝した。狩野美雪監督(08年北京五輪女子バレーボール日本代表)は「強化の面でいろいろなことがスムーズに運べる」と話している。

デフ競技のさまざまな工夫


パラより長い歴史…合図や判定 目で分かる工夫

 聴覚障害者のスポーツの祭典であるデフリンピックは1924年にパリで初めて開催され、60年にスタートしたパラリンピックより歴史が古い。

 夏季・冬季大会がそれぞれ原則4年に1度行われ、来年の夏季東京大会が100周年の節目の大会となる。日本は65年の夏季ワシントン大会に初めて参加。新型コロナウイルスの影響で延期開催となった前回2022年の夏季ブラジル大会では、現地でコロナが 蔓延まんえん し途中で日本は出場辞退したが、競泳や陸上、空手などで史上最多30個(金12、銀8、銅10)のメダルを獲得した。

 東京大会は11月15~26日、東京、福島、静岡の1都2県の17会場で21競技を実施し、70~80の国・地域の選手約3000人の出場が見込まれる。五輪・パラと共通する競技が多いが、地図やコンパスを駆使して山野のチェックポイントを通過し、その速さを競うオリエンテーリングやボウリングも行われる。計画案によると、運営費や宿泊費などの経費は約130億円。収入は企業の協賛金や寄付のほか、国にも支援を要望する。観戦チケットの情報はまだ明らかになっていない。

 「デフ(deaf)」は英語で「耳が聞こえない」を意味する。補聴器などを外した状態で聴力損失が55デシベル以上などが参加資格となっており、競技会場では補聴器などをつけることは禁止されている。ルールは基本的には五輪競技などとほぼ同じだが、陸上や水泳などでは音の代わりにランプを光らせてスタートなどの合図を送る。サッカーでは主審が旗を使って選手に反則などを伝えるという独自の工夫がある。


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