2025.3.21
「人の話を聞き取れない」ことの真の原因は……

いきなりで恐縮ですが、皆さんは以下のようなことで悩んでいないでしょうか?
●電話口で何を言われているのかわからず、何度も話を聞き返してしまう
●うるさい場所では、人の話を聞き取れない
●聞き間違えをしてしまい、笑われたりする
●複数人の会話だとよくわからず、会話に入っていけない
難聴? 気合が足りない? 相手への敬意がない? などなど。原因はいろいろ考えられると思いますが、もし思い当たる人がいたら選択肢の一つに数えていただきたいのが「LiD(Listening Difficulties)=聞き取り困難症」の可能性です。
LiDは音声を言葉として認識するプロセスに問題が起きていることが原因で、聴力自体には問題がないことも多いのだとか。とはいえ、まだ認知度が低く、耳鼻咽喉科でも診断されないことも多いこの症状について、その原因や対処法をわかりやすく説明してくれるのが、耳鼻咽喉科医・阪本浩一氏の著書『聞いてるつもりなのに 「話聞いてた?」と言われたら読む本』です。
本書にはLiDの可能性を探る事細かなチェックリストも掲載されていますが、ここでは混同されがちな難聴との違いや、LiDの可能性を感じたときに取るべき行動について書かれた部分を抜粋いたします!
LiDと難聴は何が違う?
LiDの聞き取りが難しくなる状況を聞いて「あれ? これ、難聴と同じ症状ではないの? どこが違うの?」と思った人もいるのではないでしょうか。
難聴の方も、聞き直しや聞き間違いが多く、雑音のある場所では話をうまく聞き取れない症状は同じです。
「相手の話が聞きづらい」ことに変わりはないのですが、LiDが難聴者と大きく違う点が、一般的な聴力検査(純音聴力検査)をしても「異常がない」ということ。
少し雑な言い方ですが、「聞こえが悪い=難聴」で、「聞き取りが悪い= LiD」です。LiDは、耳の機能は失われておらず、耳から入った音を脳で処理する段階で何かしら問題が生じ、言葉の理解が難しくなると考えられています。
LiDの実情を知るために行われた「近畿LiD/APD当事者会」によるアンケート調査でも、聴力の問題を指摘された人は14%のみと、大変少ないのです。

LiDには難聴とは異なる対策が必要
LiDの人のうち約85%は、聴力低下の指摘を受けていません。それどころか、一定レベルの音域以上がよく聞こえているケースもあるくらいです。
もちろんこれには個人差があり、一般的に加齢で聴力は衰えるため40代以降から人の聴力は低下する傾向があります。しかし、これらを含めても「難聴」とはいえないのがLiDの大きな特徴です。
LiDの中で聴力の低下を指摘された方は、加齢等により難聴が進んだ「感音性難聴」を併発しているケースがほとんどだと考えられます。
LiDと診断されている人の中の一部には、わずかながら聴力に問題がある方も存在しているのも事実です。ただし、難聴に関してはLiDとは分けて考える必要があります。

LiDと難聴は、それぞれ聞こえの悪さが同じように起こるため混同しそうになりますが、それぞれは原因が違うため対策も異なるのです。
LiDの中には聞こえすぎて混乱している人もいる
LiDの人の中には、聴覚過敏を持ち合わせる人もいます。アンケート調査でも、半数近くの人が聴覚過敏に悩まされているようです。

