障害者雇用率4月引き上げ 問われる健常者との賃金格差

障害者雇用率4月引き上げ 問われる健常者との賃金格差

障害者法定雇用率が2024年度から段階的に引き上げられ、現在の2.3%から26年度に2.7%になる。それを前に、企業が対応に追われている。ダイバーシティー&インクルージョン(D&I、多様性と包摂性)の取り組みや社会意識の変化を受け、企業で雇用される障害者の数は23年6月1日時点で、64万2178人と対前年で4.6%増加した(厚生労働省調べ)。常時雇用する従業員に占める割合(実雇用率)は2.33%。いずれも過去最高を更新している。

数としては増加している障害者雇用だが、昨今の課題となっているのが、障害者の所得水準だ。5年に1度公表される厚労省の障害者雇用実態調査によれば、身体障害者の平均賃金は月21万5000円、フルタイム労働でも月24万8000円(いずれも18年度)。18年の全労働者の平均賃金月30万6200円とは、大きな差がある。

同一労働同一賃金の考え方は、障害者雇用にも当然適用される。障害があるという理由で賃金差別することは許されない。では、なぜ賃金水準にこれほどの開きが出てしまうのだろうか。

理由の一つとして挙げられるのが、非正規雇用の労働者が多いことだ。合理的配慮のしやすい身体障害者でも正社員比率は約50%。精神障害者や発達障害者になると、その割合は20%台まで下がる。

障害を持つ人たちの中には、体調が日によって変わることがある。体調が安定しないため休みがちになるのではといった懸念から、正規雇用に踏み切れない事業者が多い問題が背景にある。

障害者に与える仕事内容を制限してしまう問題も関係している。「清掃や書類整理といった単純作業が中心の企業も少なくない。これでは障害者のスキルアップにつながらず賃上げも難しい」。パーソルグループの、障害者雇用に特別の配慮をする特例子会社、パーソルダイバース(東京・港)の大浜徹ゼネラルマネジャーは話す。

昇給を1000円単位に区切る
障害者雇用の量のみならず質を意識した環境整備に取り組まなければ、健常者との賃金ギャップは解消しないだろう。

配慮にかかる費用はコストと捉えられがちだが、障害者雇用の促進を人材の付加価値向上とセットで進めるのは、共生社会を推進するために必要不可欠な視点である。

企業の間でも、少しずつではあるが取り組みが始まっている。

正社員登用を積極的に進めようとしているのは、日揮ホールディングス(HD)傘下のIT(情報技術)関連業務を請け負う特例子会社、日揮パラレルテクノロジーズ(横浜市)だ。社員29人中、27人が精神障害者保健福祉手帳を持つ。

同社は最初の3年は有期雇用だが、心身共に安定した勤務で成果を出せれば、無期雇用の正社員に転換するようにしている。

同社の成川潤社長は、「従業員目線では最初から正社員で雇うのが望ましい。安定して働けるかどうかをじっくり見極めながら進めている」と、障害者の正社員雇用に対する思いを語る。

昇給の仕組みを工夫している会社もある。ソフトウエアのテスト業務を行うSHIFT(シフト、東京・港)には、障害者雇用枠で働く140人の社員がいるが、賃金体系や人事評価は健常者と同じだ。

ただ、障害者は技術習得や仕事を覚えるのに時間がかかるケースもあることから、昇給幅を健常者よりも細かく1000円単位で区切り、成長を実感しやすくした。健常者よりも昇給スピードが遅くなっても、これなら着実な成長実感が得られるため、障害者の意欲向上にもつながっている。

もともとSHIFTもご多分に漏れず、単純作業の多くを障害者雇用枠で働く社員に割り当てていた。だがこれでは彼らのモチベーションが保てないと気づいたという。「他の社員に活躍してもらうのと同じ方針が障害者雇用枠の方にも当然当てはまる」。人事総務統括部の棚田純大氏は話す。

現在、障害者は本業のテスト業務に加え、動画の撮影編集や社内向けのデザイン業務など、多岐にわたる仕事をこなしている。かつて40%だった障害者雇用の定着率も、今では85%を超えた。

もっとも、SHIFTの障害者雇用枠で働く社員の中には、他の社員と比べて年収が落ちる人が少なくない。棚田氏は「就労環境や業務内容の改善余地はまだ大きいだけに、もっと年収を引き上げたい」と意気込む。

(日経ビジネス 杉山翔吾)

[日経ビジネス電子版 2024年2月14日の記事を再構成]

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