聴力は回復することが難しいとWHOも警鐘! 気づかず進行するイヤホン難聴に注意
「人生をサポートする」ツールへと変化している補聴器の最前線
通学や通勤など、イヤホンやヘッドホンを使う機会が以前より増えたという人も多いのではないだろうか。WHOの発表もあったが、イヤホン難聴は他人事ではなくなっている。
2024.9.8
「世界で10億人以上の人々が、大音量の音楽やゲーム音に長時間、過度にさらされることにより、聴力を失う危険性がある」とWHOから発表されるなど、イヤホン難聴は他人事ではなくなっている。ワイヤレスイヤホンが主流となりつつある昨今だが、通学や通勤など、さまざまな場面でイヤホンやヘッドホンを使う機会が増えたのではないだろうか。
ニュースクランチでは、イヤホン難聴の原因や予防策について取材を敢行。東京医科大学病院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の白井杏湖医師と、デンマークに本社を構え、日本を含め100か国以上で補聴器を販売している「GNヒアリングジャパン」に話を聞いた。
イヤホン難聴が増加している現代社会
WHOによる発表があったものの、病気や健康などの話題でも、視覚に比べて聴覚について語られることは少ないのが現状。まずは、イヤホン難聴について、白井氏に話を聞いた。
「イヤホンの使用により、意識しないうちに長時間、大きな音を聞く習慣があると、耳に負担がかかり、難聴が引き起こされてしまいます。一度聞こえにくくなると聴力は回復しないので、原因を理解したうえで、皆さんにしっかり予防してほしいです。
国立病院機構東京医療センターでおこなわれた調査によると、日本人の40代以下の世代で、10年前に比べて4000Hzの音が聞こえにくくなっているという結果が示されました。4000Hzというのは、一般的に携帯電話のアラーム音や鳥の鳴き声の高さ。大きな騒音にさらされると、最もダメージを受けやすい周波数とされています。
一般的な会話の声は、高低が混ざった複合音であり、500~3000zほどの高さの音が中心になっていると言われています。4000Hz以上の高音が聞こえなくなると、『シ』『ス』といった高くて弱い子音が聞き取りにくくなり、聞き間違いが増えることも。耳のダメージが進むと、聞き取りへの影響は徐々に拡大していきます」
▲イヤホン難聴が増加している現代社会
イヤホン難聴の原因は、音を感知する器官への負担だ。
「大音量で長時間、音を聞くことで、音を感知する役割をもつ内耳(蝸牛)にある有毛細胞が障害を受けます。それにより音を感知することができなくなり、難聴が引き起こされます。有毛細胞は、一度完全に壊れてしまうと再生しないため、聴力は回復しません」
有毛細胞を守り、難聴を防ぐためには「音の大きさ」と「曝露時間(音にさらされる時間)」に注意する必要がある。
「WHOの基準では、80dBA(街頭騒音や電車内の音の大きさ程度)の音を1週間当たり40時間(子どもは75dBAで1週間当たり40時間)以上、聞き続けると、難聴になる危険が高まるとされています。また、爆発音(130dBA)のような痛みを伴うくらいの大きな音を聞くと、一瞬で難聴が生じることもあります。
ただし、これはあくまで指標です。実際には、イヤホン以外にも音にさらされていますよね。どの程度の音量で、どれくらいの時間、音を聞いているかは人それぞれですので、基準を過信しすぎないでください」
具体的な予防策についても知っておきたい。
「イヤホン使用の際、音量を上げすぎないようにすることはもちろんですが、ノイズキャンセリング機能を活用することも一つの方法です。例えば、電車のなかでも聞こえるような音量に設定すると、電車内の騒音(80~85dBA)より大きくなっている場合があります。
つまり、本人としては大きな音のつもりではないのに、気づかず大音量で聞いているということ。ノイズキャンセリングを使用して騒音を遮断することで、必要以上に大きな音を聞かないようにすることができます」
長時間利用をした際には、耳を「休ませる」ことも有効だ。
「1時間イヤホンで音を聞いたら10分休むなど、有毛細胞が完全に障害されてしまう前に休ませることで、回復を促し、過度な負担を避けられます。また、一度、静かな環境になることで、耳鳴りなどの自覚症状に気づいて、それ以上の曝露を避けることも可能になります」
