聞こえの基礎知識【未就学児編】(0~5歳)
お子さんの聞こえに不安を抱えていませんか?
このページは、未就学のお子さんの聞こえに関して正しい情報を探している方向けのページです。
「どこに相談したらいいか分からない」、「情報が多すぎて、どれが正しい情報か分からない」、「どうやって支援を受けていけばよいのか」など悩まれている保護者の方々が、少しでも不安や悩みが軽減し、正しい情報を得て、前向きにお子さんに寄り添えるよう、さまざまな情報をお届けしています。
少しお時間をいただきこのページを読んでいただくことで、みなさんが持っている疑問や不安を解消できたらとても嬉しいです。
【もくじ】
お子さんに難聴があることが分かった時、驚きと不安で一杯になったかと思います。
聞こえないこともお子さんの特徴の一つと捉えてあげてください。
その上で、お子さんの難聴の種類、難聴の程度を把握し、それに対処していくにはどの様な選択肢があるのか、それぞれの対処の長所・短所をしっかりと理解することが必要です。
生まれつき聞こえにくいお子さんは新生児の1,000人に1~2人と言われています。
また、生まれつきだけではなく、成長の過程で聞こえにくくなるお子さんもいらっしゃり、いずれの場合でも、聞こえはお子さんの成長と将来に大きく関わるため、できる限り早い発見と対応が必要となります。
先天性難聴
生まれつき難聴を持っている状態を先天性難聴といいます。
主な原因として遺伝子の異常と言われていますが、親や親族に難聴の方がいるとは限らず、難聴のお子さんを持つ両親の約9割が聞こえに問題はありません。
また、妊娠中にかかった疾患が原因になる場合も多く、風しんやサイトメガロウィルス感染症、トキソプラズマ症などが主な原因として知られています。
後天性難聴
生まれた後から聞こえが悪くなる難聴を後天性難聴と言います。
原因としては髄膜炎、ムンプス(おたふくかぜ)、滲出(しんしゅつ)性中耳炎などがあり、中耳炎は3歳までに7割のお子さんがかかるといわれており、中耳炎が悪化することにより聞こえにくくなり、言葉の習得に影響がでることもあります。
難聴の種類
難聴はどの部分に問題があるかによって大きく分けて4つの種類があります。
伝音声難聴
耳の穴(外耳)から鼓膜の奥(内耳)のどこかに問題があり音が伝わりにくくなる難聴です。
耳垢が詰まっていたり、鼓膜に傷がついていたり、中耳炎により中耳に水や膿が溜まることで聞こえに影響を与えることもあります。
また、先天的に中耳にある耳小骨の奇形が原因となることもあります。
伝音声難聴は一時的な症状のことが多く、薬や外科的な治療で聞こえにくさが解決することが多くあります。
外科的な治療で完治しなかった場合も、音を大きく伝える補佐をしてくれる器械(補聴器)を使うことで聞こえにくさが解決されやすくなります。
感音性難聴
中耳の奥にある内耳と呼ばれる部分に問題があり聞こえにくくなる難聴です。
遺伝子の異常や妊娠中の感染による難聴が感音性難聴です。
感音性難聴は聞こえにくい音が一人ひとり異なるため、単純に音を大きくするだけでは聞き取りが難しく、補聴器や人工内耳を使う際にも様々な工夫が必要となります。
混合性難聴
感音性難聴と伝音性難聴の両方の症状が見られる難聴です。
心因性難聴
音を感じる内耳や脳の聴覚野に問題がなく、心理的な要因から引き起こされる難聴で、学童期に多く見られる傾向があります。
心因性難聴は、心理的な要因が関与しているため、原因と考えられる心理的ストレスを取り除くことが重要です。
一側性難聴について
片方の耳が極端に聞こえにくい難聴を一側性難聴と言います。
1,000人に1人という比較的高い頻度で起こると言われていますが、もう一方の耳は正常に聞こえるため、子どもの一側性難聴は気づきにくく、就学時健診などで見つかるケースも珍しくありません。
一側性難聴は以下のような特徴があります。
- 難聴がある側から声をかけられると気が付かない/聞こえない
- どこから声をかけられたかわからない
- 騒がしい場所では話が聞き取りにくい
- 騒音下での複数人との会話では、とても疲れる
- 聞こえの問題だけでなく、対人関係の中から生じる心理的問題を抱える可能性がある
一側性難聴のお子さんに対しては、先生やお友達の配慮や協力を得ることも大切です。
- 教室での座席を聞こえる側を意識した位置にする
- できるだけ聞こえる側から話しかける
- 騒音下での聞こえをサポートする補聴援助システムを活用する
