2025年03月21日
新・心とからだの養生学 一生使い続けるために〈耳の聞こえを守るケア〉(1)
木村至信 耳鼻咽喉科医、医学博士

イラスト:小林マキ
加齢とともに耳の機能が衰えると、聞こえにくくなるのは仕方がない、とあきらめていませんか。日頃から耳をいたわることで、《聞こえ》は維持できるそう。難聴や耳鳴りに詳しい耳鼻咽喉科医の木村至信先生が、セルフケア法を指南します(イラスト/小林マキ 取材・文・構成/岩田正恵《インパクト》 デザイン/米山和子《プッシュ》)
聞こえづらさはうつや認知症につながる
年齢を重ねるにしたがい、聞こえづらさを感じる人は多いもの。「家族や周囲の人から『テレビのボリュームや話し声が大きい』と指摘されたり、人の話を何度も聞き返したりするなら、難聴は始まっているといえます。やがて会話が面倒になり、人づき合いや外出を避けることで、気力や体力が低下。音による脳への刺激も減るため、うつや認知症のリスクが上がることもわかっています」と解説するのは、難聴や耳鳴りに詳しい耳鼻咽喉科医の木村至信先生です。一般的に聞こえにくさを自覚するのは50 代から。歳だからと放置することで症状が進行し、75歳以上では実に半数の人が難聴ともいわれます。
「加齢による聞こえづらさの原因は、主に二つ。一つは耳の使い過ぎによる、聞こえの神経の老化です。もう一つが鼓膜の働きの衰えで、ほとんどのケースがこの二つの混合型。残念ながら、劣化した神経は再生しませんが、残った神経をいたわり、鼓膜の働きを活性化させることで、聞こえはある程度取り戻せます」(木村先生。以下同)聞こえの神経をいたわるためには、耳の血流改善を心がけることが大事です。「耳は冷えやすく血管も細いため、血流が滞りがち。マッサージをして血流を促すことで、神経に栄養を届け、劣化を食い止めましょう」
鼓膜の働きを活性化させるには、耳と鼻をつなぐ「耳管」がカギとなります。「耳管は、鼓膜の内側にある『鼓室』への空気の通り道。普段は閉じていて、空気が通るときに開く仕組みですが、加齢により開きにくくなります。すると、鼓膜の内側と外側の気圧のバランスが崩れ、鼓膜の変形や、働きの悪化の原因に。音がこもったように聞こえたり、小さな音や子音が聞き取りづらくなったりするのはこのためです」
耳管はトレーニング次第で開くようになるそう。
「耳管が開けば、聞こえづらさはかなり改善できます。そのためにも、耳のケアを習慣化することが肝心です」
何歳からでも聞こえはよくなる
耳のケアの第一歩は、温めることから。「耳が冷えているなと思ったら、温かい手で耳全体を包み込んだり、外出時に帽子や耳当てを着けるとよいでしょう。こめかみには耳につながる太い血管が通っているため、こめかみを中心に頭皮をもむのもおすすめです」
鼓膜の働きを改善する方法として、耳鼻咽喉科では、鼓膜を内側と外側から振動させるという治療を行います。
「鼻から空気を送ったり、耳から専用の器具を入れたりするのですが、週に2、3回の通院が必要となるため、ここで紹介したいのが『あくび耳抜き法』です。続ければ1ヵ月ほどで聞こえに改善が見られ、テレビのボリュームも下げられるはず。自宅でできて、治療と同じような効果が得られます」
耳の使い過ぎでも難聴が進みます。「テレビやラジオの音量は小さめを心がけ、視聴は3時間以内にとどめて。イヤホンは耳を密封して空気を通さないため、使うなら骨伝導ヘッドホンなど、耳をふさがないタイプをおすすめします。鼻炎など鼻の病気がある場合も聞こえが悪くなるので、耳鼻科で治療してください」
難聴が進むと、家族や周囲の人とのコミュニケーションが難しくなったり、家電の電子音、調理時の煮炊きや油はねの音が聞こえないなどの不都合も出てきます。その場合は、補聴器の使用も検討しましょう。
具体的な耳のセルフケア法は、次回から紹介します。
イラスト: 小林マキ
取材・文・構成:岩田正恵(インパクト)
デザイン:米山和子(プッシュ)
出典=『婦人公論』2025年4月号
木村至信
耳鼻咽喉科医、医学博士
厚生省の難聴遺伝子研究員としてアメリカに留学。帰国後、横浜市内のクリニックで診療開始。バンドのボーカル、枕やスピーカーの開発など、耳と声のスペシャリストとして多方面で活動中。著書に『1万人の耳の悩みを解決した医師が教える 耳鳴りと難聴のリセット法』がある
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