“聞こえの違和感”に敏感になってください
イヤホン難聴は、日々の騒音曝露の習慣により少しずつ生じていくため、自覚症状がないまま進行してしまい、聞こえないと気づいたときには手遅れになっていることが多い。そのため、早くから“聞こえの違和感”に敏感になる必要がある。
「初めは高い音のみが徐々に聞こえなくなるので、音が聞こえない、という症状は感じにくい場合も少なくありません。耳鳴り、騒がしい場所で声が聞きにくい、後ろから話しかけられた際に聞き取れない、聞き間違えが増える、なども難聴の兆候の一つ。ちょっとしたことだと思っても、違和感があったらなるべく早く耳鼻科を受診し、検査してください。
イヤホン難聴のように慢性的な有毛細胞の障害により起こる難聴は、一度なってしまうと回復が難しいですが、進行を遅らせることはできます。一方で、突発性難聴のように原因がわからず、ある日、急に片耳が聞こえなくなったような場合には、急性期であれば治療できる可能性があります。
外耳・中耳に原因がある場合には、手術による治療法もあります。『イヤホン難聴』と自分で決めつけることはせず、まずは病院で診察と正確な検査を受けましょう」
さまざまな団体が提供している「聞こえのチェック」なども指標の一つだ。また、スマートフォンのヘルスケアアプリには、自分がどの程度の音量・時間で音を聞いているかを知らせてくれる機能もある 。予防に加えて、「聞こえの違和感」をいち早く察知できるよう、心がけたい。
予防をしていても、聞こえにくくなってしまうことはある。自分に限らず、友人や家族が難聴になったときには、どう接したらいいのだろうか。
「まず、話しかける際には正面から、口元や表情がわかりやすいようにしてください。また、声を大きくすれば届くと思われがちなのですが、声のボリュームよりも話し方が重要。“ゆっくり、はっきり”と話しかけることが大切です。
通勤時や仕事で多くの人がイヤホンやヘッドホンを日常的に使っていますが、イヤホンの使用が直接的な難聴の原因になっているわけではありません。テレビなど、イヤホンを使用せず直接聞けばいいかというと、そうではない。同じように大きな音に長時間さらされれば、難聴につながります。また、イヤホンも適切に使用すれば難聴になる危険性は避けられます。
大音量を避けるために、静かな場所に移動する、ノイズキャンセリング機能を使うなどして聞きやすい環境を整え、大きすぎない音量で聞くこと。長期間の使用による負担を避けるため、耳の休憩時間をとること。イヤホン難聴は徐々に進行して気づきにくいので、自分は大丈夫と思わずに予防策を実践してください」
▲取材に対応してくれた東京医科大学病院の白井杏湖医師
補聴器が必要だと感じたら耳鼻咽喉科へ
「なんだか音が聞こえにくいな」「久しぶりに実家に帰ったら、会話の声やテレビの音が大きいな」。自分や家族に補聴器が必要かも……。そう感じたら、補聴器の購入の前に耳鼻咽喉科の受診へ行きましょう。そう教えてくれたのは、「GNヒアリングジャパン」の広報担当者だ。
「補聴器販売店に行く前に、まずは聴力と耳の状態の検査をする必要があります。補聴器は、聞こえにくい音の高さや大きさを調節して耳に届けることで、聞き取りをサポートするもの。
補聴器を耳に合わせて調整するためにも、どの音がどの程度聞こえているのか(どの音が聞こえにくいのか)を正確に把握する必要があります。検査をして、補聴器が必要だと判断されたあと、補聴器販売店で購入できます」
補聴器1台(片耳)の相場は、約10万~30万円程度。補聴器購入者の50%以上は、この価格帯の補聴器を購入しているとのこと。一方で、周波数ごとに細かな設定ができ、イヤホン機能などが搭載された高性能モデルは1台50万円以上するものもある。高価な買い物だが、聴覚障がいで身体障がい者手帳を持っている場合には、難聴の程度に応じて補聴器購入の助成を受けることができる。そうでない場合でも、所定の手続きを踏めば医療費控除を受けることができる。
「まずは耳鼻咽喉科で補聴器相談医に受診し、検査を受けてください。そのうえで補聴器が必要だと判断されたら、『補聴器適合に関する診療情報提供書』が発行されます。情報提供書を持参し、紹介された認認定補聴器専門店で認定補聴器技能者から購入してください。