- 危険回避のため道を歩くときは聞こえる側の耳が車道に向くようにする
聞こえているけど聞き取れない
聴力は正常にもかかわらず、日常生活のさまざまな場面で聞き取りにくさが生じる子どもたちがいます。
- 聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorder=APD)
- アスペルガー症候群
- 自閉症スペクトラム
音を収集/感知する外耳、中耳、内耳、末梢の聴神経の機能には問題が無いのですが、聴覚情報を処理する「脳」の中枢神経に何らかの問題があり難聴に似た症状がでる状態とされています。
音は聞こえているのに、その内容を理解できない、または、理解に時間がかかる状態で、難聴のある子どもたちと同じような困難があります。
- 騒がしい場所では話が聞き取りにくい
- 騒音下での複数人との会話では、とても疲れる
- 聴覚的注意の欠如
- 聴覚的な記憶力が弱く、聴覚経由での学習が困難
この様なお子さんには難聴のあるお子さんと同様、聞こえの配慮が必要とされています。
- 指示を出すときは一度に多くのことを伝えず指示を単純化する
- 口頭の指示だけでなく、視覚的な情報もえられるようプリントも用意する
- 騒音下での聞こえをサポートする補聴援助システムを活用する
難聴の程度
難聴の程度はどの位の大きさの音が聞こえるかを検査して得られる平均聴力と呼ばれる耳の聞こえの状態の数値により4つに分けられます。
軽度難聴(25~39 dB)
小さな声や騒がしい場所での会話の聞き取りが難しい、聞き間違いやすい聞こえのレベルです。
声は聞こえても、言葉としては分かりにくいため、大人であれば、聞こえにくい部分を既に身につけている言語力で聞こえを補い言葉を理解することができますが、言葉を学習している途中の子どもにとっては、補って理解することが困難になることがでてくるため早期に発見し、適切な配慮をすることが必要です。
また、軽度難聴は周りから気づきにくく、お子さんから聞こえないとは言わないので、大人側が注意してみてあげることが必要です。
中等度難聴(40~69 dB)
通常、人の会話の音の大きさが 60dB 前後といわれています。
その会話の音が近い距離にいても聞き取りにくいレベルです。中等度難聴は、騒がしい場所での会話が難しく、グループでの会話が難しくなるため、きこえにくいことにより、自分に自信を持つことができず、円滑な対人関係がとりにくくなり、これに起因し、社会性の発達の遅れにつながることも危惧されます。聴覚の補償や特別な配慮が必要になります。
高度難聴(70~89 dB)
普段の会話の大きさでは聞き取ることが難しくなるレベルです。
かなり大きな音、例えば救急車のサイレンの音の大きさくらいの音を、30 cmくらいの近い距離で出す必要が出てきます。
聴覚の補償や特別な配慮が必須になります。
重度難聴(90 dB以上)
基本的に、かなり大きな音、たとえば電車が通るときのガード下の音くらいの音がしている、ということを感じとることが出来る状態です。
聴覚による補償に加え、視覚的な情報支援や特別な配慮が必須になります。
言語獲得
お子さんが成人して親元を離れるまでに大きな目標が2つあります。
最初の一つは『言語獲得』であり、最終目標は『自立』です。
人は言語を獲得して他の人とコミュニケーションをとります。
人の発達にはコミュニケーションは不可欠であり、言語を獲得するためには音声による聴覚情報が大切になります。
難聴の早期発見の意義
難聴は早期発見がとても大切と言われており、聴力を補うこと、また聴覚訓練(療育)を早期に開始するほど、言語能力の発達が得られ、言葉を十分に獲得し、スムーズにコミュニケーションできるようになる可能性が高まります。
赤ちゃんの出生直後に行われる聞こえの簡易検査(新生児聴覚スクリーング検査)により、中等度以上の難聴の有無を確認することができます。
欧米ではこの検査の実施を義務づけている国もありますが、日本国内では新生児聴覚スクリーニングの実施はまだ十分ではないため、もし出生直後に受けられなかった場合には、1カ月検診時に相談するように心がけてください。
乳幼児期に十分な聴覚情報が入らないまま成長すると、その後に聴力を補っても、音声言語の認知や表出が極めて困難になることがわかっています。
また、母国語の基礎は4~5歳で形成されてしまうと言われており、言語獲得には時間的な制限があると言われています。