聴覚過敏とは文字通り、周囲の音に対して過敏に聴覚が反応してしまうこと。不快感やストレスにつながり、これも聞こえづらさを助長します。
聞き取る力に関係する脳の働きは、外から入ってくる音をすべて聞き取るのではなく、必要に応じて聞きたい音と、そうでない音を取捨選択しています。
ところが聴覚過敏があると、音を必要以上に拾ってしまうので、本来聞き取りたい音が聞こえづらくなるのです。
脳が必要以上に音を聞き取ろうと感受性を高めてしまう
聴覚過敏は、突発性難聴や内耳に問題があるメニエール病など難聴をもつ人に比較的多い症状です。一方で、聴力に問題がないとされるLiDの中にも少なくありません。とくにASD(自閉スペクトラム症)傾向がある方によくみられる症状です。
どちらも周囲の音を煩わしく感じる聴覚過敏ですが、LiDの原因は、突発性難聴やメニエール病とは異なります。
突発性難聴やメニエール病の場合は、内耳の問題により低下した聴力を補おうと、脳が音に対する感受性を最大限に高めて敏感になってしまうのが主な原因。LiDの場合は、何らかの原因で脳の音声の入力がうまくコントロールできないことで起こります。
脳が必要以上に音を聞き取ろうと感受性を高めてしまうと、雑音も全部拾ってしまうため、すべての音が大きく聞こえて耳障りに感じてしまいます。また、特定の音が苦手、甲高い音が苦手など、人によって過敏に反応する音は異なることもあります。
LiDの可能性を感じたら、まずは聴力検査を受けるべし
LiDを疑ったら、必ず行ってほしい検査が聴力検査です。LiDには、「聴力検査をしても異常は認められない」「音として聞こえているのに、言葉として聞き取れない」という2つの特徴があります。
そのため音そのものが聞こえづらい難聴とは分けて考える必要があるのです。
残念なことに、耳鼻科医でもLiDについて知らない人も多く、検査を受けられるクリニックの数は限られています。しかし、聴力検査であれば、身近なクリニックでも受けられるため、「LiDかな?」と疑うのであれば、手始めに聴力検査を受けることをおすすめします。
多くの耳鼻科でカジュアルに受けられる聴力検査を、「純音聴力検査」というので、そう伝えると早いでしょう。
もし、一定の聴力が保たれていれば、聞き取りづらさの原因をさまざまな角度から検証する必要があります。

LiDの診断は早ければ早いほどベター
LiDであるかどうかを診断するためには、専門的な医療機関で検査が必要になります。
診断できる医療機関が少ないのが現状ですが、診断は早ければ早いほどベターです。診断を受けることで、具体的な対策をとり入れることができるため、聞き取れない状況になっても焦らず、前向きになれます。
LiDの方たちの多くは、聞き取りが悪い理由がわかったことで、気持ちが楽になり、自分の置かれた状況に冷静に善処できるようになったと言います。
聞き取りづらい状況を把握しておけば、例えば人混みや雑音がする場所での会話は避ける、相手になるべくゆっくり大きな声で話してもらったりするなど周囲に理解と対策を求めることで、聞き取る力は高まります。
また、会話が難しい場所では文字変換アプリにサポートしてもらう、お願いごとはLINEやメールにしてもらうなどの判断ができます。焦らずに落ち着いた心理状態をつくることは、聞き取る力を助けるうえでも大切なことです。
このように自分の聞き取りづらさの自覚は、適切な対応を促し、聞き取る力を左右するのです。
逆に原因もわからず放置していると、「どうして自分は聞こえないんだ」とストレスを感じるだけでなく、「自分は何をやってもダメだ……」と自己肯定感を下げることにもなりかねません。
さらに加齢が重なって聴力機能そのものが低下した場合、聞き取りづらさが加速し、LiDとの区別がつきにくくなります。周囲と円滑なコミュニケーションをとり、生活の質(QOL)そのものを上げ、自分自身が生きやすくなるためにも、またLiDの症状を悪化させないためにも、できるだけ早めの診断が望まれます。
著者プロフィール
阪本浩一(さかもと ひろかず)さん
2009年兵庫県立加古川医療センター耳鼻咽喉科部長/兵庫県立こども病院耳鼻咽喉科部長(兼務)。2016年より大阪市立大学耳鼻咽喉科に赴任、2024年より医誠会国際総合病院耳鼻咽喉科診療副院長、イヤーセンター長。 耳鼻咽喉科でLiD/APD(聴覚情報処理障害)、吃音、小児難聴特に遺伝難聴、耳鼻科領域の遺伝性疾患、アレルギー疾患にも取り組む。

『聞いてるつもりなのに 「話聞いてた?」と言われたら読む本』
著者:阪本浩一
飛鳥新社 1760円(税込)
聴力に問題がないのになぜか他人の話を聞き取れない「LiD(聞き取り困難症)」。その症状と原因、シチュエーションに応じた具体的な対処法をていねいに解説します。LiDの可能性を探る本格的なチェックリストも掲載するなど、実用性の高い一冊です。
写真:Shutterstock
構成/さくま健太
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