補聴器購入費は健康保険の対象になりませんが、この流れで受診・購入すると医療費控除を受けることができます。また、それぞれの自治体で支援がある場合もあります。お住いの地域の制度についても調べてみてください」
▲補聴器を購入する前にまずは耳鼻咽喉科で検査
補聴器相談医がいる病院は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のHPで、認定補聴器技能者がいる認定補聴器専門店は、公益財団法人テクノエイド協会のHPなどで確認ができる。
日本では「目立たない補聴器」が人気
補聴器には、大きく分けて耳かけ型、外耳道内レシーバ耳かけ型、耳あな型の3種類の形状がある。何を基準に選べばいいのだろうか。
「難聴の程度と、装用したときの見た目、取扱いのしやすさなどを基準に選ぶとよいと思います。補聴器は、周囲の音を増幅させて耳に届ける役割を持っており、多くの場合は本体の大きさと音の出力パワーが比例します。そのため、重度の難聴の方には、ある程度の大きさがあり、パワーの強さが特徴の耳かけ型をおすすめしています。
中~軽度の難聴の方、装用時の見た目を気にされる方は、本体が小さい外耳道内レシーバ耳かけ型か、耳あな型がおすすめです。
外耳道内レシーバ耳かけ型は、本体が耳の後ろに隠れる程度の大きさで、前から見えるのは音声を耳の中に届ける細いチューブのみ。小型耳あな型は耳あなの中にすっぽり収まります。どちらのタイプも補聴器が目立ちにくいです。
一方で、イヤホンを使用しているときと同じように、耳あな型を装着していると圧迫感を感じることがあります。そのため、使用時間が長い方は外耳道内レシーバ耳かけ型を好まれることも多いです。
コロナ禍には、マスクへの影響が少ない耳あな型の人気が急激に高まりましたが、状況が落ち着いた今、世界的に外耳道内レシーバ耳かけ型の人気が高いです。軽さを含め装用時の快適性が高く、目立ちにくいことが要因にあると考えられます」
補聴器を選ぶ際、「装用時の見た目」を重視する人が多いようだ。
「じつは、日本で補聴器の関連ワードとして最も検索されているのが“目立たない”なんです。小型で目立ちにくいタイプが人気ですね。
補聴器の大きさと出力は比例するのですが、近年では小型でも音の出力などの機能性を落とさない補聴器の開発が進んでいます。補聴器に抵抗を感じていらっしゃる方にも、小型で高機能な補聴器なら満足していただけるのではないしょうか」
▲補聴器を購入する前にまずは耳鼻咽喉科で検査
最新の補聴器は、聞こえを助ける役割を担うだけではない。驚くべき進化をしている。
「補聴器をした上からヘッドホンを装着するとハウリングしてしまうため、補聴器装用者の方からイヤホンなどと同じように音楽・映画やテレビのサウンドを直接聴きたいという声があり、Bluetoothで携帯と接続して音を聴くことができる補聴器が開発されています。
例えば、弊社GNリサウンドの補聴器の最新モデルには、補聴器として世界で初めて「Auracast™ブロードキャストオーディオ」(発信された音声を、複数の機器で一斉に受信できる、新しいBluetooth機能)を搭載しています。公共施設や映画館、美術館などへのAuracast™の導入が進めば、音声情報を直接、補聴器から聴くことができるようになります」
難聴者の多くがストレスを感じている、“雑音のなかでの会話”をサポートする機能の開発も進んでいる。
「周囲の環境を分析し、雑音を抑制したり、音量を自動調整するモデルも登場しています。また、マイクの指向性を変えることで、音を発した方向や距離感をつかみやすくする機能もあります。会話がスムーズに楽しめると、ストレスがたまらず快適に過ごせるようになると思います。
従来は電池交換が必要な電池式の補聴器でしたが、最近では充電式のモデルも多くみられます。また、スマートフォンのGPS機能と連携して補聴器をなくした場合に捜すことができるものなど、どんどん便利になっていますから、生活スタイルに応じて必要な機能が搭載されているものを選んでください」
(取材:三郎丸 彩華)
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