また生まれつき聞こえにくいお子さんは、聞こえにくいことが日常なので「聞こえない」とは言いません。呼びかけても気が付かないことがあるなど、気になる兆候があれば、まずは耳鼻科などの専門家に相談するようにしてください。
難聴の対処方法
外科的手術を要するもの
鼓室形成術
中耳炎など薬や外来治療では治しきれない中耳の病変や耳小骨に異常がある場合に行う手術です。感染を抑え、再発を防ぎ、音の伝わりを改善します。
病状に応じて鼓膜を形成したり、耳小骨の繋がりを再建したりすることもあります。
機器を使用するために外科的手術を要するもの
骨固定型補聴器(伝音声難聴)
手術で頭蓋骨にインプラントを埋め込み、体外装置をインプラントに装着して使用します。
インプラントで集音した音を振動で頭蓋骨に伝え、頭がい骨内にある内耳に直接音を伝達する機器です。
国内ではCochlear™ Baha®システム(株式会社日本コクレア)があります。
人工中耳(伝音声難聴)
中耳内にある耳小骨または、内耳の入り口に音を伝える振動子を埋め込み、それを制御する機器を頭部の皮下に埋め込みます。
音を拾うマイクロホンが内蔵された体外装置を、頭部皮下に埋め込んだ装置の上に磁石を用いて装着することで耳小骨または正円窓膜から音を内耳に伝達する機器です。
国内ではメドエル人工中耳VSB(メドエルジャパン株式会社)があります。
人工内耳(感音性難聴)
手術で電気刺激を発する電極を内耳に埋め込み、これを制御する装置を頭部の皮下に埋め込みます。
音を拾うマイクロホンが内蔵された体外装置を、頭部皮下に埋め込んだ装置の上に磁石を用いて装着することで音を電気刺激に変換し、聞こえの神経に直接伝達します。
人工中耳といった聴覚補聴機器を用いても十分な言葉の聞き取りが得られない難聴の方や重度の難聴の方が対象となります。
他の機器と異なり電気刺激で聞こえの神経に音を伝えるので、人工内耳からの音に慣れ、聞き取りがよくなるまでに、個人差があり、時間がかかります。
国内ではコクレア(株式会社日本コクレア)、アドバンスト・バイオニクス(株式会社日本バイオニクス)、メドエル(メドエルジャパン株式会社)があります。
外科的手術を要さないもの
補聴器
本体に内蔵されたマイクロホンで拾った音を大きく聞きやすい音にして聞こえを補う医療機器です。
形状は耳に掛ける耳かけ型、耳の穴に入れる耳あな型、携帯ラジオのような形をした箱型、また伝音声難聴用のカチューシャ型、メガネ型がありますが、お子さんが使う補聴器は一般的に耳かけ型がほとんどです。
耳かけ型補聴器を装用する際には、お子さんの耳の形や大きさに合わせたオーダーメイドの耳せん(イヤーモールド)を使います。
国内ではオーティコン(デマント・ジャパン株式会社)、シグニア(シバントス株式会社)、スターキー(スターキージャパン株式会社)、フォナック(ソノヴァ・ジャパン株式会社)、リオネット(リオン株式会社)、リサウンド(GNヒアリングジャパン株式会社)、ワイデックス(ワイデックス株式会社)などがあります。
骨導補聴器(伝音声難聴)
骨の振動から伝わる音を聞き取る骨導聴力を活用した補聴器です。
耳の後ろにある骨に直接振動を伝えて、外耳や中耳を経由せずに直接内耳に音を届けることができます。
カチューシャの形をしたタイプやメガネ一体型タイプがあります。
軟骨伝導補聴器(伝音声難聴)
音を集音する体外装置と振動子で構成される器械で、軟骨を介して音を増幅し、中耳を介して内耳に音を伝えます。
骨導補聴器と異なり皮膚に強く圧着する必要がないため、装用感がよく審美性に優れています。
生まれつき外耳道が形成されていない方や耳漏などの理由により外耳道内に機器を挿入することができない方でも使用できます。
国内ではリオネット(リオン株式会社)があります。
視覚情報を活用するもの
日本手話
手の形、位置、動きをもとに、表情も活用する独自の文法体系をもった音声言語と対等な、見てわかる言葉です。
日本語対応手話
音声言語である日本語に手話単語を一語一語あてはめていく言語です。
語順は日本語と全く同じになります。
口話
話し手の口元や頬の動き、表情などを視覚的にとらえ、さらに文脈なども総合的に判断しながら、話の内容を推測、理解しつつ、表現には音声言語を用いる方法です。
口話に加えて残存聴力を活用して聞き取る一部の音声情報を手がかりにする「聴覚口話」もあります。
