聴覚や視覚などが過敏に反応し、日常生活に困難をもたらす「感覚過敏」。
ピアニストの紀平凱成(かいる)さん(22)も、その症状と闘うひとりだ。
【映像】感覚過敏の天才ピアニストが奏でる音色
東京2020パラリンピック開会式でも演奏した、いま注目のピアニストだが、幼いころから、日常の音が苦痛で耐えきれない、感覚過敏に悩まされてきた。
スーパーマーケットの店内放送や、電話の着信音、LINEの通知音などなど……。
大きな音や想定していない音を聞くと、不快感や恐怖感を覚え、体に不調をきたす。
凱成さんは聴覚だけでなく、視覚過敏も抱えている。人の視線など目で見えるものに過敏に反応し、苦痛に感じる症状だ。
学校のげた箱に書かれた名前や、人の顔などが苦手だったと、母の由起子さんは語る。
凱成さんは3歳で自閉症と診断された。
言葉をうまく話せないなか、母が弾いていたエレクトーンに触れ始める。
すると歌を覚え、ピアノを弾くようになった。いつしか将来はピアニストになるという夢を抱くようになった。
しかし、聴覚過敏の症状は、ひどくなっていく。
外出もままならず、室内でも工事現場や射撃で使用するようなイヤーマフが欠かせない。
筆談でのコミュニケーションを余儀なくされても、ピアノの練習はやめることがなかった。
「もう辞めてもいいんだよと何回も言ったが、泣きながら『やめない!』って弾いていた。それは本当に強い信念」(父の延久さん)
15歳の演奏会では、ピアノに顔をそむけ、目を閉じながら演奏し、礼も目を閉じながら行った。
あらゆる音が嫌になり、観衆の視線が見られなくなっても、凱成さんはピアノを諦めなかった。
2018年に転機が訪れる。
高校2年生の時にコンサートデビューのオファーが来た。
由起子さんは「本人が『ピアニストとしてデビューできる』という話を聞いたときから、変わり始めていった」と振り返る。
ピアニストになるため、人の多いスーパーや、音が苦手だったバス・新幹線などの環境に慣れようとする日々を経て、デビューの夢を掴んだ。
凱成さんのデビュー5周年記念コンサートツアーに同行した。
初めて行く場所に慣れるため、移動は必ずコンサート前日に行う。
開催地の滋賀・米原市に到着すると、激しい雨音が。しかし「もう大丈夫」と、凱成さんは返す。
初めてのコンサート会場とあって、隅々まで下見を行う。
会場の空気感を体感しておくことで安心するのだという。
「いい感じ。ワクワクしてきたよ」
そしてコンサート本番、演奏を終えた凱成さんは、観客にあいさつする。
「今日はありがとうございました。また聴いてください。大きな拍手をしてください」
公演を終えた舞台袖、凱成さんは「お客さんの顔を見て、楽しくてワクワクした。笑顔になる気持ちだった」と、にこやかに語った。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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