上記の様に、難聴の対処方法は様々ですが、どれか一つがあれば十分ということはなく、話す相手や場面によって複数の手段を組み合わせたり使い分けしたりして、コミュニケーションに必要な情報を補う必要があります。
お子さんの聴力と各対処方法をしっかりと理解したうえで、何と何を組み合わせて言語獲得を目指すのかを考えていきます。
子どもは小さな大人ではありません。
音を聞くということは耳から入った音が脳に伝わり、脳がその音を認識するということです。
子どもは毎日、初めて聞く音や言葉と出会い、それを言語として脳が学習していきます。
既に言語を獲得している大人であれば、言葉を少々聞き逃しても前後の文脈や、相手の雰囲気から相手が何を話しているか類推し、聞こえなかった部分を補うことができますが、言葉自体を覚えなければならないお子さんはそうはいきません。
ひとつひとつの言葉をしっかりと耳に入れて脳に伝える事が必要となってきます。
例えば、騒がしい居酒屋で外国語を学ぶ自分の姿をイメージしてみてください。知らない単語を覚えるためには、かなり集中して聞き漏らさないよう必死に聞かなければならないと思います。
補聴器/人工内耳の限界
補聴器や人工内耳には限界があることをご存じでしょうか?
補聴器/人工内耳の限界その①距離
面と向かって話している相手の声はよく聞こえても、話し相手が離れれば、離れるほど、相手の声が小さくなり聞き取りにくくなりますよね。
音は距離によって減衰するため、離れた相手の声を聞くことは補聴器/人工内耳を使っても難しくなります。
一般的に補聴器/人工内耳で十分に言葉を聞き取れる相手との距離は1.5mが限界と言われています。
補聴器/人工内耳の限界②騒音
補聴器/人工内耳はマイクロホンで相手の声を拾いますが、騒がしい場所では騒音も一緒に集音してしまいます。
騒音を抑制し言葉を聞き取りやすくする機能がついている補聴器/人工内耳もありますが、その効果は高価な器種に限られていたり、機能が付いていても騒音の大きさによっては限界があったりします。
補聴器/人工内耳をつけていても、つけていなくても騒がしい環境での言葉の聞き取りは難しいと考えてください。
補聴器/人工内耳の限界③複数人との会話
複数人との会話が難しいと感じたことはありませんか?
補聴器/人工内耳にはマイクロホンに騒音が入るのを防ぎ、話し相手の声をしっかりと集音するために、指向性マイクロホンと言って話し相手の方向の音をより大きく集音する機能がついている機種が多くあります。
話し相手が複数人の場合、この指向性の機能のために顔を向けていない方向の人の声が聞き取りにくくなることがあります。
聞こえは補聴器/人工内耳をつけて改善することが一般的ですが、その人の聴力やその日の体調、また騒がしい場所での聞き取りなど、補聴/人工内耳器だけでは聞きたい声を十分に聞き取ることが難しい場合があります。
補聴器/人工内耳の限界を補う
補聴援助システム
そんな時に補聴器/人工内耳と合わせて使用することで言葉の聞き取りを向上させるのが補聴援助システムです。
補聴援助システムは、補聴器/人工内耳の限界である①距離②騒音③複数人との会話を克服するために開発されたシステムで、補聴器/人工内耳だけの聞こえを大きく改善してくれます。
補聴援助システムにはさまざまなシステムがありますが、特別支援学校や公共の施設などに設置されているヒアリングループや、先生が使うワイヤレスマイクロホンと補聴器/人工内耳に取り付けた受信機の組み合わせで使うFM補聴援助システム/デジタルワイヤレス補聴援助システム(フォナック社のロジャーが有名です)などがあります。
音声文字化アプリ
聴覚情報と合わせて視覚的に情報をとることができるとコミュニケーションが楽になります。
視覚的に情報を入手する手段としては、筆談もありますが、音声を文字化してくれる便利なアプリもあります。
特に実用的で多くの導入事例がある「UDトーク」は、学校での授業はもちろん、リモート授業のシステムを通した声が聞き取りにくいという場合にも、リアルタイムで音声を文字にして表示することができるので、聴覚と視覚の情報を同時に入手でき、聞き取りを大きくサポートしてくれます。
公的支援を活用する
難聴に対する国や自治体の支援を知っておくことも大切です。
医療費控除(国/自治体による支援)
平成30年度から補聴器購入に際し、医療費控除を受けられるようになりました。
<一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会 HPより>
補聴器の装用と活用は、WHOのキャンペーンに「難聴」が取り上げられ、さらには難聴と認知症の関係のエビデンスが蓄積されつつある現在、日耳鼻として推進すべき社会貢献の中でも喫緊の課題の一つです。
超高齢社会を迎え、身体障がい者に限らず広く補聴器を活用することは重要でありますが、補聴器は高額な医療機器であり、装用者、購入者にとって大きな負担となっています。
平成30年度から、「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」の活用により、医療費控除を受けられることが、厚生労働省、財務省によって承認されました。
障害者総合支援法(国/自治体による支援)
障がいのある人や児が基本的人権のある個人としての尊厳にふさわしい日常生活や社会生活を営むことができるよう、必要となる障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援やその他の支援を総合的におこなうことを定めた法律です。
障害者手帳を持つ難聴者/児も対象となり、平成22年12月から発達障害も含まれるようになりました。
障がいのある方が日常生活上において必要な移動や動作等を確保するために、身体の欠損または損なわれた身体機能を補完・代替する用具を補装具と呼び、補聴器やワイヤレスマイクが該当します。
補装具の購入や修理に要した費用(基準額)から、所得に応じた自己負担額を差し引いた額を補装具費として市町村から支給されます。
申請者は原則として補装具の購入または修理に要する必要額の1割を負担します。
(所得に応じて月額負担上限額あり)
<購入基準価格表>(令和4年4月時点)
利用するには、市町村の障害福祉窓口や都道府県が指定する指定相談支援事業者などへの相談が必要となります。
軽度中等度難聴児支援(自治体による支援)
身体障害者手帳の対象とならない軽度難聴、中等度難聴のお子さんを支援する制度です。こちらは国の制度ではなく自治体による支援のため、支援の有無や、支援の内容が自治体ごとに異なります。
障害者総合支援法を基準にして支援内容が決められていることが多く、補聴器やワイヤレスマイクを購入する際の助成があります。
障害者差別解消法
平成25年6月に制定された障害者差別解消法では、国や自治体、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止し、また障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること「合理的配慮」の提供が国や自治体は法的義務、民間企業・事業者は努力義務とされており、第204回通常国会において改正障害者差別解消法が成立し、公布から3年以内に民間企業・事業者も法的義務化されることになりました。
障害者総合支援法や軽度中等度難聴児支援は補聴器やワイヤレスマイクに対する支援はありますが、例えば学校でお友達の発表を聞くためのマイクロホン(マイクロホンから補聴器に音をワイヤレスで飛ばすシステムがあります)や、音声を文字化してタブレット等で情報を支援するシステムなどはその対象になりません。
障害者差別解消法の施行以来、合理的な配慮として認められ、学校や自治体が上記のマイクロホンや視覚情報支援のシステムを導入してくれる事例が出てきました。
療育施設について
お子さんの言語獲得を目指すために療育施設のサポートは欠かせません。
障がいのあるお子さんへの療育支援には、ご自宅から通う「通所」支援と、施設に入居して生活を送りながらさまざまな支援を得る「入所」施設があります。
<障害児通所支援>
児童発達支援センター/児童発達支援事業所(福祉型児童発達支援)
小学校に就学する前の6歳までの障がいのあるお子さんが支援を受けるための施設で、ご自宅から通いながら療育と日常生活の自立のための支援を受けることができます。
児童発達支援センターは地域の中核となる障がい児の専門施設で障がいの種別に関わらず適切な支援を受けられるよう質の確保を担っています。
児童発達支援事業所は通所のしやすさを目的として、さまざまな地域に設置されています。
医療型児童発達支援センター(医療型児童発達支援)
児童発達支援センター/児童発達支援事業所が提供する福祉サービスに加え、治療等を行います。
放課後デイサービス
基本6歳~18歳までの障がいのある子どもや発達に特性のある子どもが放課後や夏休み、長期休暇に利用可能で、生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進などを目的とした多様なプログラムが設けられています。
<障害児入所支援>
福祉型障害児入所施設(福祉型児童発達支援)
家庭での養育が困難なお子さんに、食事、入浴、排せつなどの身体介護や、日常生活を送るうえで必要な技能訓練、知識の習得などの支援を行う施設です。
医療型障害児入所施設(医療型児童発達支援)
福祉型障害児入所施設の機能に加え、治療等を行います。
お住まいの地域の「療育センター」が実際はどの機能を持っているかは、各施設のホームページなどで確認してみてください。
よくある質問
「9歳の壁」とはどういうことでしょうか。
難聴のある子どもの学力が9歳くらいの段階で、抽象的な語彙の習得や抽象的な思考が難しいために、読み書きや学力の面で伸びなやむ状態を意味しています。
小学低学年までは生活中心の学びが多く、直接経験した題材を取り上げて学習しますが、小学3、4年生からは間接経験を主体にした学習言語が増え理解が難しくなります。
学習言語は語の一部の情報が欠落すると内容を推測しにくく、言葉による抽象的な思考の困難は、知的能力や学力に大きく影響を及ぼすと言われています。
生活言語から学習言語へスムーズに移行するために、お子さんの学習言語に触れる機会を増やし、「考える力」を養うことが大切です。
子どもの補聴器と人工内耳を管理するための配慮事項について教えてください。
補聴器や人工内耳体外装置は一般的な機器と同様、湿気や衝撃を避けることが大切です。お子さんが低学年の内は保護者または学校の先生にお願いして機器を管理しますが、学年が上がるにつれお子さん自身で機器を管理できるようにします。
・毎朝、バッテリーチェッカーを使って空気電池の残量(または充電池の残量)の有無を確認する
・予備の空気電池(または充電池)を準備しておく
・空気電池を補聴器/人工内耳に入れるときはプラス/マイナスの向きに気をつける
・試聴チューブ(またはモニタリングイヤホン)を使って実際に補聴器から出てくる音を確認する
・就寝時は補聴器/人工内耳から空気電池を取り出し(または充電池を外し)乾燥機に入れる
・汗をかきやすいお子さんは汗対策として補聴器/人工内耳カバーを活用する
・イヤーモールドを定期的に洗浄する
・定期的に(夏休みなど)補聴器、人工内耳体外装置をメンテナンスに出す
中等度難聴児が補聴器を購入する際に助成金はありますか。
身体障害者手帳の対象とならない軽度難聴、中等度難聴のお子さんを支援する制度がありますが、国の制度ではなく自治体による支援のため、支援の有無や、支援の内容が自治体ごとに異なります。
支援の有無や内容についてはお住いの自治体の福祉課などにお問い合わせください。
<参考>
ロジャーの申請が通りません。どう説得すればよいでしょうか?
お使いの補聴器が重度用耳かけ型補聴器で受信機、オーディオシュー、ワイヤレスマイクを必要とする場合、補聴器と同じように「補装具申請」が可能です。
お使いの補聴器が重度用耳かけ型補聴器以外の場合は、「特例補装具申請」という申請を行います。
補装具でも特例補装具でも『真に必要な理由』が必要とされているので次のような理由を強く訴える必要があります。
・教育上必要(ロジャーがないと授業についていけない)
・グループ活動などは、通常の授業よりも騒がしいため、ロジャーはないと授業についていけない
また、耳鼻咽喉科の先生や地域の特別支援コーディネーターに相談するのもよいかと思います。
<参考>
『『知っておきたい聞こえの豆知識』』
・ロジャーの申請方法【未就学児編】
Tコイルを利用したマイリンクは子ども向きではないと聞きましたがなぜでしょうか?
下記の理由から特に言語獲得期のお子さんにはTコイルを利用する首かけ式の受信機(マイリンクなど)より補聴器/人工内耳に直接接続するユニバーサルタイプの受信機(ロジャー エックスなど)の方が望ましいと言われています。
・補聴器/人工内に内蔵されているTコイルを利用して聞く音は、Tコイルの物理的な特性から低い周波数帯が小さく、逆に高い周波数帯が大きく聞こえる
・特に言語獲得期のお子さんにとっては、補聴器/人工内耳の音と補聴援助システムからの音とが同じ特性であることが望ましいと言われている
・Tコイルは蛍光灯やパソコンのモニターからの電磁波によりノイズが聞こえることがある
幼稚園/保育園でロジャーを使ってもらえません。どう説得すればよいでしょうか?
平成25年6月に制定された「障害者差別解消法」では、国や自治体、会社やお店などの事業者が、障害のある人に対して正当な理由なく、障害を理由として差別することを禁止し、また障害のある人から社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重すぎない範囲で対応すること「合理的配慮」の提供が国や自治体は法的義務、民間企業・事業者は努力義務とされており、第204回通常国会において改正障害者差別解消法が成立し、公布から3年以内に民間企業・事業者も法的義務化されることになりました。
この「障害者差別解消法」のことを説明し、「合理的配慮」を求めるのがよいかと思います。
また、地域の特別支援コーディネーターに相談するのもよいかと思います。
<参考>
『お役立ち資料』
・幼稚園/保育園でロジャーを使ってもらう時の説明資料
補聴援助システムを使用していますが、どのようなことに気をつけるとよいですか。
補聴援助システムは一般的な機器と同様、湿気や衝撃を避けることが大切です。お子さんが低学年の内は保護者または学校の先生にお願いして機器を管理しますが、学年が上がるにつれお子さん自身で機器を管理できるようにします。
・充電が必要な機器は就寝前に充電を行う
・朝一で機器がフル充電されているか確認する
・学校で充電がなくなった時のために、可能であれば予備の充電器を学校に置いておく
・ワイヤレスマイクロホンの電源を入れるときは、お子さんに「マイクのスイッチを入れるよ~」と一声かけてから電源を入れる
・補聴援助システムを使う際にプログラムを変える必要がある補聴器/人工内耳の場合は、プログラムを切り替える
・ワイヤレスマイクロホンからの声が補聴器/人工内耳に届いているか確認するために、ワイヤレスマイクロホンを指で軽くこすり、「カサカサ」音が聞こえているかお子さんに確認する
・ワイヤレスマイクロホンの電源を切るときは、お子さんに「マイクのスイッチを切るよ~」と一声かけてから電源を切る
・ワイヤレスマイクを装着する人は、マイクロホン部分に衣服がこすれて衣擦れ音が発生しない様に気をつける(できるだけカサカサする服装は避ける)
・可能であればお友達の発表の際にワイヤレスマイクを使ってもらう
<参考>
『お役立ち資料』
・学校でのロジャー活用ガイド【ロジャー タッチスクリーン マイク】
・学校でのロジャー活用ガイド【ロジャー オン】
・学校でのロジャー活用ガイド【ロジャー セレクト】
・学校でのロジャー活用ガイド【ロジャー ペン】
ロジャーを使っています。先生の声は聞こえるのですが、クラスメイトの発表の声を聞き取ることができません。何か方法はありますか?
先生の声を聞くのにロジャーのワイヤレスマイクロホンが必要なのと同じように、離れたところにいるクラスメイトの声を聞くにはワイヤレスマイクロホンが必要です。
クラスメイトの発表の際に先生のマイクを一時的に使ってもらう、2台目のマイクロホンを用意するなどの方法が考えられます。
<参考>
『知っておきたい聞こえの豆知識』
・『セルフアドボカシー』って何?
『お役立ち資料』
・ロジャーマイク複数台の使い方【タッチスクリーン&パスアラウンドマイク】
・ロジャーマイク複数台の使い方【オン&セレクト & ペン】
聴力検査では異常がないと言われますが、騒がしいところで相手が何を話しているのかが分かりません。ロジャーを使うと聞こえると聞いたのですが、どの様なしくみですか?
補聴器や人工内耳を使っていない方が使用できるロジャー フォーカスというロジャー受信機があります。
ロジャー フォーカスは耳に掛けて使う小型のイヤホンで、ロジャーのワイヤレスマイクロホンからの音が届く仕組みで離れたところにいる相手の話を聞いたり、騒がしい環境での言葉の聞き取りを助けてくれたりします。
<参考>
聞こえの用語集
【LiD/聞き取り困難】
【APD/聴覚情報処理障害】
『知っておきたい聞こえの豆知識』
・補聴援助システム『ロジャー』とは?